人間の生物としての最大寿命は、およそ120年。年々、この最大寿命近くまで長生きする人々が増えています。これは喜ばしいことですが、中には「老後の人生が長くなるだけじゃないか」と心配になる人もいるかもしれません。
確かに、身体のあちこちに不調を抱え、世の中の楽しみを充分に味わえない状態で80歳からの40年を過ごすとしたら、それは憂うつなことです。
しかし、その心配は不要かもしれない。この長くなった人生を健康で幸せに過ごすうえで、近年、明らかになった重要な事実があります。現在われわれが「老化」、つまり自然な加齢現象と思っていることの大部分は、実は病気、あるいは病的な状態によるもので、「予防可能」かもしれないということです。
頭にはちらほらと白髪が目立ち始め、あるいは髪が抜けて頭皮が見えるようになり、その一方で耳や鼻には余計な毛が生え始め、顔には皺やシミが現れます。さらに両腕を伸ばし書類を遠くに離して読むようになり、人の名前や物の名前が出てこなくなります。おまけに内臓は疲れ果ててあちこちに不調が生じ、そのうちに加齢性疾患を発症。加えて筋肉は弱って関節は痛み、自力での生活も難しくなっていく──。
こういった老化現象は、本来、起こるべき時期に起こっているのではなく、実は健康状態を害したために、かなり前倒しに起きています。要するに、「老化だから仕方がない」とあきらめることはありません。治療とケアで「予防」も「回復」も可能かもしれないのです。
老化は病気状態。予防や治療で遅らせられる
実は、老化が病的状態であること自体は半世紀も前から知られていて、老化研究者でアメリカ医師会の権威でもあったウォルター・ボルツ医学博士は「人間という機械は、設計されたほどには長持ちしていない」と言い残しています。
当時は老化に対する効果的な治療法が確立されていなかったが、その後、医学の進展によって、いくつかの老化現象に対する治療法が実現しました。
さらに近年、老化を極限まで抑制する可能性を持つ、非常にエキサイティングな研究結果が発表されました。動物実験において、全身の組織や臓器を若く保つだけでなく、若返らせる効果が示された物質が見つかったのです。
最新の知識と技術を結集して老化を最大限遅らせることには、重要な価値があります。過去の「アンチエイジング(抗老化)医療」は、たんに「見た目」を若々しくするなど、老化を隠す美容領域のものが中心でした。そのせいで「老化は自然なこと。受け入れてはどうか」「老化に抵抗しようという考え方は、果たして健康的な思考なのか」と反発を覚えた人々も少なくなかったと思います。
しかし「老化は自然な現象ではなく病的状態」という概念が提唱され、予防する手段も続々と開発が進められている今、ただ手をこまねいて老けていくのは、命を尊重する姿勢とは言えません。
これからのアンチエイジングは、細胞レベルで老化を遅らせ、全身の組織や内臓、その機能をこれまでよりずっと長く、若々しく保つことが目的です。これによって、数々の加齢性疾患も予防できると推測されています。
つまり健康で自立して活動できる「健康寿命」を延長することになります。
一流のヘルスマネジメントを心がける人にとって、すでにアンチエイジングは欠かせない視点となっています。そして人生100年時代を迎えていること、健康長寿のためのさまざまな医療が登場していること、こうした背景のもと、ヘルスマネジメントの方針も「健康のため身体を酷使して鍛えよう」という考え方から、「いかに身体を長持ちさせるか」という考え方にシフトしています。もちろん、ケアやトレーニングについても変わりつつある状況を迎えています。
「男のヘルスマネジメント大全」(著:石川雅俊)より
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