「自分を変える習慣力」(著:三浦将)より
「傾聴」の習慣とは?
こちらの記事では、主に仕事上でのコミュニケーションの習慣を例にお話をしていきます。上司という視点で例を挙げることが多くなりますが、これからお話しすることは、すべての方にとってとても大切なコミュニケーションの習慣です。今のご自身の習慣と照らし合わせて読んでみてください。
ここで、人間関係を良くするコミュニケーションの習慣として、まず始めに、傾聴の習慣について触れることにします。
傾聴は、「自分を変える習慣力」の著者、三浦将さんが、企業のみなさんとコミュニケーション研修をするとき、真っ先にお伝えすることでもあります。それほど大切なことだからです。
人間関係の絆が生まれるきっかけとは?
コミュニケーションというとき、多くの人が “ 話し上手 ” であることが重要と考える傾向にあります。確かに、話し上手であるに越したことはありません。一方、仮に話し下手であっても、良いコミュニケーションは成り立ちますが、聴き下手であった場合は、成り立つ可能性が限りなく低くなってしまいます。
聴くことが大切という理由の 1 つは、「自分の頭の中にある世界と、相手の頭の中にある世界は違う」という点にあります。これは、信念や価値観がそれぞれ違うからでもあります。それらが同じであるという思い込みから解放され、相手の頭の中にある世界がどれくらい見えているかが、コミュニケーションの質に直結します。
上手に話すだけでは、相手の頭の中の世界の探索はできません。そのキーは、傾聴の習慣なのです。
もう 1 つは、「人間は一番自分が好き、次に自分のことを理解してくれる人が好き」という本質にあります。人間はやはり自分のことが一番意識の中にあります。仲間と写真を撮っても、まず見るのは自分が写っている姿。時によって、意中の異性や、自分のこどもの場合もありますが、ほとんどのケースでは、自分自身の姿を探すことでしょう。
基本的に、自分のことが一番気になるのは、人としてごく当たり前です。そして、人間は自分のことが一番気になるからゆえ、自分のことを理解してくれる人、理解してくれようとする人に好意を抱きます。自分のことを理解してくれる人は、話の上手い人とは限りません。
一方、しっかりと共感を持ちながら自分の話を聴いてくれる人は、自分のことを理解してくれる人とみなすのです。そのことにより、人間関係が良好になり、人間関係の絆が生まれるきっかけができます。
傾聴のスキルとその本質とは?
相手の立場になってみる、相手の気持ちになってみる、これはコミュニケーションに関して、よく言われていることです。ビジネスシーンにおいても、「お客様の立場になってみて考えてみよう」という言い方をよくします。しかし、そう簡単に相手の立場に立つことはできないですよね。
では、どうしたらよいのでしょうか?
もうみなさんはおわかりかと思います。
そう!相手の頭の中の世界に近付くことです。
相手の立場になかなか立てないのは、相手の立場に立つことができるような情報が全く足りていないからです。だからなかなかイメージができない。
そこで、しっかりと傾聴し、相手の頭の中の世界をより正確に知るための適切な質問をすることによって、相手の考えていること、感じていることの本質に迫っていけます。すると、やがて相手の立場にすんなりと立てる感じがしてくるだけの、適切な情報が集まってきます。
ですから、相手の立場になる習慣は、傾聴の習慣とセットで考えていただけると良いか思います。
傾聴スキルの基本とは?
❶ 相手が話しやすい雰囲気作り
コミュニケーションは共同作業です。相手を理解しようとすると、相手もこちらへの理解を高める気持ちになっていきます。相互理解を深めるためにも、話しやすい雰囲気作りは重要です。表情や態度などで、安心して話せる雰囲気が作り出せたら、その場が良いものを生みだすことのできる場になっているでしょう。
本題に入る前に、共通の話題でしばし雑談をすることなども、この雰囲気作りに役立ってくれるでしょう。また、少し身を乗り出すなどの姿勢も、聴こうとしている態度の表れと感じ取られるために、雰囲気作りにはおすすめです。
❷ 笑顔
笑顔は、人間だけが持っている、世界共通かつ最強のコミュニケーションです。人間関係の場で、これがあるかないかで、大きく方向性は変わっていきます。そういった意味でも、笑顔は、良い人間関係を築き上げるための必須ツールでもあるのです。
❸ うなずき、あいづち
うなずき、あいづちなどは、話し手が「自分の話を受け取ってもらえている」と感じる傾聴スキルです。逆に、聴き手にこれらの動きがないと、話し手は不安になったり、話をする気を削がれたりします。
これらは、「うんうん」「それで、それで」「そうなんですね」「ほぉー」というような簡単なものですが、話し手のリズムに合わせてすることによって、相手の頭の中の世界に迫っていくような話が引き出すことができます。
❹ 繰り返すスキル(オウム返し)
オウム返しというと、ちょっとネガティブなイメージを連想する方もいるかもしれませんが、意外にもこれは、傾聴のためのキーとなるスキルです。
このスキルをしっかり使える習慣が付くと、話し手のあなたへの信頼感は、「聴いてもらっている」というレベルから、「私のことをわかってもらっている」というレベルになります。ただのオウム返しではなく、これを傾聴のスキルとして効果を発揮させるためには、リピートするときの心の込め方にポイントがあります。
例えば、「この時とてもつらかったんです」 に対し、「とてもつらかったんですね」と繰り返すだけですが、これを淡々とやると、相手の気分を害するケースも起こってきます。一方、この言葉に、共感の感情がしっかりこもることによって、相手からの信頼感は大きく向上することになります。
❺ 相手の話に興味を持つ
相手の話に興味を持つことによって、相手の頭の中の世界を探索するための質問も自然に出るようになってきます。また、相手の話に興味を持つ態度は、しぐさや目の動き、姿勢など非言語のコミュニケーションとなって、表面に表れます。
人間は、元来感覚の鋭い動物なので、これらの言葉にならないメッセージを感じて、相手の気持ちを読み取ります。
❻相手の話をさえぎらない
相手がまだ話し終わっていないのに、関連した話をかぶせるように話し始めることは、相手の話す意欲を著しく削ぐことになります。これは、傾聴という点では最もやってはいけないことの 1 つです。
自分の話をしたくなる気持ちもわかりますが、いったん相手が伝えたいことを受け取ってからにすると、コミュニケーションは、より生産的なものになるでしょう。
このように、傾聴の基本は、決して難しいものではありません。意識すれば誰でもできることです。ただし、この「基本をちゃんとやる」ということが、意外とできていないのが実際だったりします。一度やってみて、人の話を聴くときの自分の習慣を確認してみてください。
うなずき、あいづちなどの動きがあまりなかったり、本当は、ちゃんと聴いてあげることが大切なタイミングで、相手の話をさえぎって、つい自分のことを話し始めてしまうなど、人によってさまざまな習慣があります。この傾聴の基本に外れる習慣を断捨離する意識を持つことも大事です。
人間関係を良好にするにはコミュニケーションにのぞむ姿勢が大切ですよ!
