「デキる人は、ヨガしてる。」(著:石垣英俊、及川彩)より
道徳的な日常生活の「実修」に専念する「カルマ・ヨーガ」は、ポーズや呼吸法、瞑想をしなくても行うことができる生き方のヨガといえます。
デキる人たちと接していると、こういった経典に基づくヨガの哲学を学んだかのように、実に毎日を自然体で過ごしているように見えます。
ここでは、ヨガ哲学が教えてくれる智慧と、「デキる人」たちの思考や習慣を、私たちなりの視点でヨガ的な習慣としてまとめました。
あえてルーティーンを取り入れる
ルーティーンという言葉を聞くと、私は真っ先に、イチロー選手を思い出します。
彼が打席に入るまでの一つ一つの動きはもちろん、日々の練習はルーティーンで形成され、一時期は毎日同じものを食べていたようです。
ルーティーン(routine)は、生産性を高める上で、とても大切なことです。
日常にルーティーンを取り入れることは、以下のようなメリットをもたらします。
エネルギーを集中できる
私たちは日々、気づかないうちに、膨大な情報量の中、多くの選択と決断を迫られています。
『スタンフォードの自分を変える教室』(大和書房)で、著者のケリー・マクゴニガル氏は、食べ物に関する決断だけでも、一日で200回以上もの選択を無意識に行っている、という研究結果を紹介しています。
優先順位の低いことでも判断には力が使われます。
その結果、大切なことにおける判断に支障がでてしまう可能性もあるのです。
Apple創業者の故スティーブ・ジョブズ氏が、いつも黒のタートルネックのセーターを着ていたのは有名な話です。
脳が一日に使えるエネルギー量は限られていることをご存知でしょうか。
一流の人たちは、そうした細かい判断を日常から意図的に排除することで、大事な「集中力」や意志力というエネルギーを分散させず、ここぞという場面で本来の力を発揮できるように温存する工夫をしています。
時間を効率的に使える
段取りやスケジュールが決まっていないと、物事はスムーズに進みません。
これは仕事に限らず何をするにおいても、共通することです。事前に段取りを決めずにあれをやろう、これをやろうと、考えながら作業をしていると、余分に時間がかかってしまうものです。
あるお客様は、毎日メールをチェックする時間を決めているといいます。彼に限らずデキる人に共通する特徴は、とにかくレスポンスが速いということです。
彼はメールを読む時間に加えて、メールの対処の仕方に関してもルールを決めていました。
読んだメールには必ずその場で返信をする、何かの事情でその場で返信できないメールは、未読状態に戻すといいいます。
仕事のメール一つとっても、対応方法を事前に決めておけば、判断にかける時間と労力を省略することができます。
感覚を研ぎ澄ませる
毎日同じ物を食べていると、味がいつもと違って感じることがあります。
実は、そういった変化に敏感になることは、自分の状態をチェックすることにも繋がります。
味覚の変化は自分の体調のせいかもしれないし、シェフや奥さんが隠し味を入れたからかもしれません。
毎朝ヨガのポーズや呼吸を同じシークエンス(順序)で練習するのも、これと同じ意味があります。
昨日はすんなりできていたポーズが今日は上手くできない。それが天気のせいなのか、前日の深酒の影響なのか、職場のトラブルを引きずっていて気持ちが乗らないからなのか、自分を観察しながら原因を探っていくことができます。
このように毎日変わらないルーティーンを日常に取り入れることは、感覚を研ぎ澄ますことになるのです。
何年か前、ある方が当院のベッドにうつ伏せになった途端、「あれ、おかしい。先生ベッド換えましたか」と質問をされたことがあります。
私が「え、換えていませんよ。どうしたんですか」と言うと、「手元と顔の感覚が違う」とおっしゃるのです。
私が「そうだ。半年ほど前、ヘッドピース(顔の部分)とアームレフトのカバーを変えました。よくわかりましたね」と改めてお伝えすると、「この部屋は久しぶりでしたからね」と笑っておられました。
確かに、彼の施術はいつも別の部屋でしていて、その部屋のベッドを使うのは久しぶりのことでした。
カバーを変えた当初は、お客様に感覚の良し悪しを聞いていましたが、ほとんどの方はその違いに気づきもしませんでした。
何でもないことではありますが、こうしたことがきっかけで、世の中には変化に気づく人と気づかない人がいるのだ、ということを意識するようになりました。
デキる人たちはちょっとした変化に気がつきます。
室内の装飾やお花、手作りのポップからスタッフの髪型まで、いつもその変化に気づいています。
デキる人は「変化に気づく感覚の鋭い人」ともいえます。
こういった方々は、世の中のちょっとした変化に気づき、次の流れを読むことで、ビジネスでも大きなチャンスを掴むことがあります。
まさに普段の積み重ねが、いざという時に役立つのです。
ルーティーンは、ただ単純化しているということではなく、無駄を省きながらも、一つ一つ丁寧に向き合うことに繋がります。
多忙な毎日を送っていると、時間に追われながらマルチタスクで物事をこなすことが当たり前と思いがちです。
人間は本来、マルチタスクではなく、シングルタスクの時に力を最大限発揮できる生き物なのでしょう。
Google瞑想を生活に取り入れているビジネスマンのお客様も同様のことをおっしゃっていました。
継続していると自分にとって調子が良いことや、自分を向上させると思えることがあれば、積極的にルーティーンとして取り入れてみましょう。
例えば、食事をする時は感謝の気持ちをもって味わう。
ストレッチでも、体の声に耳を傾けながら行う。朝のウォーキングも自分の息遣いや足の運びに意識を向ける、など。
そういったルーティーンが、物事に対して丁寧に向き合い、感覚を研ぎ澄ませることになるのです。
『デキる人は、ヨガしてる。 (Business Life)』 (クロスメディア・パブリッシング) |