疲労、不安、肥満、散漫な集中力、モチベーションの低下、不眠、弱い意志力etc……いずれも現代人につきものの悩みである。
年に5000本の科学論文を読み続けるサイエンスライターにして、7万部突破の話題書『最高の体調』の著者・鈴木祐氏は、「こうした現代人の不調は、『現代の環境』と『遺伝』のミスマッチにある」と言う。
「数百万年近く自然と共に暮らしてきた人類にとって、自然と切り離された現代の生活はあまりにも異例なもの。そのため、私たちの体をうまく機能させるには、自然と触れ合うことが重要になってきます。自然は人体の疲労を回復させ、人間の感情システムのバランスを整えてくれることが科学的にも証明され始めています」
では、具体的にどのように自然と触れ合っていけばいいのか? 『最高の体調』より、健康経営の一環として今すぐ実践できる簡単な方法をお伝えする。
「偽物の自然」にもリラックス効果がある
いくら自然が体にいいと言っても、現代人が急に「森の生活」を始めるわけにもいきません。いまの暮らしの範囲内で、できるだけ自然を取り入れていく方法を模索するのが現実的でしょう。
果たして、自然のメリットが得られる最低ラインはどこにあるのでしょうか?
スタートとして効果的なのは、「自然音」または「自然画像」です。川のせせらぎ、木々を吹き抜ける風の音、雄大な森林の映像、波が押し寄せる海の光景など、種類はなんでも構いません。まずはデジタルのデータを使い、スピーカーやモニタ越しに自然との接触回数を増やすのです。
大自然と共に暮らしていた狩猟採集民とくらべればささいなものですが、これがどうしてバカにできません。自然に飢えた現代人の脳には、たとえ偽物の自然でもかなりのインパクトがあることがわかっています。
科学的に見た「偽物の自然」の効果とは?
たとえばアムステルダム自由大学の実験では、次のような結果が出ています。
60人の学生に複雑な数学の問題を解かせて精神的なストレスをあたえた後、半分には『緑が豊かな公園の写真』を5分だけ見せ、残りには『一般的な都市の光景』を眺めるように指示。それから全員の自律神経を計測したところ、公園の写真を見た学生は2倍も副交感神経が活性化し、心拍数も有意に低下していたのです。
自然の写真を5分ほど眺めるだけでも、かなりのリラックス効果が得られるようです。
また、自然の写真ほどではないものの、自然音についても研究が進められています。2017年にサセックス大学が行った実験では、風の音や虫の声を5分25秒ほど聞いた被験者は、車のエンジンやオフィスのざわめきを聞いたときよりも、有意にリラクゼーション反応が起きていました。
まずはPCやスマホの壁紙を森や海の風景に変え、通勤電車の中では風や潮騒の音を聞くのが、いまの暮らしに自然を取り込むはじめの一歩になります。
観葉植物を置くメリット
自然の写真と音声で副交感神経が鎮まったら、次のステップです。
ここからは、一歩進んで「観葉植物」を取り入れてみましょう。やはり狩猟採集民の暮らしにはほど遠いものの、こちらも多くのデータで効果が示唆されています。
①副交感神経を活性化&ストレス軽減
ノルウェーで行われた実験では、385人のオフィスワーカーの年齢や仕事内容といった因子をコントロールしたうえで重回帰分析を行ったところ、はっきりとした違いがみられました。デスクの上に観葉植物を置いた従業員ほど主観的なストレスが低く、病気で会社を休む回数は少なく、仕事の生産性まで高い傾向が見られたのです。
このような現象が起きる理由には諸説あるものの、1998年のデータでは、観葉植物の近くで働くオフィスワーカーは肌荒れが減ったとの報告も出ており、やはり「副交感神経の活性化によって体内の炎症が治まった」効果が大きいようです。
②幸福感と作業効率を上げる
さらに嬉しいことに、観葉植物には幸福度や集中力を上げる効果も確認されています。
350人のオフィスワーカーを対象にしたある実験では、観葉植物を前にしながら作業をした被験者は幸福感が47% アップし、作業の効率が38%も上がったそうです。これは、観葉植物のおかげで作業中の緊張がやわらいだために起きる現象で、心理学の世界では「注意回復理論」と呼ばれます。これほど手軽で生産性が上がるテクニックも珍しいでしょう。
身近に置く観葉植物の種類はなんでも構いません。多くの実験ではポトスやドラセナを使うのが定番ですが、基本的には自分が好きな植物を選べばいいでしょう。
NASAが推奨する「健康にいい」観葉植物一覧
ただし、ここでは観葉植物選びの参考として、1989年にNASAが行った「クリーンエア研究」のデータを紹介しておきます。
【NASAが推奨する観葉植物】
・スパティフィラム(Peace lily)
日陰に置くことでベンゼンとトリクロロエチレンの両方を吸収してくれる。ただし、葉の部分にシュウ酸カルシウムがふくまれており、体内に入れば体調を崩すことも。そのため子どもやペットがいる家庭には不向き。
・ポトス(Pothos)
ホルムアルデヒドを吸い込む効果が認められている。 週に1度の水やりでも十分なので初心者向け。
・セイヨウキヅタ(Ivy)
ホルムアルデヒドを取り除くのに有効。直射日光でも日陰でも普通に育つが、やはり毒性を持っているので子どもやペットがいる家庭には不向き。
・キク(Chrysanthemum)
ベンゼンとホルムアルデヒドをフィルタリングしてくれる。
・ガーベラ(Gerbera daisy)
ベンゼンとトリクロロエチレンの両方を吸収してくれる。
・サンセベリア(Sansevieria)
