悩みの9割は人間関係
悩みの9割は人間関係といわれるとおり、悩みが他人との問題である方は多いのではないでしょうか。
他人とうまく関わるためには相互理解が大切です。しかし、一度辛い思いを経験したことを、他の人との関係にも当てはめて人間関係がうまくいかなくなるパターンも存在します。
たとえば、以前に両親と衝突をしてうまく話を聞いてもらえなかった、教師にも自分の意見を聞いてもらえなかった、という経験を持つと「他人とは結局わかり合えない」というような変容しえない(と自分が思い込んでいる)法則を自分の中につくり出してしまうかもしれません。
つまり、自分以外の他人とうまく関わるための手段として「諦める」という方法をすべての方との関係で選択してしまうのです。これは生きてきた中での経験に裏付けされたもので、私たちは誰しも自分独特のものの見方を持っているものです。
自分の「色眼鏡」をチェックしよう!
しかし、今お伝えした例のように、ネガティブな結論を導いてしまった場合、自分の人間関係がかえってうまくいかないことも起こってしまうのです。
私たち人間が何かを体験した際に必ず生じる、意識されないうちに自動的に起こる心の反応のことを、心理学的には「認知」といいます。
今までの自分の体験からくる先入観や知識によって、体験が修飾されて感じられるのです。「認知」とはこの修飾のことを指します。
この認知は他の人と関わり合いながら生きる上では大切なもので、私たちは誰でも持っているものなのですが、それが良くない方向にゆがんでしまうことがあるのです。
認知が極端にネガティブな性質を持ったものになっている場合、それを「認知のゆがみ」と呼びます。認知のゆがみとは、私たちが世界を見るときに自分の心の奥底で、勝手に解釈や偏見をまじえて判断してしまう「色眼鏡」のことです。
先ほどの、「他人とは結局わかり合えない」というものの見方は、「過度の一般化」という心の反応パターンに陥っている可能性が考えられます。これは読んで字のごとく、「一つの事柄を、すべてに通じる法則だと勘違いしてしまっている状態」のことを指しています。
身近な人とうまくわかり合えなかった、という経験を繰り返すことによって、世の中の誰ともうまく関わることができないという概念化が心の中に起こる、これこそが一般化し過ぎている状態です。この一般化の作業が行われると、私たちは無意識にその失敗の体験ばかりを強く印象付けてしまうのです。
危機回避のためのものなのに悩みの原因に
しかし、現代においては少々事情が違います。皮肉なようですが、こうした危機回避能力を人間社会の中で発揮してしまうと、色々な問題が起こってしまい、かえって悩みに繋がってしまうのです。
親子関係では特にこうした反応が顕著です。幼少期、たまたまお父さんにわかってもらえない、お母さんにわかってもらえない、という経験をした人が、大人になってから世の中の誰にも理解されないという思いを手放すことができず、円滑な対人関係を結ぶことが難しくなってしまう。こうした悩みを抱えている方は非常に多くいます。
もちろん、「一般化」という心の現象自体は本能的な反応であって、最初から無くすことはできませんし、あらゆる「一般化」がダメというものではありません。ただ、そうした心の特性を自らが持っているということに気づいて、不必要なところまで過度に一般化していないか、冷静にチェックしてあげることが大切なのです。
「精神科医がすすめる疲れにくい生き方」(川野泰周)より
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