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日本初のゲイの心理カウンセラーとして、主にセクシュアルマイノリティーの人々や家族の心のサポート、LGBTについて理解を深めたい企業や団体のアドバイスを行っている心理カウンセラーの村上裕さん。
最近では、CMの炎上問題や社会規範に不自由さを感じている人たちの気持ちが垣間見えるといいます。
「例えば宮城県のPR動画では、セクシーさを売りにしているタレントの壇蜜さんを起用したことが問題になりました。この動画に腹を立てている人は、自分が感じている不便さをこの動画によって増長され、自分の生きづらさを促進するんじゃないかという恐怖にとらわれていると思うのです。この動画から、例えば、“色っぽくないと男性社会に受け入れられない”“女性は性的に搾取されている”というメッセージを受けとり、そんな社会は生きづらい、イヤだというわけです」
ほかにも、女性だけが子育てを行っているようなCMは炎上しがちです。
「“子育ては女性がするものだ”というメッセージを感じ、その不自由さを助長するような内容が許せなくなるのです。本来、自分が生きづらいのなら本人が対処すればいいことなのですが、CMに抗議することに社会正義があるような錯覚をして炎上に加担してしまう。誰かの幸せのためにというわけではなくて、“私は不幸なので、この不幸を促進させないでほしい”という気持ちと、“自分が不幸なのだから、CMを流している会社も不幸であるべきだ。炎上すべきだ”という被害者意識が働いているのでしょう」
誰もが自分に対し期待を持っている
「自分がうまくいっていないのは、自分のせいじゃなくて周りのせいだ」という呪いにかかり、自分では努力しない人も少なくありません。
「そういった足枷を自己否定感、自己卑下、劣等感とも言いますが、不満をぶつける人たちが欲しいのは、相談相手であって解決ではないのです。問題が解決されてしまうと、優しくしてくれる人がいなくなってしまうので……。優しくされるために、自分は常に不幸でなければいけないんです」
そんな人たちをカウンセリングする際、村上さんはどのような話をするのでしょうか?
「“あなた自身があなたの人生に本当は期待していることとは何ですか?”という投げかけを行います。本当は自分の人生に期待している何かがあって、それを抑圧して諦めようとすると、途端にどんどん鎖が増えていくわけです。
でも、自分のことをすごく卑下しているように見える人でも、何かしら自分に期待していることが本当はあります。本質的に人間は“よく生きたい”と願う生き物なので、今よりもよくなりたいという欲求は根源的に持っているのです。それができない理由がたくさんあって、“だからできないんだ”という思い込みにとらわれているわけなので、そこに根気よく投げかけていく感じです」
呪いは緩めたり、薄めることが可能
また、日本人は「幸福は苦労をしなければ手に入らない」という価値観にとらわれ、ラクをすることを非難する傾向にあります。
「耐え忍ぶことが美徳である。耐えることで成長する。苦しんだり、耐えたりしなければ幸せになれないし、成長できない。人間的な魅力にならない、というずっと昔からの呪いが日本にはあります。スポーツでも、楽しそうに練習をしているアスリートの姿よりも、つらそうに練習している映像に魅かれるのです。
この苦労することが幸福につながるといった考え方は、戦時中の“欲しがりません、勝つまでは”が原点でしょう。そして、戦後は人口を増やすために、男女の夫婦を増やさなければならなかったので、社会規範として男女の夫婦がいい、家族は多いほうがいいといった、サザエさん一家のような家族が理想とされました。こういった考え方が定着するとセクシュアルマイノリティーへの差別も生まれます。
また、社会が復興していく過程で、景気をよくすることが国民のミッションで、お父さんは働くことがミッションで、お母さんは子育てをして子どもを社会に送り出すことがミッションだったので、誰も彼もが我慢しなければならなかったし、苦労していたわけです。でも、もう戦後ではないので、苦労しなくても幸せは手に入るということを知るべきです」
こういった呪いを解くにはどうすればいいのでしょうか?
「呪いにかからないことも難しいし、なくすことも難しいのですが、呪いを緩めたり薄めたりすることはできます。呪いに縛られているときって、いわば価値観が少ない状態なのです。“青い色のもの”と言ったら水以外ないんだ! といったような。
それならば、青といえば水もあるし、空もあるし、サッカー日本代表のユニフォームもあるし……と、価値観を増やしていきましょうということです。
例えば、“結婚は男女で行うもの”とだけ考えている人は、結婚を“生殖行為”の意味と混同している可能性が高い。法律上の結婚とは、パートナー同士の権利を保障する“契約”のことですから、異性同士や、年齢、子どもを産む産まないといったことにとらわれる必要はないのです。今までになかった価値観を自分の中に蓄えていくことで、呪いという思い込みは薄まっていき、自由になっていくでしょう」
星野源さんの発言を分析
大ヒットドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)で一躍、時の人となった歌手で俳優の星野源。彼が音楽番組で主題歌『恋』を披露したときの言葉が村上先生は印象に残っているそう。
「ドラマ自体がこれまでの結婚に対する思い込みを取っ払うような内容で、結婚していない人やゲイの人も登場し、誰もが自分らしく、肯定的に生きられるというメッセージが込められていました。
恋愛結婚至上主義が日本はずっと長くて、恋愛して結婚することが正義で、それ以外は偽者だ! みたいな価値観がすごく強かったように思います。セクシュアルマイノリティーとしては、それがすごくつらくて悩む人も多い。
でも、結婚はただの制度であり法律上の契約なので、使いたい人は使えばいいし、必要ないと思えば使わなくていいわけです。逃げ恥のふたりみたいに、便利だからその制度を使おうという価値観で使ったっていい。あのドラマがとてもヒットしたのは、そういうふうに自由でありたいという、本来、人間が持っている本質的なものの表れなのかと思いました。
星野源さん自身も、歌番組で主題歌『Family Song』を披露したとき、ごく自然に“これからは、外国の方とか親がひとりの方とか同性の両親がいる方とか、いろんな家族の形が増えていくと思うんです”と言っていて、素敵だと思いました」
村上さんからのアドバイス
□自分の生きづらさを人のせいにせず自分で解決する
□自分が人生に本当は期待していることに思いをはせる
□苦労しなくても幸せは手に入れていいということを知る
□今までになかった価値観を自分の中に蓄えていく
1982年、福島県生まれ。心理カウンセラー。千葉商科大学にて経営・商学を学んだ後、専門学校にてマイクロカウンセリング理論、来談者中心療法、動物介在療法、芸術療法などを学ぶ。2007年にカウンセリングルームP・M・Rを開き、東京都中野区を拠点に数百人を超えるLGBTQI当事者や周辺家族の相談を受ける。また企業や法人、学校などにLGBT研修を提供し人材育成にも注力する。
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