記憶することが得意になると、自分が見ている世界も変わっていきます。
何かを記憶すると、日々の生活のなかでそれに近いものに触れたときに気づきやすくなります。そうして、覚えた知識が増えていくにつれ、周りの世界がより解像度高く見えるようになるのです。
たとえば、ロマネスコという野菜があることを新しく覚えたとします。そうすると、いつも行くスーパーでも実はロマネスコが販売されていたことに気づいたり、美味しそうなイタリアンレストランのメニューにロマネスコの文字を発見したりします。
それまでも同じように目にする機会はあったはずなのに気づかずに通り過ぎていたのが、ロマネスコという言葉を覚えてアンテナが立ったことで、関連する情報をキャッチできるようになったというわけです。
このような変化は実体験として思いあたることがある人も多いでしょう。
記憶を増やすと、日常生活の中に記憶したことに関連するものが実はたくさんあったことに気づきます。これまで認識していなかったことを認識するようになる。それはつまり、世界がより鮮明に見えるようになることだと言っても過言ではありません。
知識が増えると解像度が高くなる

別の例を挙げましょう。
雪が多く降る地域では、雪を表現する言葉が細分化されていますが、雪が降らない地域ではそれがありません。それと同じように、知識が増えることで世の中に対する認識の粒度が細かくなっていきます。
同じように思えることでも、細かく区別できて、違いがわかることで、さらに世界のことを詳しく知りたいという気持ちが湧くようになります。
記憶することが苦にならなければ、娯楽の幅も広がります。なぜなら、複雑なエンターテインメントも楽しめるようになるからです。
単純なところでは、歴史ものなどの登場人物が多い映画を楽しもうとしたとき、登場人物が覚えられないと「これって誰だっけ?」と、話の本筋とは違うところに気を取られて、純粋に楽しむことができません。
さらに、同じ映画でも、描かれている内容の背景について詳しい知識を持っているかどうかで、映画の理解度や感じ方もちがいます。絵画や音楽といった文化についても同じことが言えるでしょう。
「記憶」でコミュニケーションが円滑に

記憶には、人とのコミュニケーションを円滑にする効果もあります。
ビジネスシーンで相手の顔や名前を覚えられないと悩んでいるビジネスパーソンは、思いのほか多くいます。とくに営業職など、新しい人たちと出会う頻度が高い職種の人にとっては、頭を悩ませる問題です。名刺を交換したときに、その人の特徴や話したことをメモしておく、といった方法を実践している人もいるでしょう。
話すときには相手の名前を呼ぶようにすると、好感度が上がるとも言われています。久しぶりに会ったときに、「あれ? この人の名前、なんだっけ?」と思っていたら、それだけ相手とよい関係を築くチャンスを失っていることになるのです。
また、人間関係を円滑に進めるには雑談も大事です。
教養ブームは記憶の大事さが認識されている証拠だと、先ほどお話ししました。記憶によって深まる教養は、他人との話のタネにもなります。そう考えると、記憶は人間関係の問題解決にも役立つスキルだといえるのではないでしょうか。
『記憶はスキル』(著:畔柳圭佑/くろやなぎ・けいすけ)より
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