「疲れやすい人の食事 いつも元気な人の食事」(著:柴崎真木)より
あなたが食事にかける時間は何分?食事時間も噛む回数も減ってきた現代人
あなたは食事に時間をかけて、よく噛んで食べていますか?
新生銀行の「サラリーマンのお小遣い調査」によると、男性の平均昼食時間は、30年近く前の1983年の33分と比べ、2016年では、21.4分と短くなっており、なかには10分以下と回答する人が10.1%もありました。忙しくなり、日々ゆっくり昼食をとることが難しくなってきているのでしょう。
日本咀嚼学会によると、1回の食事の咀嚼回数は、戦前では約1500回。現代では、戦前の約60%減の約620回だそうです。咀嚼時間とともに減少しているのですね。その背景には、食品の加工技術の向上とともに、食生活の変化や食事時間の減少によって、あまりよく噛まなくても食べられる食事や、脂肪分の多い食事が好まれるようになったことが考えられます。
よく噛むことのメリットとは?「卑弥呼のはがいーぜ」
さて、「よく噛むこと」が健康に良いといいますが、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
「卑弥呼のはがいーぜ」という標語があるのをご存知でしょうか。卑弥呼が活躍した時代には、現代の6倍もの咀嚼回数があったことから、噛むことの効果を示したものです。
「ひ」:肥満の防止
時間をかけてよく噛むことで脳の働きが活発になり、満腹中枢や交感神経が刺激されます。そうすると、食欲を抑えるレプチンというホルモンの分泌が促進されると考えられています。よく噛むことで食欲が抑えられ、満足感を得やすくなるというわけです。
アメリカの研究で、昼食として出されたピザを、ふだんの1.5倍から2倍多く噛んで食べたところ、いつもより1割少ない量でも満足できたという結果が得られました。この実験の参加者のほとんどは、咀嚼回数を増やして時間をかけて食べることで、摂取量が減っても食事に満足できるようになったといいます。
食事をして、胃から脳の満腹中枢に信号が伝わるまでに20分ほど時間がかかります。ですから、まず、最初の1口をよく噛んで食べることを心がけましょう。そして、食べ物のにおいや色を楽しみながら、ゆっくりと噛みしめてみましょう。1口に詰め込みすぎたり、かき込んだりしないように意識するといいですね。
「み」:味覚の発達
よく噛むと食べ物の味が唾液の中に溶け出します。すると、舌にある味覚受容器の味蕾(みらい)に届けられて、おいしさを感じます。また、唾液中の成分は味蕾を保護し、再生する役割があるため、唾液が少なくなると味覚を感じにくくなります。
ある大学の新入生に味覚調査を行ったところ、約25%に味覚障害の疑いがあることがわかりました。食生活を調査すると、朝食を食べない、ジャンクフードやファーストフードが多いなどの共通点が明らかになったそうです。よく噛まなくてもよいやわらかい食事や、食事回数が減ることによって、唾液分泌量が減少したり、味覚細胞の形成に必要な栄養素がとれないことが原因と考えられます。濃い味ではないと満足できない人は要注意かもしれません。
「こ」:言葉(発音)の発達
よく噛むことで顔の筋肉が発達し発音が明瞭になります。また、表情筋も発達するので、顔の表情も豊かに若々しくなります。
また、唾液に含まれるホルモンには、皮膚、髪の毛などの細胞の成長促進と修復をする働きがあります。女性誌には、アンチエイジングのために、表情筋を鍛えるトレーニングやグッズ化粧品などが紹介されていますが、それらを使わなくても、日ごろよく噛んで食べるように心がけるだけでも効果がありそうです。
「の」:脳の発達
よく噛むことで脳細胞が活性化され、記憶力や学習効果が向上するといわれています。高齢者においても、よく噛むことで、加齢に伴う学習効果の低下を防ぐ効果が見られることから、できるだけ噛むことのできる食事をすることが望ましいとされています。
また、よく噛むことはストレスによる記憶能の低下を改善し、過剰な内分泌反応を抑制してストレスを軽減させるともいわれています。「み」の味覚の発達とも関連しますが、よく噛むことによっておいしさが増し、食べる楽しみや幸福感を感じることで、精神の安定やリラックスにつながることが理由ではないかと考えられています。
「は」:歯の病気(歯周病・虫歯)の予防
よく噛むと唾液の分泌が促進されます。唾液には、免疫作用にかかわる酵素やたんぱく質が含まれています。つまり、唾液には、殺菌作用や抗ウイルス作用があるというわけですね。また、唾液は歯のエナメル質を保護するため、虫歯の予防にもなります。
「が」:がんの予防
唾液中の酵素は、食品に含まれる発がん性物質から生成される活性酸素を消去するため、がんの予防や動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病の予防に役立つといわれています。また、唾液によって、食物アレルギーの原因となるアレルゲンを体内で順応できるように変化させるともいわれています。
やわらかい食事や液体をとることによって、免疫細胞の活性が低下したり、免疫抑制にかかわるホルモンの分泌が変動したりします。このことから、やわらかい食事やサプリメントをとることは、免疫機能の低下につながるといわれています。実際に、高齢者の咀嚼能力が改善すると免疫力も向上することから、よく噛んで食べることががんだけでなく、風邪や疲労予防にも関連があると考えられます。
「い」:胃腸快調(胃腸の働きをよくする)
よく噛んで食べ物を細かく砕くことで、胃腸への負担を減らします。よく噛むことは消化酵素を含む唾液を分泌させるだけでなく、胃や腸の消化液の分泌を促す働きがあります。あまりよく噛まないで、急に胃や腸に食べ物が入ってくるとそれだけ胃腸の負担が大きくなります。
「ぜ」:全力投球(全身の活力を生む)
しっかり噛んで食べることで、全身に力が入り、体力や運動能力の向上につながります。
ラグビーやボクシングなどのコンタクトスポーツで、マウスピースをつけて試合をしている場面をみたことがあると思います。これは、けがの予防だけでなく、しっかり噛み合わせることでパワーを発揮したり、集中力を高めたりする効果があるからです。アスリートは、試合時に力を入れすぎて歯が欠けたり、折れたりしてしまうこともあります。そのため、陸上や競泳など、コンタクトスポーツではない競技でも使用している選手がたくさんいます。
やわらかい食事をとり続けることで、筋量の減少や運動能力の影響が懸念されます。高齢者においても、よく噛むことができる人は、バランス感覚や握力が高いことが明らかになっています。健康づくりにスポーツクラブで筋トレに励むだけでなく、毎日の食事で噛むトレをすることでも、筋力アップがのぞめるかもしれません・
おいしい食事をよく噛んで食べ、健康を維持しよう!
「1口で30回噛むとよい」とよくいわれますが、1度数えてみるとなかなか難しいと感じると思います。また、そばやそうめんなどの麺類は、のど越しのよさがおいしさでもあったりしますね。すべての食事で噛む回数が30回必要かというと、そうでもないでしょう。
それぞれの食品に合ったおいしさを感じる回数があるので、のど越しを味わうような麺類や、口どけのやわらかい食感を楽しむようなものを食べるときは、よく噛まないと食べられないようなおかずを組み合わせて食べるようにするとよいでしょう。
日頃は、できるだけよく噛んで食べることでおいしさを感じるものをできるだけ多く選ぶことが必要ですね。
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