「デキる人は、ヨガしてる。」(著:石垣英俊、及川彩)より
道徳的な日常生活の「実修」に専念する「カルマ・ヨーガ」は、ポーズや呼吸法、瞑想をしなくても行うことができる生き方のヨガといえます。
デキる人たちと接していると、こういった経典に基づくヨガの哲学を学んだかのように、実に毎日を自然体で過ごしているように見えます。
ここでは、ヨガ哲学が教えてくれる智慧と、「デキる人」たちの思考や習慣を、私たちなりの視点でヨガ的な習慣としてまとめました。
執着しない
結果のためには手段を選ばない、という人がいます。
手に入れたいのが地位なのか、それとも名誉か、お金なのか、はたまた異性なのかは、人それぞれ違います。
しかし、手段を選ばない行為が、他者に対する意図的な暴力(「ヤマ」のアヒムサに反する)や、「調和(ヨガではダルマといいます)」を乱すものであれば、「不徳の致すところ」ということになります。(「カルマ・ヨーガ」では、個人における「ダルマ」は、全体の調和のためにそれぞれがするべきこと=「義務」である、と考えられています)
その人にとって欲を満たすどんな良い結果が得られたとしても、それは一時的な快感でしかありません。
大切なのは、結果に執着せず、「調和(ダルマ)」にかなった行為をして徳を積むことなのだということを「カルマ・ヨーガ」は教えてくれます。
モノゴトの結果に執着すると、本来の目的がわからなくなってしまうことがあります。
周りが見えなくなり、人の意見も耳に入ってこなくなってしまうのです。
しかし生きていく上で、目標や向上心があるのは素晴らしいことです。
例えばお金持ちになりたい、良い車に乗りたい、偉くなりたいなどの具体的なイメージを持つことも大切です。
重要なのは、その目標が、本当に自分が成し遂げたいことであり、すべきことであるのか、という点です。
目的のためには何をしてもいいわけではありません。やはり、ダルマ(調和)を考えて行動しなければいけないのです。
お客様や友人で、治療院やサロン、ヨガスタジオの開設をはじめ、ベンチャー企業や飲食店など、自ら起業する方を何人も見てきました。
今なお順調に経営され、盛業されている方もいれば、店じまいをされたり、方向転換をされた方もいらっしゃいます。
皆それぞれに事情もありますので一概には言えませんが、その人が本当に求めていることで上手くいっているかどうかは、その方の態度や受け答えでわかるものです。
盛業されている方を見ていて思うのは、とにかく思ったことをすぐに行動し、上手くいかなければ軌道修正できている。
こだわりは持ちつつも、執着心がなく素直でフットワークが軽いということです。
一方で、あまり上手くいっていない方は、何かにこだわり過ぎていたり、結果に執着し過ぎているという共通点があります。
自分の期待していた結果が得られないと、納得ができず、心身共に大きなダメージを受けてしまうケースを見てきました。
彼らは「お客様のためにこうしたい」と言いながらも、お客様の意見を聞いていなかったり、お客様の立場になって考えようとしていなかったりします。
自分がこうだから相手も必ずそうだ、という強い信念も大切だと思いますが、時にそういった信念は執着心とも繋がりやすいものです。常に完璧な状態は誰にもありませんから、普段から自分の心身の状態をチェックし、軌道修正できる心構えを持つことが必要だと思います。
ビジネスパーソンの方々も売上や利益の数字ばかりに執着していると、求めているような結果が出ない場合があるでしょう。
優秀な営業マンは、商品の説明が上手なだけではありません。
物を売ることばかりに熱中していれば、わかる人にはわかってしまうものです。
それよりも、相手に困ったことがないかに思いを馳せ、気づき、そこに自社の商品がどのように役立てるかを考え、提案できる人こそが優秀な営業マンといえるでしょう。
例えば、私のような職業の場合、お客様を癒し、治癒に導くための技術の習得ばかりに走り過ぎてしまうことがあります。
一方で、売上・利益を上げていかなければ、経営は続けていけません。
従業員の生活を支える責任があります。
もちろんスキルにこだわることは大切です。
しかし、何のための技術かを忘れては本末転倒になってしまいます。
これは、どんな職業、立場にもいえることでしょう。
技術や知識を修得することが、自己満足に終わってはいけないのです。
本来の目的を忘れて何かに執着すると、本当に大切なお客様の気持ちがわからなくなってしまいます。
技術や知識を使って人の役に立ちたいのであれば、自ずとやるべきことは見えてくるはずです。
知り合いの社長さん(M氏・50代男性)のお話です。
M氏は、ある時愛情を注ぎこんだ新しい商品を開発し、それを世の中に広めたいと思っていました。
M氏はとあるイベントで知り合った男性に、ビジネスパートナーにならないか、という話を持ちかけられたそうです。
知り合って間もないし、その時は丁重にお断りしたそうですが、後に彼がある大手家電量販店の上層部と懇意であることがわかり、M氏は新商品を大手家電量販店で販売したいとの強い思いから、逆に今度は自分から彼に接近し、ビジネスパートナーとして契約を結ぶことにしたそうです。
契約締結後、彼の態度はそれまでとは一変し、口調は厳しいものになり、時に批判は商品を超えてM氏の会社のダメ出しにまでエスカレートしていったそうです。
それでもM氏は、大手家電量販店で新商品を取り扱ってもらえるかもしれないという思いから、我慢したといいます。
彼の言動は従業員を不安にさせ、社内の雰囲気は悪くなる一方でした。
新商品を大手家電量販店に扱ってほしいという執着心が、M氏の判断力や思考を麻痺させていたのでしょう。
いつしか世の中に新商品を広め、人々の生活に役立ててほしいという本来の目的よりも、大手家電量販店で取り扱ってもらうことばかりを考えるようになっていたのです。
そのことに気づいたM氏は、自分にとって大切なものは何かをあらためて考えたといいます。
その時、大手家電量販店とのやりとりは大詰めとなっていましたが、M氏は悩んだ末に、彼との契約を破棄することを決断しました。
彼との契約を破棄するということは、大手家電量販店との商談が頓挫する可能性があるということでした。
案の定、契約破棄を伝えると彼からは「大手家電量販店の話は諦めた方がいいですね。私からお断りしておきます」という回答があったそうです。
M氏は仕方がないと諦め、改めて商品を広める方法を考えるようになったといいます。
しかし、気持ちは晴れ晴れとして、従業員の大切さや、今置かれている環境に満足することができるようになったともいいます。
その後、しばらくして、連絡しなくて良いとは言われたものの、M氏は大手家電量販店にきちんと御礼と謝罪をしていなかったことを後悔し、その旨のメールをしたといいます。
すると驚いたことに、先方は取引をしたい、と申し出てくれたのです。
M氏は言います。「あのまま執着していれば、このような結果にはなっていなかったと思う」と。
このように、目先の結果に執着すると本来の目的を見失ってしまうのです。
執着から解放されたとき、あなたの想いは実現することでしょう。
『デキる人は、ヨガしてる。 (Business Life)』 (クロスメディア・パブリッシング) |