また、もう 1 つのチェックポイントは、「いつもできているか?」ということです。
1日の全体の会話のうち、どれくらいの割合でこの基本が行えているでしょうか?
気分の良いときはできているけれども、忙しいときや、ちょっと虫の居所が良くないときなど、ついつい笑顔がなくなったり、あいづちもなく、相手の話を黙って聴いているだけになったりしがちです。しっかりと習慣化すると、こんなモードの時も自然と傾聴の基本ができるようになってきます。
例え気分がさえないときでも、無意識のうちに笑顔やあいづちをしているレベルが習慣化になっているレベルです。目の前にこんなことができる人がいたら、あなたはどう感じるでしょうか? この習慣化は、人間関係構築において、すごい財産となります。
さらに大事なこととして、「意識がどういう状態か?」ということがあります。話しながら、自分のことに意識が向いているのか?それとも、相手のことに意識が集中しているのか?自分自身のことに意識が向いていると、上記の傾聴の基本が疎かになります。
場合によっては、相手の話を取ってしまうことなども、やってしまいがちになります。一方、相手のことに意識が集中していると、傾聴の基本がスムーズに行えるようになり、さらには相手の頭の中の世界を探索するための質問も、自然に出てくる状態になります。
傾聴がちゃんとできるかどうかは、スキルも大切ですが、このように意識や、コミュニケーションにのぞむ姿勢が最も大切なことなのです。
人の話を聴くときの習慣は、あなたが長い年月をかけて身に付けたもの。修正を加えていく必要があると感じた方は、まずは「知っている」から「やれる」という段階を、意識して続けていくことから始めてみてください。
この傾聴の習慣は、必ずあなたの強力な武器になります。ビジネスパーソンとして、仲間として、親として、この習慣がその集団の中での人間関係をより豊かなものとしてくれることは間違いありません。
マネージャーの育成方法とは?
三浦さんが人材育成および組織開発のコンサルタントとして企業の方々と関わっている時に、ほとんどのケースにおいて課題として相談されるのが、マネージャー育成について。
役職で言えば、課長とか係長とかの、いわゆる “ 現場マネージャー ” のマネジメント力を如何に育てるか、という課題です。
この現場マネージャーのみなさんは、多くの場合、現場の人間としての力量や業績を認められて、何人かの人間を管理するマネージャーのポジションを与えられます。言わば、その現場のスペシャリスト。
よくあるのは、現場のスペシャリストの頃は、まわりから見ても輝いていたし、本人のモチベーションも高かったけれど、マネージャーのポジションになってからは、何だか輝きを失ったようになって、モチベーションも急激に下がっているように見える、というケースです。
これは、マネージャーになる準備ができているかどうかの確認なしで、現場での業績だけを基に昇進される場合によく起きます。そして、いざそのポジションに就いてみると、マネージャーとして部下を上手くまとめられなく、どうしたらいいかわからなくなっている。これは、ほとんどの企業で起こっていることです。
部下をまとめられない要因は、マネジメントやリーダーシップについての適切な理解があまりないまま、マネジメント業務をやらなければいけない状態であること、そして、部下との世代間ギャップを埋めるコミュニケーションができないことなどが、主な理由です。
そして、こうなると、苦手意識のあるマネジメントの部分を極力避け、得意分野である現場作業の方に時間を使うようになります。その時間の方が楽しいですし、自分のプライドも保てるからです。
しかし、こうなると、マネジメントの部分はどんどん疎かになり、チームは崩壊していきます。これは、特に IT 関連であるとか、製造業など、従業員の職人気質の高い職種において起こりがちです。
一方、マネジメントというと、小難しいマネジメントの本を読んだり、海外や国内のマネジメントスクールで勉強したりしなければならないと思いがちですが、現場マネージャーの段階ではそんなレベルまでは必要ありません。
まずは、チームメンバーと接するときの意識の向け方や、コミュニケーションの習慣を変えてみるところから始めればいいのです。
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