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焼肉や揚げ物を食べながら、「トクホ飲料」を飲む、仕事帰りの飲み会風景。
TVCMでそのような光景をみると、あたかも摂取した脂肪や糖分が「トクホ」に打ち消されて無くなるようなイメージを抱きます。
TVCMの中だけでなくても、日々の職場で、コンビニで揚げ物のお弁当やカップラーメン、沢山のお菓子と共に、まるで免罪符のように「トクホ」をセットで買う上司や同僚を見たことはありませんか?また近年はお茶などではなくトクホのコーラも出現しました。
「トクホを飲んでいるから、これくらいは許されるでしょ」 とニコニコ顔で言う上司。心配です。
果たして本当に「トクホ」にそこまでの効果はあるのでしょうか。
そもそもトクホって何?
「トクホ」は「特定保健用食品」の略称です。「特定保健用食品」は1991年に導入された制度であり、健康増進法に基づいて、日本政府から「摂取により(血圧や、血中のコレステロールを正常に保つ、お腹の調子を整える、などの)特定の保健の目的が期待できる」と認められたものです。
歴史にして導入から26年も経過している制度であり、近年は製品の幅も増え、お茶や油に加え、ガム、シリアル、カップスープ、ゼリー、マヨネーズ……様々なものに 「トクホ」を名乗るものが出てきています。
「トクホ」の代表格である、「トクホ飲料」の推移をみると、まさに「トクホ飲料」 の代名詞であろう「ヘルシア緑茶」「黒烏龍茶」は、「メタボリックシンドローム」 が流行語となった2006年前後、第一次トクホ飲料ブームの立役者でありました。
そして近年、第二次ブームの立役者となったのが、2012年4月発売の「キリン メッツ コーラ」。「コーラ」というどちらかというと不健康な印象を抱く飲料に、「トクホ」を着せることによってイメージの逆転を図り、今まで「トクホ」に縁のなかった 若者までも、「トクホ」の世界に引き込んだのです。
「トクホ飲料」はもはや、老若男女にとってのヘルシードリンクになりつつあるのです。
実験によれば、脂肪抑制効果は…
さて、そんな、発想の大転換をもたらした「トクホ・コーラ」。 本当に「ヘルシードリンク」として足る効果があるのかどうか、根拠となる論文をあたってみました。
「トクホ・コーラ」の代表である、「キリン メッツ コーラ」、「ペプシスペシャル」とも、これらを「トクホ」たらしめている成分は共通で、「難消化性デキストリン」という水溶性食物繊維です。
この「難消化性デキストリン」が、「食事から摂取した脂肪の吸収を抑制し、排泄を増加させる」(と製品に記載されています)というわけです。
その根拠となった論文は、いくつかありますが、ヒトを対象とし、比較的対象人数の多い論文は、「薬理と治療(2010年38巻7号)」という日本の論文誌に掲載されていました。
タイトルは「難消化性デキストリン配合炭酸飲料の食後中性脂肪上昇抑制効果の検討」。
【1】まず、有償ボランティアから、事前検査にて「空腹時血中中性脂肪値がやや高め(120〜200mg/dL(正常:150mg/dL未満))である健常な男女90名(男性69名、女性21名)」を被験者として集め、検査前の中性脂肪を均一となるように2群にランダムに分配。
【2】空腹状態で採血を行い、採血後1時間以内に負荷食と被験飲料、あるいは負荷食と対照飲料を20分以内で摂取させ、摂取2、3、4、6時間後に採血を行いました。
※負荷食…ハンバーグ1食分、フライドポテト50g、バターロール2個とし、 総脂質量は41.2g。
※被験飲料…「1本(480ml)あたり難消化性デキストリンを5g配合した炭酸飲料」。対照飲料…「難消化性デキストリンを含まないこと以外は原材料が被験飲料と同一である炭酸飲料」。
【3】摂取 6時間後の採血が終了するまでは少量の水以外は摂取禁止、運動はせず、座って安静にした状態で試験を受けてもらいました。
血液検査の項目は、「中性脂肪、各種コレステロール、血糖、インスリン」などです。
結果として、被験者90名の背景は、年齢42.8±7.7歳、身長168.4±7.3cm、体重 74.0±10.6kg、BMI26.1±3.1kg/m^2でした。被験者90名のうち、試験期間中に体調不良を来した者、明らかに脂質代謝異常があると医師が判断した者などが除外され、実際には82名に対し結果が検証されました。
血中中性脂肪値の推移は、被験飲料とも対照飲料とも同様のパターンとなり、負荷食摂取4時間後までは上昇し、その後低下しました。これは正常な食後の反応です。
そして被験飲料摂取群の血中中性脂肪値は、対照飲料摂取群のそれと比較し、負荷食摂取2、3、4時間後で統計学的に有意に低い値を示しました。
さて、ここまでだと、「トクホ・コーラ」は少なくとも「コーラ」に比べ、食後の血中中性脂肪値を下げるため、ヘルシードリンクの名に準ずるような気がしてきます。