ホルムアルデヒドをフィルタリングしてくれる。水やりが少なくてもいいのでメンテナンスは楽だが、水の加減を間違えると枯らしやすい。
・チャメドレア(Bamboo palm)
ホルムアルデヒドをフィルタリングしてくれる。直射日光を避ければ、毎日の水やりが不要なので育てやすい。
・ツツジ(Azalea)
ホルムアルデヒドをフィルタリングしてくれる。現在のツツジは品種改良がされていて育てやすい
③空気清浄効果
これは、観葉植物の空気を清浄化する働きを調べたもので、一部の品種には、ベンゼンやホルムアルデヒドといった大気中の有機化合物を吸い取る作用が認められました。つまり、観葉植物は天然の空気清浄機としてシックハウスの対策にも使えるわけです。
植物の清浄効果を高めるには、「およそ10平方メートルごとに、直径15~20センチの鉢植えを1個置く」のがベストです。
環境が及ぼす影響はとても大きい
「環境」が私たちに及ぼす影響はとても大きなものです。中でも今回紹介した「自然」はその影響が突出していることが分かっています。
『最高の体調』では、現代人の日々の不調や不満に「環境」という側面からだけでなく、「文明病」、「ストレス」など様々な側面からアプローチしています。
詳しいことは、科学的根拠のもと、実践的に解説していきます。ぜひ本書を読んで、本来の自分を取り戻していただけたら幸いです。
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鈴木祐(すずきゆう)
新進気鋭のサイエンスライター。1976年生まれ、慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねながら、現在はヘルスケアをテーマとした書籍や雑誌の執筆を手がける。近年では、自身のブログ「パレオな男」で心理、健康、科学に関する最新の知見を紹介し続け、3年で月間100万PVを達成。また、ヘルスケア企業などを中心に、科学的なエビデンスの見分け方などを伝える講演なども行っている。
生活習慣・ストレスを改善したい方へー「過去最高のコンディション」を目指す実践型プログラム
『最高の体調』は科学ジャーナリスト鈴木祐氏による、科学的根拠のあるコンディションを改善するためのテクニックが集約された書籍です。2018年の発売以来、10万部を超えるヒット作として多くの方にご愛読いただいいています。
この度より多くの方に効果を実感いただくための実践型オンラインプログラムを開発しました。
いろいろな書籍・記事を読んで内容に共感したのに実践できなかった・続かなかった経験はありませんか?当プログラムはそんな「忙しい方」「習慣化が苦手な方」「改善点が多い方」にこそオススメです!
『最高の体調』実践プログラムの特徴
・必要なツール(実践ワークシート・オリジナルレシピ集・観葉植物など)はスタータキットとしてご自宅にお届けします。
・学習は会員専用ページからいつでも可能です!
・会員限定のコミュニティページでは、最高の体調を目指すユーザー同士で目標の共有、実践報告、アドバイス、質疑応答などができます。
ときには鈴木祐氏がコメント・回答することも!
ここでの投稿で話題になったテーマや要望のあったテーマについて、鈴木氏がメルマガで回答したり、オリジナルイベントや商品を企画したりと、みなさまの声を吸い上げてプログラムがアップデートされています。
書籍紹介:「最高の体調」
【目次(一部抜粋)】
第1章「文明病」
「文明病」が心と体を蝕んでいく
かつてないレベルのカロリーを摂取している
古代ではあり得ない「肥満」という現象
都市部の若者とヒンバ族では集中力に大差が!
豊かになればなるほど鬱病が増えるのはなぜ?
第2章「炎症と不安」
《炎症編》
長寿な人の共通点は、体の「炎症レベル」が低い
炎症が長引くと全身の機能が低下する
内臓脂肪が減らない限り、体は燃え続ける
《不安編》
不安障害の患者は15年で2倍に増加
「ぼんやりした不安」と「はっきりした不安」
不安は記憶力、判断力を奪い、死期を早める
第3章 腸
現代人の腸はバリアがどんどん破れている
衛生的な生活が免疫システムを狂わせる
抗生物質を使うと腸内細菌が大量に死ぬ
発酵食品の凄い効果─ロンドン大学の研究
このサプリを使えば症状は改善する
第4章 環境
人は環境に影響を受ける─グーグルの実験
自然を失い、友人を失った人類の末路
疲れたらマッサージ? もっといい方法がある
孤独だった人に友人ができると寿命が延びる
〝偽物の自然〟にもリラックス効果がある
第5章 ストレス
過剰なストレスが全身を壊していく
ストレスを感じたときに効くひと言とは?
寝不足が続くとダメージを修復できない
優良ホルモン「メラトニン」が増える眠り方
40分の昼寝で完全回復─NASAの研究結果
第6章 価値
ぼんやりした不安を解消するたった1つの方法
未来に目的があれば迫害すら乗り越えられる
原始人にとって生きる意味は単純だった
あなたの人生における価値観とはなにか?
ミシシッピ大学の「価値評定スケール」とは?
第7章 死
死を想うことでより良い生き方を選べる?
無意識に死への不安を感じている
死の不安に対して原始仏教が示した解決策
畏敬の念をもつと体内の炎症レベルが下がる
自然、アート、偉人、嘆するのはどれ?
第8章 遊び
もし「遊び」を奪われたら人はどうなる?
娯楽があふれているのに楽しくない
ルール化することで〝いまここ〟に集中できる
幸福感が上がりやすくなる「3のルール」
現在と未来の心理的な距離を縮める方法
詳細はこちら:「最高の体調」(Amazon)