どんな物質も「完全に安全」ではありません。この世に「安全な物質」は存在せず、「安全な摂取量」があるだけです。栄養素においても、不足による害と過剰による害の両方が存在します。栄養学では、「その栄養素を摂取すると、どの程度のリスクが生じるか」という観点から考えるのが一般的です。
ペットボトルなどの容器には、含まれる成分とその量が記載されています。今回は、その成分の一部について解説します。
①塩化ナトリウム
いわゆる食塩のことです。炎天下で長時間運動や労働をしない限り、食塩の追加摂取は基本的に不要です。たとえ外回りのビジネスパーソンや、スポーツジムで汗をかいた程度では、ナトリウムが不足することはほとんどありません。
食塩の1日あたりの摂取目標量は7g以下とされており、理想的には6g未満が推奨されています。しかし、平均的な日本人は1日に10〜11gを摂取しており、味の濃い食事では15gを超えることもあります。発汗による「塩抜き」は理にかなっていますが、実際には日常的な運動程度では、それほど多くの塩分は排出されません。
ナトリウム補給が本当に必要なのは、真夏の炎天下で作業をしている人や、本格的な運動部員など、ごく限られたケースです。その他の人にとっては、むしろ過剰摂取による健康被害のリスクがあると考えてください。
② リン
リンは見過ごされがちですが、非常に過剰になりやすく、体に良い影響はほとんどありません。
人体において、リンとカルシウムは「一方が増えると他方が減る」というシーソーのような関係にあります。どちらが重要かと問われれば、当然カルシウムの方が重要です。どれほどカルシウムを摂っても、リンを同時に多く摂取してしまうと、せっかくのカルシウムが十分に吸収されません。
リンの必要量は極めて少なく、実質的には「ゼロを目指してよい」とも言われます。
リンは多くの食品に含まれていますが、重要なのは「含有量」だけでなく「吸収率」にも注意を払うことです。つまり、リンの含有量の数字だけを見て良し悪しを判断すべきではありません。特に、コーラのような清涼飲料水に含まれるリンは、注意が必要です。
③ カフェイン
カフェインの1日あたりの摂取上限量について、明確な公式規定はありませんが、一般的には300〜400mg以下に抑えるのが望ましいとされています。
たとえば、コーヒー1杯(約150ml)にはおよそ100mgのカフェインが含まれているため、1日3杯程度が目安となります。エナジードリンクはカフェイン含有量が多いことを売りにしていますが、これは「ここぞ」というタイミングで飲むものであり、日常的に飲むものではありません。
④ 酸
炭酸飲料は酸性ですが、その酸性の主な原因は炭酸ガスではありません。実は炭酸自体の酸性は非常に弱いのです。
では、なぜ炭酸飲料は強い酸性にしてあるのでしょうか。その目的は「腐敗防止」です。たとえばコーラには、砂糖などバイ菌のエサとなる成分が多く含まれています。細菌の繁殖を防ぐため、リン酸やクエン酸といった強めの酸が添加されています。つまり、コーラの酸性は炭酸ではなく、これらの添加物によるものです。
リン酸やクエン酸は揮発しないため、気が抜けたコーラでも酸性度はほとんど変わりません。飲んだあとに口内に飲料が残っていると、その強い酸によって歯がダメージを受けます。
これが「コーラを飲むと骨が溶ける」といった都市伝説の元になっているのでしょう。実際には骨は溶けませんが、歯は酸により溶ける可能性があります。そのため、コーラのような強酸性の飲料を飲んだ後は、口をゆすいで歯を守るようにしましょう。
なお、柑橘系の100%ジュースは、果実本来の酸が強いため、リン酸などの酸を添加する必要がなく、実際に添加もされていません。
ペットボトル飲料には、今回ご紹介した以外にもさまざまな成分が含まれています。今後、飲料を選ぶ際には成分表示にも目を通し、自分の健康にとって良いと思えるものを選ぶよう心がけてみてください。
「なぜ、一流は飲み物にこだわるのか?」(著:田中越郎)より
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