悲しい時は悲しさに浸ってみる
ネガティブなときこそ、その辛い嫌な感情をどうにかしたいと思うものです。私たちは生きていく上で必ずネガティブな感情と向き合うときが訪れます。そんなネガティブな感情に対処するために大切なのが、その感情を持つことを拒否しない、ということです。というのも、人間にとって際限なく続く苦しみは、自分の考えに「禁止」を与えたときにはじまるからです。
私たちは「こういうことを考えてはいけないんだ」「元気にならないといけないんだ」「無理にでも立ち上がらないといけないんだ」ということを強く意識した瞬間に、自分の考えを抑圧してしまいます。しかしこれが逆効果で、この抑圧こそ、自分を痛めつける大きな一因になるのです。
誤解を恐れずに端的に申し上げるとすれば、「悲しい時は悲しさに浸ってみる」ということです。悲しみに浸るということ自体が、私たちがその後に前を向いて生きていけるようになるための回復のプロセスなのです。
特に私たちは、その考えを持つことによって苦しくなると予測される考えに対しては、より強く抑圧をかける傾向にあります。これは自分が意図的にやっているわけではなく、幼少期から今に至るまでの様々な経験によって身につけた、ストレスに対処しようとする無意識の作用によるものです。
辛さや苦しみを自覚すること
本当に苦しくて、一人では抱えきれないと感じたときには、一度開き直ってまわりの人に話を聞いてもらったり、同じような思いをしている人と分かち合ったりする勇気を持っていただきたいと思います。そうすることで、やがて自分はいま悲しいんだということを自らしっかりと認識し、どのようにしたらその悲しみを手放せるか、見極めるための足がかりとなるはずです。
辛さをはっきりと自覚をすることで、一時期は辛くとも、だんだんと時を経ることによってその辛さが和らいでいく可能性があるからです。
これは無理やりポジティブになることとは違います。
辛い、悲しい感情に蓋をして無理やりポジティブに考えるのではなく、ネガティブな感情をきちんと受け取って、向き合い、乗り越えたとき、私たちは自然とポジティブに考えられるようになるのです。
ですから、悲しいときは悲しみに浸り、何もしなくてよいのです。
悲しいときには悲しみに深く入り込んで寝て過ごしたり、泣きじゃくったりしてもいいということを、心に留め置いていただきたいのです。
大切なのは、適切な感情表現を通して、人間はつらさを乗り越えることができるということです。苦しんでいるということ自体が回復の過程であり、しっかりとその感情を受け取ってあげることで、自らが少しずつ癒されてゆくということを知っておいていただきたいと思います。
「精神科医がすすめる疲れにくい生き方」(川野泰周)より
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