「なにもしていないのに調子がいい」(著:森田敦史)より
古来からの言葉に呼吸を学ぶ
日本語というのは面白いもので、古来から伝わる言葉の中には今を生きる私たちに投げかけるメッセージが多分に含まれています。それを単なる言葉遊びと捉えるか、それともそのメッセージを真摯に受け取るかによって結果は大きく変わるでしょう。
息が上がる
息が上がるというのは何も運動をしたときだけを指す言葉ではありません。ふだんの、日常生活の中にもあてはまります。
息をこれ以上吸えないというところを最大吸気点、これ以上吐けないというところを最大呼気点といいます。最大吸気点と最大呼気点の間を呼吸エリアと呼びますが、息が上がるということは、この呼吸エリアが上がるということになります。
緊張にさらされ、その緊張に対して無尽蔵に体への反応を許してしまうと呼吸エリアは上がります。呼吸エリアが上がると体内部に膨らむ力が常にかかることになります。自律神経を乱している人、夜眠れない人、集中力が続かない、朝起きた時点でもう疲れているといった人の多くはこの状態にあります。
息を上げるレベルが高ければ高いほどにさまざまな不調が起きやすくなっているということになります。これは張り詰める、張り詰まるということにつながります。
張り詰める
張り詰めた状況におかれている自分を想像したとき、体の外側から向かってかかる圧力を感じます。つまり膨らむ力です。体に膨らむ力がかかり続けると、ほんの少し力を入れたつもりが、本来入れる必要のない筋肉まで力は入るような容易に緊張しやすい状態になります。
結果的に脱力できない状態になり、肩・肘の力が抜けない状態に陥ってしまうのです。肩肘を張るというのはこのことです。とくに緊張を強いられるビジネスシーンでは、張り詰めてしまうこともあるでしょう。問題はその張り詰めが、仕事が終わったあとにも継続してしまっていること、リセットされないことです。
若いときには気合と根性でごまかすこともできますが、ある年齢を超えるとごまかすのが難しくなってきます。この張り詰めは体だけではなく、仕事にも悪影響を及ぼします。まず体の余裕がなくなりますので、精神的にも余裕がなくなります。発想力や観察力、行動力なども低下し一つひとつの業務も雑になり、ミスが出やすくなってしまうのです。
肩肘張る(姿勢)
肩肘が張ると、力の抜きにくい硬直した姿勢になりやすくなります。この姿勢によって、より呼吸エリアが上がってしまう原因をつくることになるのです。息が上がり、張り詰めた状態が続くと、力を抜くということができなくなってきます。力を抜くことができないので常に緊張状態となり、そのことで呼吸を落ち着かせることもできなくなるのです。
息を大きく吸ったときの肩や肘がパンと張るような感覚、これが肩肘が張るということになります。張り詰めた状態は上半身に熱がこもりやすくなります。わかりやすくいえば、頭に血が上りやすくなるため、感情的になりやすくなってしまうのです。
上司が部下を怒るというのにもいろいろあります。張り詰めた状態で怒るというのは感情の発散なのです。怒られた方にしてみれば、感情の発散だと感じる怒り方です。こういう怒り方では嫌われてしまうことでしょう。
落ち着く
息が上がって張り詰めて、肩肘を張っている場合は、落ち着くことです。落ち着くとは呼吸エリアを落として着かせる、ということなのです。息が上がるということは呼吸エリアが上がる、上がった呼吸エリアを落として、呼吸をニュートラルに着かせるのです。
息を抜く
落として着かせるためには、息を抜く、ということが必要になってきます。息抜きです。息を抜くというのは、体内部に生じた膨らむ力を減圧するということでもあり、息を吐くということでもあります。多くの呼吸法で息を吐くこと、つまり呼気を重要視しているのは、多くの人が息を吸った状態を基点にして呼吸をしているという課題を持っていることを示唆しているのではないでしょうか。
息を向く、膨らむ力を減圧する、息を吐く力をつける、現代人に必要なことです。
溜め息をつく
溜め息というのはかなりのレベルで呼吸エリアを上げた状態です。息を溜めて吐かない状況、膨らむ力が強くかかっていることを意味します。溜め息をつくというのは、溜めていた息を吐くという行為。溜め息を吐くことを肯定する人もいます。しかし溜め息をつくという行為は、体でいえば緊急避難でしかないのです。緊急避難の状況をつくるのは好ましいことではありません。
1日に何度も緊急避難をする状況に体を追い込めば、ダメージは少なくないでしょう。溜め息ではきっちりと息は抜けていないのです。息をきっちりと抜くにはその状態からもっと吐かなければなりません。
骨休め
息を抜き膨らむ力がなくなると、体は休まり自然治癒力が働きはじめます。この状態ではじめて関節や筋肉が休まるのです。これを骨休めといいます。ごろごろしているばかりでは頭の休息にしかなりません。骨を休めるには息を抜く、膨らむ力を抜く、息や圧を抜くには寝ているだけでは不十分なのです。
休息
休息とは息を休めること、息を休めるとは息を抜くことです。休んでも疲れが取れないのは、仕事をしていないだけであって、息が抜けていないからです。息を抜いていはじめて休むことが成立します。
以上のように、子供のころから知っている当たり前の言葉が、息にまつわる大切なことを私たちに教えてくれているのです。
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