記憶は「記銘」「保持」「想起」という3ステップから成り立つとされています。
「記銘」は、新しいことを自分の脳にインプットすることを指します。つまり、「覚える」ことです。
「保持」は、そのまま脳に保存しておくことを意味します。覚えた状態を維持して、忘れないことと言い換えることもできます。
「想起」とは、適切なタイミングでインプットしたものを取り出すことで、簡単に言えば「思い出す」ことです。
しかし、その3ステップ以前にも意識すべき大事なことがあります。それは、「なにを覚えるのか」。つまり、記憶する対象を決めることです。
あたりまえに聞こえるかもしれませんが、なにを覚えるのかが明確に定まっていないばかりに、効率的に覚えられない場合が少なくありません。
記憶のステップは次のとおりになります。
○ステップ1:なにを覚えるのか決める
○ステップ2:覚える
○ステップ3:覚えた状態をキープする
○ステップ4:適切に思い出す
つまり、覚えたいものを、いきなり覚え始めるのではなく、「なにを覚えるのか」を決めてから覚え始める必要があるということです。
「なにを覚えるかを決める」と聞いて、違和感を覚えたかもしれません。
そもそも記憶すべきこと、記憶しなければいけないことがあって、それが記憶できないから悩んでいるんだ! という声が聞こえてきそうです。
でも、この「なにを覚えるかを決める」ことは、とても重要なステップです。
覚えることを決めるときに、ちょっとしたコツがあります。それは、覚える対象を「覚えやすいかたちで定義しておく」ことです。
覚えやすくするコツ

「覚えやすくする」とは、具体的にどういうことでしょうか。
覚えにくいものを覚えようとする例を考えてみましょう。
ビジネスパーソンは学生よりも、より複雑で長い概念を覚えなければならないことが多々あります。たとえば、昨今よく耳にする「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉とその概念を覚えたい場合はどうでしょう。
「DX」を経済産業省が定義したのが、次の文章です。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
(出典:経済産業省ウェブサイト)
これをそのまま覚えようとしても、なかなか頭に入りません。 覚える対象がひとつのまとまりとして大きくなりすぎてしまうと、覚えることの負荷が大きくなってしまうのです。
そこで、文章中に含まれるキーワードの数を、短期記憶で説明したチャンク数と同じ「7±2」の範囲におさまるように自分で言語化しなおす必要があります。
この場合、「データ」「デジタル技術」「ビジネスモデル」「業務」「組織」「変革」というように、6個程度のキーワードで定義しなおしてみます。
データとデジタル技術を活用して、ビジネスモデル・業務・組織を変革する
これなら覚えやすいのではないでしょうか。こうした概念は、なるべくシンプルにするのがコツです。
これでも記憶しにくそうだと感じる場合、DXを定義するときに使った単語(たとえば「デジタル技術」や「ビジネスモデル」)が自分のなかで定義できているかを確認してみてください。
このステップでよくある失敗は、記憶すべき対象を決めずにあいまいなまま覚えようとすることです。
それらの単語が自分の言葉で説明できないようであれば、「DX」を定義したのと同じように、「デジタル技術」や「ビジネスモデル」を7±2個の要素で構成された文で定義して、それを記憶するところから始めてみるのがよいでしょう。
より複雑な内容を覚えたいなら、ベースとなる記憶ができたあとに、少し複雑な情報を追加していくと効率的です。莫大な量を一気に記憶するのではなく、少しずつ深めていくことを意識してください。
『記憶はスキル』(著:畔柳圭佑/くろやなぎ・けいすけ)より
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