現代人はストレスに気づくのが苦手
私たち人間が持っている能力の一つに、「自分の内面で起こっていることを感じ取る能力」があります。これを専門的には「内受容感覚」と呼んでいます。
しかし情報過多の現代においては、外部からの情報を処理することに注意資源が使われてしまうため、自分の内面に向けることのできる注意資源がとても少なくなっていると考えられます。
映像の解像度や音のクオリティも外部からの情報のひとつです。これらが急速に向上しているのに対し、私たち人間の側の処理能力、つまり脳の機能はほとんど変わっていませんから、当然の結果として、これらの情報量に耐え切れず、脳が疲れ切ってしまう可能性があるのです。
つまり、外部からの情報ばかりに気を取られて内受容感覚が低下していることが推定され、これによって自分自身が抱えているストレスに気づくのが苦手になっている可能性があるのです。言い換えますと、「自分の疲れや悩みに気づけなくなっている」ということです。
「気づく力」を養い、疲れを察知する
私たちは自分の疲れに気づけなければ、それを軽減させようとか、休ませてあげようとは思いつきません。つまり疲れを知ることができなければ、疲れを解消させることもできないのです。これが、気づく力が低下すると疲れやすくなるメカニズムと考えられます。
とはいえ、自分の内面ばかりに意識をむけていればよい、ということではありません。人間の持つ気づきの能力は自分の内側への気づきと外側への気づきがセットになっています。
外側といっても、先に述べた外部からの情報ではなく、「今ここ」に意識を向け、できる限りシンプルに考えること、感じること意味しています。
道端に咲いている花が綺麗だと思うこと、空の青さ、風の心地よさを感じること、そんないつでもできることを習慣にしていきましょう、気づきの能力全体の能力を高めることになり、自分の内面で起こっていること、体の疲れ、心の疲れ、脳の疲れに対しても、鋭敏に察知することができるようになります。
そして、「これは心の疲れみたいだから、休日はリラックスできる場所で過ごそう」とか、「だいぶマルチタスクの仕事で脳が疲れているようだ。帰宅後はデジタルデトックスをしてみよう」といった具合に、適切なセルフケア法を見つけられるようになるでしょう。
自分のオアシスを見つけよう
ニュースやSNSなど特定の端末を通して入ってくる情報は、「電源を切る」あるいは「アプリを閉じる」という方法で自らシャットアウトできます。しかし、現代の世の中では普通に生活しているだけで意識しなくても、大量のデータが人工的な音や映像を通して、知らず知らずのうちに脳に入ってきています。
そのため膨大な情報の流入をシャットアウトするために、あえて何も情報が入らない、デジタル機器のない環境に身を置いて、情報にあふれた脳をデトックスする必要があるのです。
生活の中に自分なりのオアシスを持っておくことをおすすめします。家の近くの公園やお気に入りのカフェなどで構いません。次の3点を満たしているとなお良いです。
・ 他人の視線が気にならない場所
・ 人とあまり会話をしなくてもよい場所
・ 海、川、山、植物など自然を感じられる場所
世の中に流れる情報が増えれば増えるほど、私たちは今この瞬間に注意を向けたり、気づいたりすることがとても苦手になっていきます。そして、これからも進むオンライン化とインターネットの高度化を考えると、脳に入力される情報が減るということは考えられません。
だからこそこの機会にぜひ、自分のオアシスがどこなのか考えてみていただければと思います。
疲れにくい生き方とは、「自分の疲れに気づき、それを適切に解消することのできる生き方」のことを指すのです。
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「精神科医がすすめる疲れにくい生き方」(川野泰周)より
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