ご自分のご両親の持っている病気や、いま飲んでいるお薬はどんなものがあるかなど、把握されていますか? さらに、お祖父さんやお祖母さんについては、どうでしょうか?
やはり、遺伝の影響は大きいものです。例えば、明らかに遺伝病である神経難病や代謝の異常はもちろんですが、大腸がんや乳がんといった悪性腫瘍や、生活習慣病である高血圧や2型糖尿病、アルツハイマー型認知症といった病気は遺伝の要素が比較的大きいことがわかってきています。
純粋に親から引き継いだ遺伝子の影響で病気を受け継いでしまうケースがあるほか、生活環境の影響や、生活習慣が似てしまう影響もあります。親がピロリ菌陽性であれば子どもも陽性のケースをよくみかけます。すると当然、親子とも胃潰瘍や胃がんといった病気にかかりやすくなりますね。
また、親が喫煙者だと子どもも喫煙者になりやすく、親子ともに動脈硬化による病気を起こしやすくなるといったケースがあります。このように考えていくと、親や祖父母の病気は将来自分にも起こる可能性が高いと考えて、十分注意するのがよいですね。
祖父母どころか両親の病気、健康状態についても全然知らない、関心がない方がいらっしゃいます。そういえば、と思い当たる方は、ぜひ自分の家系が過去にどんな病気や手術をしていて、また現在どんな病気があってどんな薬を飲んでいるのか、一度確認してみることをおすすめいたします。
家系に気になる病気があったら?
それでは、もしご自身の家系で気になる病気があったとき、どのように対策したらよいか? 主なものを解説いたします。
【胃がん 胃潰瘍 十二指腸潰瘍 逆流性食道炎(いわゆる胸焼け病)】
上記の病気は、ピロリ菌感染症が密接に関係しています。ピロリ菌とは、胃に感染する病原菌です。
日本でのピロリ菌の感染者数はおよそ6000万人にものぼるといわれています。ピロリ菌に感染していると、年齢とともに萎縮性胃炎といって、胃の粘膜がじわじわとピロリ菌の炎症で破壊されていき、荒れてしまった粘膜が、やがて胃がんの発生源となってしまいます。
厚生労働省は40歳からの胃がん検診を推奨していますが、家系にピロリ菌陽性者がいる場合や、気になる症状がある場合は早めのピロリ菌検査がおすすめですね。ピロリ菌の抗体と胃の元気さの指標のペプシノゲンを血液検査で検査するABCD検診もおすすめです。
【大腸がん/大腸ポリープ】
大腸がんの約9割は、まずは大腸ポリープができ、その後ポリープが悪性化して大腸がんになります。大腸がんの約5%は、遺伝性であることがわかっています。
具体的には、①遺伝性非ポリポーシス大腸がんと、②家族性大腸ポリポーシスという遺伝病があります。
①は常染色体優性の遺伝病(どちらかの親が持っていれば、確実に子に遺伝する)で、大腸がんのほかにも子宮がんや胃がんが起きやすく、30代でも発がんすることがあります。
②も常染色体優性の遺伝病で、大腸に多数のポリープができ、やがて発がんに至るという病気です。平均して10代でポリープができはじめ、未治療だと平均40歳前後で発がんに至ります。
このほかにも、大腸がんの約20%でなんらかの遺伝の要因がかかわっていると言われています。家系で大腸がんの方がいる場合はもちろん、大腸のポリープができたことがある方がいるなどの場合は、大腸がんのリスクを考えて、40歳からきちんと検診を受けることをおすすめいたします。
日本の大腸がん検診は便潜血検査が基本ですが、便潜血検査だけですとどうしても見逃しも発生します。心配な方は、人間ドック等での早めの大腸内視鏡検査も検討してみるとよいですね。
このほかにも、乳がんや卵巣がんなど遺伝性が高いがんがあります。そのほか、高血圧や2型糖尿病も遺伝性が指摘されています。ご両親や祖父母が持っている病気はご自身にも起こりやすいものと考えて、早め早めに予防を心がけたり、検診を受けていくことをおすすめいたします。
医師がすすめる エビデンスベースの「体にいい」食習慣(著:CHIEKO)より
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