「デキる人は、ヨガしてる。」(著:石垣英俊、及川彩)より
リラックスの中に集中がある
先日、及川先生のヨガレッスンに参加した出版社に勤務する30代後半の男性が、興味深い話をしてくださいました。
彼は、スポーツ関係やカラダに関わる書籍を数多く世に出されています。
普段からとてもアクティブで、趣味でランニングもされていますがヨガのレッスンを受けるのは今回が初めてでした。
彼の肉体はいつも鍛えられている印象がありました。
ヨガを終えた彼に感想を聞くとこう答えてくれました。
「驚きました。リラックスしながら集中している感覚がありました。こういうのは初めてです」
なぜポーズをとると集中できる?
ヨガでアーサナというポーズや呼吸に意識を向けるのは、集中し、瞑想に入りやすくするためだということはご説明した通りです。
アーサナによって、心身が整えられることはわかっても、なぜそれが集中力を高めることにつながるのでしょうか。
姿勢が改善し、無駄なエネルギーを浪費しないことで、ある程度、持久力と集中力が高まることは想像できます。
しかし、ヨガの恩恵はそれだけではありません。
仕事の効率には、集中力が大きく影響します。
「ゾーン」という言葉を聞いたことのある方もいらっしゃると思いますが、アスリートの間などでよく使われる言葉で、極限の集中状態を意味します。
「ゾーン」状態は心身ともにリラックスした時に経験するといい、同じ意味合いの言葉に「フロー」もあります。
すなわち、肉体だけでなく、心が穏やかに落ち着いた状態にあると、リラックスしながら質の高い集中力を発揮することが可能になるといえるのです。
さらに、ヨガのポーズや呼吸、そして瞑想には、鬱病や不安障害に悩まされている脳の緊張を緩和させる働きがあるといわれています。
これには神経系のγ−アミノ酪酸(ガンマ−アミノらくさん:通称GABA)が関係していて、このGABAの値が低い脳は、鬱病や不安障害を患いやすいと考えられているのです。
読書の集中力<ヨガの集中力?!
ここでボストン大学のストリーター博士が行った実験についてご紹介したいと思います。
実験は、健康な8名のヨガ熟練者に、1時間のヨガセッション(アーサナと呼吸法)を、11名のヨガ未経験者には1時間読書(小説や雑誌)をさせるというものでした。
1時間後、双方のGABA数値を測定します。
ヨガをした8名は、いずれも数値が増加し、平均で27%GABA数値が増加しました。
普段からヨガを週5回行っている参加者は、実に80%増加したといいます。
一方、読書をした11名は何の動きも見られなかったといいます。
尚、この実験ではヨガの流派は関係ないようでした。
ストリーター博士の研究発表はヨガのような行動療法で、実際に神経系の変化が測定できた初めてのケースだといいます。
この研究を過大評価しすぎてもいけないかもしれませんが、ヨガの科学的な根拠を示す大きな功績といえるのではないでしょうか。
「ヨガによって心が穏やかな状態になり、あたかも別の次元から現れたかのように音楽が思い浮かぶ」
ロックスターのスティングはこう語ります。
一方で、ヘミングウェイなど著名な文筆家や芸術家は、自身のリラクゼーションと閃きのためにアルコールを求めていたことも知られています。
心を落ち着かせるという点では、アルコールもヨガもGABAという神経伝達物質を介してニューロンの発火を抑えて心が落ち着く、というメカニズムです。
しかしながら、アルコールには副作用があることは周知の事実です。
ヨガをすることで心身ともに落ち着き、リラックス感が増す中で、インスピレーションを得る。
前述した出版社に勤務する男性が感じたのも、きっとこの感覚だったのでしょう。
心が落ち着きリラックスした状態では、集中力も自ずと高まってくるというものです。
男性に必要な右脳の活性化
大脳には右脳と左脳が存在します。
それぞれに働きが違い、一般的に左脳の働きが優位であるといわれています。
左脳は論理や言語、数学や科学に優れ、右脳は直感や創造性、全体感などの知覚経験や感情を感じることに優れています。
2009年、ペンシルベニア大学医療センターのアンドリュー・ニューバーグ氏らが行った研究があります。
4人の男女にアイアンガーヨガのトレーニングを3カ月間行った後、脳をスキャンした結果、「全般的な活性化が、左脳よりも右脳で大きかった」というものです。
このように、近年ヨガや瞑想によって右脳の働きを刺激できることが科学的にも示唆されています。
ヨガをしているとき、深部感覚を意識することが、右脳を活性化させることに繋がっているのです。
また、脳の血流が増加した部位が、高位の意識を司る前頭葉と、人間らしさの象徴である前頭前皮質であったことも大変興味深いところです。
私が普段身近で接している「デキる人」たちは、総じてバランスが良いと感じます。
まず、冷静で判断力に優れ、直観力や全体を見通す力を持っています。
そして、神経質でも怠惰でもない。
感覚が良く、自分自身を上手くコントロールしているのです。
男性によく見られるのが、競争意識が強くなり過ぎて、攻撃的で明らかに左脳優位に偏っているケースです。
そのような方はヨガを続けて、右脳を活性化し、脳梁という部分を介して左右の脳のバランスを整えることができれば、きっと人間関係もスムーズなものになっていくはずです。
『デキる人は、ヨガしてる。 (Business Life)』 (クロスメディア・パブリッシング) |