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「緊急事態」をどう伝える? 気象予報士が教える、トラブルを防ぐ伝え方

Written by 石上沙織

「最強台風」「記録的な暴風」「命を守る行動を」-今年は気象災害が多く、テレビや新聞、インターネットニュースなどで、このような見出しが躍ることがよくありました。気象災害が増加する中、私たち気象予報士が皆さんに「重要な情報」を伝える機会も増えてきました。

今回は、ビジネスパーソンの皆さんにも役立つ、「重要な情報」を伝える際に心がけるべきことを紹介します。

重要な情報こそ、端的に伝える

重要な情報というのは、時間が差し迫った中で伝える、ということが多くあります。例えば、事故などの緊急事態や、お客様からのクレームなどが挙げられるでしょう。話す内容を整理する時間がないまま、伝えなければならないこともあると思います。

そんな中、陥りがちなのが「一文が長くなってしまう」こと。ではここで、以下の文を声に出してみて読んでみてください。


「天気予報をお伝えしますが、台風〇号が伊豆半島の南に位置していて、まもなく静岡県か関東地方に上陸する見込みですが、この台風は大型で非常に強い勢力を保っていますので、記録的な大雨となるおそれがあり、場合によっては特別警報が発表されますので、最大限の警戒が必要でして、早めに避難所に向かうなど、身を守るための行動をとるようにしてください…」


読んでみて、いかがでしたか?

長々と説明している割には、何を言いたいのかよくわからない文になっていないでしょうか。

極端な例だと思うかもしれません。でも実は、私が話し方教室や講座でお会いする半数以上の方が、このような一文の長い話し方をされています。

一文が長いと、聞き手は話を理解することが難しくなります。途中で飽きてしまったり、苛立ったりする人もいるでしょう。特に、時間が差し迫った中で重要な情報を伝える場合、一文が長いことがトラブルにも繋がりかねないのです。

一文を短くするには、とにかく普段から意識することが大切です。普段の会話から、句点(“、”)ではなく、読点(“。”)で区切ることを心がけるのです。気づいたときに読点(“。”)で区切る、という意識でいれば、いざという時にも端的に話すことができるはずです。

 

ポイントの数を予告する

私がテレビやラジオ、インターネット動画などで天気を解説するとき、よく使うのが「ポイントの数を予告する」ことです。

例えば「今回の台風、注意していただきたいポイントは3つです」のようなイメージです。

時間が差し迫った中では、聞き手も焦っていたり、混乱したりしていることがよくあります。そこで、数を予告してあげることで、聞き手の頭の中が整理しやすくなるのです。

ただし、ポイントの数が多くなりすぎると、逆効果です。人間の脳が整理できるのは「3つ以内」といわれているので、ポイントの数も「3つ以内」に絞っていきましょう。

 

「数字」と「情報」を紐づける

ビジネスシーンでは「数字」を使って伝えることがよくあります。売り上げや達成率、シェア、顧客満足度など、どの業界においても「数字」は「重要な情報」です。

天気の解説においても、降水量や風速、気温など、「数字」は欠かせません。ただ、単純に「数字」だけを伝えても、相手に理解してもらえないことがあるのです。

例えば「1時間に30ミリの雨」といったら、皆さんはどんな雨か想像できますか? 首をかしげてしまう方が多いのではないでしょうか。

では「傘をさしても濡れるような雨」「道路が川のようになる雨」といったらどうでしょうか? 数字だけを伝えられるよりは、イメージしやすくなりますよね。

このように数字を使って伝える際は、他の数字と比較したり、比喩を使ったりして「数字と情報を紐づける」ことが大切です。

「来期の目標は〇〇〇円にしよう」と言われてピンと来なくても、「来期の目標は、今期実績の1.5倍にあたる〇〇〇円にしよう」と、他の数字と比較して伝えられればイメージがわきます。

また、比喩を使う際の注意点は、聞き手が想像できるようなたとえを使うこと。

よく広さを示すたとえとして「東京ドーム〇個分」が使われますが、東京ドームがどんなものかを知らない人に使っても、想像ができません。どんな情報と紐づければ、相手は納得するのかを考え、伝え方を工夫していきましょう。

 

いざ、話し始めるときは「PK」と同じ

「重要な情報」を伝えるとなると、緊張してしまう方が多いでしょう。私たち気象キャスターも同じです。普段の放送はもちろんですが、台風や大雨などの解説は特に注目度が高く、緊張感も増すものです。

そんなときこそ、話し始める前に一呼吸おく習慣をつけましょう。私はよく「話し始めは、サッカーのPKと同じ」と伝えています。サッカーの試合を見ていると、PKを蹴る選手はボールを置いてすぐ蹴るようなことはしません。ゴールキーパーの位置や軌道を考えるのはもちろんですが、自分の心を落ち着かせるために呼吸を整えてから蹴っています。

話し始めるときも、まずは一呼吸。それから、自分では大げさなくらいゆっくり話すことを心がけてみましょう。ゆっくり話すことで、脳が「今、自分は余裕があるのだ」と錯覚し、落ち着きを取り戻すことできるといわれています。

とはいえ、私自身も早口になってしまうことがあり、録画した放送を見ては振り返りを行っています。「伝え方」の上達のためには、試行錯誤を繰り返しながら、どうしたらよりわかりやすく伝わるか、探求することが欠かせません。

 

いざというときのために練習を

「重要な情報」を伝える際に心がけたいポイント、いかがでしたか。「伝え方」については、頭で理解するだけでなく、実践して慣れていくことが一番です。いざ「重要な情報」を伝えるときに慌ててしまわないよう、普段のちょっとした報告や会議での発言などから、今回お伝えしたポイントを意識するようにしてみましょう。

About the author

石上沙織 

気象予報士・スピーチトレーナー

2007年からNHK岐阜放送局、2010年からはNHK名古屋放送局でキャスターとして勤務。2013年に気象予報士試験に合格。現在は気象キャスターとして「TBS NEWS」「TBSラジオ」「Yahoo!天気・災害動画」にレギュラー出演中。これまでの経験を生かし、スピーチトレーナーや企業研修講師としても活動している。

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