「なにもしていないのに調子がいい」(著:森田敦史)より
呼吸は動きに、動きは呼吸に影響する
呼吸と動きは密接に関わっています。呼吸と動きの関係を理解することで、日常の些細な動きの一つひとつがいかに呼吸に、ひいては体質い影響を及ぼしているのかがわかってきます。所作の重要性や日常生活において何に気をつければよいのかもわかるようになるでしょう。
呼吸が動きに及ぼす影響を知る
立位前屈をしてみます。そのときのやりやすさを記憶してください。つぎに息を吸いきったところで息を止め、立体前屈をしてみましょう。体の中に強い圧力を感じ、頭に血が上り、前屈もやりにくいことが実感できるでしょう。
こんどは圧力を感じない程度のところで息を止めて立体前屈をしてみましょう。吸いきった状態とくらべ、力みにくく、圧力もそれほどでもなく、血も上りにくく、やりさすさが増していることがわかります。これが呼吸法が動きに与える影響の違いです。
ふだん息を吸いきったところで動く人はあまりいないでしょうが、ある程度でも吸った状態で体を動かすと、だいたいの動きは力みやすくぎこちなくなることがわかるでしょう。
動きが呼吸に及ぼす影響を知る
呼吸が乱れれば、動きも乱れますし、その逆もいえます。呼吸を理解するには動きを理解することも必要なのです。動きが呼吸に影響を及ぼすことを知るために避けて通れないのが、「足腰お留守の小手先動き」です。
足元に物を置いた状態で立ってみましょう。その物を膝をできるだけ曲げずに手を伸ばして取ってみてください。つぎはしゃがんで手が届く範囲まで体を移動させてから取ってみましょう。手を伸ばすことを中心にした場合、体勢が不十分になりその不安定な体勢を力でこらえて支えるようになります。
こらえるとは力むことです。呼吸も止まり、あるいは浅くなっていることでしょう。しゃがんで手が無理なく届く範囲まで体を移動させた場合はこらえなかったでしょう。ふだん何気ない動きをするとき、無意識に手を伸ばすことが優先し、体勢を考えないと、力んでしまい呼吸も乱れるのです。
所作が乱れると呼吸も乱れる
子どもの頃に行儀よくしなさい、といわれませんでしたか?行儀とは何のために必要なのでしょう。所作は見た目や形だけをよくするものではありません。自分を洗練させることを所作を整えるといいます。所作が乱れていると呼吸も浅く乱れやすくなり、感情に振り回されやすく、頭の冴えにもムラが出てミスしやすくなります。
所作が乱れれば力みも多くなり疲れやすく、体を痛めやすく、寝ても体調が悪いということになります。些細な動きが自身の心身をつくるのです。疲れを感じず思考をクリアにし、仕事と遊びの量と質を両立させたいとき、所作を整えるということが必須の力となるのです。
具体的な行為であるほど意識しやすい
人間は1日のうちでつぎの図のように数多くの行為をします。このピラミッドの上に行くほどにスケールが大きい行為で、下に行くほどにスケールが小さい行為となっています。スケールが大きい行為は抽象度が高く、小さい行為は具体性が高いものです。
上司から「うまくやれ」と一言で指示されれば、それは抽象度が高い、ということです。対して「~の部分をうまくやれ」と指示されれば、それは具体性が上がったということになります。
どちらのほうが実行しやすいかは歴然としています。これと同じ理屈が呼吸にも当てはまるのです。具体的であるほどに注意を向けやすくなります。行為をスケールに分けたのは、日常を見直す際に必要な視点であり、間違いや勘違いを起こしやすいポイントでもあるからです。
最小スケールの所作で呼吸をチェックしていく
所作は、最小単位の行為です。立つ、腕を伸ばすといった行為の一つひとつが集合し意味や目的をもたせると所作になります。所作を整えるスタートはそこからなのです。所作の際に呼吸を乱さないということが、よりスケールの大きな行為においても呼吸を乱さないということに繋がります。
失敗する人は全部をいっぺんにやろうとします。いきなり完璧にはできません。一つひとつの所作を整えていくことが、結果的に早く自分を洗練させていくことにつながってくるのです。
自然体になるにはどうすればよいか
最大単位の行為がただ在る、自然体でいるということになります。悟りを開いたような極致に達した偉人や哲人たちの言葉でも、ただ在るがままに、自然体でいるといったことが重要だとされています。ただし誤解しないように注意が必要です。在るがままに生きる、自然体でいる、ということは、究極に大きなスケールの所作で、それは小さなテクニカルな所作がしっかりとできている人だけが実感できる世界なのです。
常に呼吸が整っている状態をつくれる人は、呼吸を整える、という意識だけで呼吸が整います。しかし呼吸が乱れているのが常態である人は、呼吸を整えるという意識で呼吸を整えるのは難しいのです。だからこそ小さな所作からアプローチすることが活きてきます。
最小単位の行為である所作は、物を取る、立つ、座る、歩く、しゃがむなどの細々とした体の動きです。それらの所作において呼吸がどうなるか、からスタートすることが重要となります。それらの所作において一定程度呼吸が守られるようになったならば、次にひとつ上のスケールにして抽象度を上げていきます。朝、起床時から出勤まで呼吸を乱さない、というようにです。次は午前、午後、夜というようにスケールを上げていき漠然とした意識にします。そうやって細かいところからクリアして、ひとつずつスケールを上げていくのです。
最終的に、何も意識しなくとも呼吸を整えている状態が当たり前になります。ただ在るだけで何もしなくても呼吸を整えていられる自分になる、ということです。「毎日トイレに入るのが面倒でしかたない。そんな意識はつらくて大変だ」と思う人がいないように、当たり前になってしまえば、呼吸を整えている状態で動くということも、得に苦労なくできるようになります。
関連書籍のご案内
記事の内容をさらに知りたい方はこちらの本をお読みください。