「なにもしていないのに調子がいい」(著:森田敦史)より
呼吸が浅いと体の力みが抜けなくなる
息が浅くなったり、止まったりするときには、必ずといってよいほど体が緊張しています。呼吸と体の力みは密接に関わっているからです。呼吸する場面をイメージしてみてください。緊張しているとき、体が硬くなっているだけでなく、呼吸も止まっていたり、浅くなっていないでしょうか?
パソコン作業などで一心不乱に仕事をしているとき、呼吸が浅くなったり止めたり、気づけば体も力んでいませんか?呼吸を浅くしたり止めたりすれば、体は力みます。体が力めば呼吸は浅くなり、止まりやすくなります。これが呼吸と体の動きとの密接な関係なのです。
そしてこの息が浅くなる癖が、知らず知らず少しずつ体に蓄積されていくと、いつしか緊張が解除できない体質にたってしまいます。
こうなると、もはやいつ不調が起きてもおかしくありません。最近、体がおかしいと感じても、じつは急に悪くなったのではなく、積み重ねられた伏線が、なんらかの引き金によってポンッと出ただけにすぎないのです。
人間は1日に約3万回の呼吸をするといわれています。この呼吸の質が体調や健康状態に大きく影響を与えているのです。
生活の中で呼吸が止まっている!?
現代人は呼吸が浅く、そしてことあるごとに呼吸を止める生活を無意識のうちにしています。
・パソコンに向かっているとき
・会議のとき、人と話しているとき
・歩いているとき
・歯磨きをしているとき
・食事をしているとき
それらが習慣化していると休日に家でくつろいでいるときすら……
人間は息をしなければ死にます。呼吸が止まれば死に至ってしまう事実からみても、息・呼吸は最も根幹から人間を支えているきわめて重要なもの、私たちが生きている証であるといっても過言ではありません。
私たちはそんな呼吸をふだん、無意識のうちに浅くして止めているのです。人間は1日のうちでいったいっどれくらいの数、息を止めているのでしょうか。私が不調のクライアントに接しセッションを行う約1時間のあいだ、その人がどれくらい息を止めているのかを観察することがあります。
ひどい人ですと、ドアを開けるときや挨拶のとき、座るときなど、些細な行為の一つひとつで息を止めているのです!
スポーツをしているのならばいざ知らず、これらの動きは息を止める必要がまったくありません。1日に換算すると、恐ろしいほどの回数、息を止めていることがわかります。
体の声が不調を知らせるサイン
人間は動物です。動物である以上、自分自身の体の快・不快、些細な体調変化を察知する能力が本来そなわっています。動物は動物として持つその察知能力で事前に体の不調和を異常レベルに至る前に修正しているのです。
人間も動物である以上、異常に至るまえに体の些細な不調和を捉えることができる生き物です。最近疲れが溜まっている、と感じるのもそのひとつ。疲れが溜まっているというのは感覚的であり、目に見えるような客観的な症状ではありません。しかしこの感覚を否定する人はいないでしょう。これは動物としての本能のようなものです。
ところが不調に悩む人の多くは、この体のサインを見逃すのです。とくに忙しい人であればあるほどに、その傾向が強いといえます。ではなぜ、その能力が落ちてしまうのか、その一つに、思考が働き過ぎてしまっているという問題があります。何でも頭で考えて、頭で理解し、頭でコントロールしようとするというものです。
それは人間が持つ特性で、得られる恩恵も計り知れないものがありますが、失うものも大きいという理解が必要です。いくら頭脳が発達していようと、人間は紛れもなく動けば疲れる動物だということです。思考が優先され動物としての本能や微細な体の感覚が鈍くなってしまう。その結果、強い異常が出るまで気づかない、気づいてもごまかしていまうという状態になってしまいがちなのです。
痛みなどの症状は、体に知らせる危険信号としては大きなほうです。そのくらい強く知らせないと気づかないというのが、不調体質の人の大きな問題でしょう。本来、異常という強いシグナルを発する前段階で小さなシグナルも送り続けられています。
大事なのは、小さなシグナルの段階でできるだけ早く気づく力を持っているかどうかです。持っていないのであれば、その感覚を鍛える必要があります。呼吸は人間の筋肉・関節・神経・内臓・精神状態の全体の動きを包括しています。呼吸を知るということは、自分を知るということに等しいのです。
全体の働きの一つひとつを個別に意識・注意するよりも、呼吸というフィルターにかけて全体を把握した方がやりやすく、現実的です。呼吸というのは場面、環境、体調によって繊細に変化します。本来人間は動物ですので、不快なところにはいたくないものです。呼吸を整えて、体の感覚レベルが高くなるほどに不快なところは嫌がり、心地良いところに戻ろうとする、動物本来の本能が働いていれるのです。
その体でいつまで働けますか?
男女にかかわらず、30歳を超えると体に無理がきかなくなります。体にムチ打って、体の声を無視し続けると不調の原因となってしまいます。疲れが溜まる、集中力が続かない、肩こり、腰痛、このていどならばマシなほうです。ひどくなると自律神経失調症、うつ、不眠など精神的に追い詰められることも少なくありません。
「この体でいつまで働けるのか?」
漠然とした不安にさいなまれ悩む人も多いのです。いつまでも元気で働ける体をどうつくるか、これは現代人にとって死活問題です。30歳までは勢いでなんとかなるかもしれません。しかしそれ以降は知恵とコツを使うことが大切になってきます。「呼吸」の知恵とコツを、体調管理と体質改善に活かしてください。呼吸を通して仕事のパフォーマンスを向上させ、また人生を充実させてください。
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