「はたらく人のコンディショニング事典」(著:岩崎一郎、松村和夏、渡部卓)より
プレゼンや交渉の直前は、呼吸が浅くなって冷や汗をかいたり、心臓がどきどきしたりしますよね。そんな状態でもベストパフォーマンスを発揮するためには、上手なリラックス方法の知識が不可欠です。今回は緊張をほぐす方法を厳選して3つご紹介します。
リラックスの鍵はセロトニン
そもそも緊張するとき、脳では何が起こっているのでしょうか。このとき、脳からはホルモンが分泌されています。 ストレスがかかると興奮系のホルモン分泌が高まり、身体を緊張状態に導くのです。
私たちの身体は基本的に緊張・弛緩(食事など)のリズムを刻んでいます。仕事中はやむを得ず、ほぼずっと緊張状態にあると言っていいでしょう。一日のうち緊張状態で過ごすことが多くなると、脳はそれに慣れてしまいます。その状態で興奮状態に陥ると、知らぬ間に大脳に疲労が蓄積されていきます。すると、交感神経(興奮)と副交感神経(リラックス)の切り替えがうまくできなくなってしまいます。不安、緊張、怒りの感情でこり固まり、他のことを考えられなかったり、目の前のことに集中しきれないということが起こるでしょう。動悸、息切れなどの症状も現れます。この状態が慢性的に続くことは、脳にも体にも良くありません。放っておけば、うつ病にかかってしまう可能性だってゼロではないのです。
この興奮状態を緩和するには、身体をリラックスさせるホルモン「セロトニン」の分泌が必要です。 セロトニンは、気分を安定させる作用があり、不足するとうつ病になりやすいと言われています。
しかし、セロトニンの分泌を薬に頼ってしまうのは健康的ではありません。薬以外でセロトニンを増やす3つの方法を見ていきましょう。
①腹式呼吸
お腹を使って大きく深く、ゆったりと息をする。腹式呼吸には、不安や緊張をほぐ し、心を落ち着かせる効果があります。
それには、腹式呼吸による横隔膜の動きと、それを受けて脳から放出されるある物質 が関係しています。ゆっくりと深く大きな呼吸をすると横隔膜が動きます。すると筋肉 内のセンサーからインパルス(電気信号)が発射され、脳幹の呼吸中枢を刺激します。 特に息を吐くと横隔膜が上がり多くのインパルスが発生するので、吸うよりも吐くこと に意識を向けて行うと快楽物質も増え、より高いリラックス効果を感じることができま す。
腹式呼吸のポイントは2つ。
・体内の息を全部ゆっくり吐き出してから、またゆっくりと鼻から吸うこと。
・吸うより吐く息を倍以上に長くすること。
この2つを意識しながら行えば、確実にリラックス効果を感じることができるでしょう。
ここで初心者の方へ注意。
呼吸を意識しすぎたり、緊張して息ばんで苦しくなってしまうのはよくありません。あくまで静かに、ゆっくり、無理のない範囲でいいのです。意識もお腹のあたりの体内に向けることが大切です。
我々は目に見える体を太ったとか、色が白いとか、髪が伸びたとか意識することはありますが、日頃世話になっている体内には目を向けることがありません。この腹式呼吸のときに内臓を意識して、いとおしむような、感謝をするような気持ちをもって腹式呼吸をしてみると良いでしょう。
雑念や不安や怒りの感情なども、呼吸と一緒に吐き出してください。目をつむりなが
ら、森林の新鮮な空気を吸い込むことを想像するのです。こんな方法で不安障害やうつ
などを軽減させることに成功した人、過度の飲食の悪い癖を軽減させることに成功した
人たちも多くいます。
②無駄な力を抜く「自律訓練法」
「ホ・オポノポノ」という言葉を聞いたことがありますか? ハワイの伝統的なセラピーで、うつや不安でどうしようもなくなったときに「ありがとう」「ごめんなさい」「許してください」「愛しています」の4つの言葉を無心に何度も唱えるだけ、というシンプルなものです。
ドイツの精神科医シュルツ博士によって開発されたセルフリラクゼーション「自律訓練法」でも、同じように言葉の暗示を使って心を落ち着かせます。臨床的に広く認めら れるこの方法は、心の中で言葉を唱えると同時に呼吸も安定させ、意識的に副交感神経 の作用を高めます。自律神経の働きを整え、ストレスによる心と体の緊張を解きほぐす ものなので、筋肉がゆるむ、心拍数が落ち着く、暑い時でも涼しく感じる、寒いときは 逆にホカホカしてくるなどの効果があり、緊張感や不安感、抑うつ感も軽くなります。
自律訓練法のやり方
①姿勢から整える
時計やネクタイ、アクセサリーなどの装身具は外して、締めつけのない状態にします。軽い前傾姿勢で椅子に座り、両手をひざにのせ、足は肩幅くらいに開いて軽く全身を脱力させます。
仰向けで行っても同じ効果が得られ ますが、その場合も無駄な力が入らないように足は肩幅ほどに開くようにしてください。
②心の中で「気持ちが落ち着いている」と3~5回くり返す
③「両腕が重い」と ~ 秒ほどゆっくり唱える。
実際に両腕が緩んで重たいと感じられる ようになるまで待ってください。「重たいな」という感覚が出てきたら、意識する場所 を変えます。「両足が重い」と「両腕、両足が温かく、そして重い」というフレーズで 同じように暗示をかけます。
④ゆっくり立ち上がり、手を前に伸ばしなが ら握ったり開いたりする。
⑤そのまま手を天井に伸ばして、重たい感覚を「エィ」と吹 き飛ばすようなイメージで背伸びをする。
これだけでも十分ですが、「心臓が規則正しく打っている」「楽に息をしている」「お 腹が温かい」「額が涼しい」などのフレーズで暗示の回数を増やしてみると、さらに体中から無駄な力が抜け、穏やかな気持ちになっていきます。