私たちが人と一緒に仕事をするとき、相手に期待することのひとつに、「自分から考えて動いて欲しい」と思うことがあげられます。部下を相手にするケースなどでは、指示待ち人間ではなく、能動的な姿勢を見せる自立した存在に変わって欲しい、と思うことは多いのではないでしょうか。
Googleなどの人気企業が、採用時に最も重視することも自主自立性。どうすれば、部下の自主自立性を高めることができるのでしょうか?
自分から考えて動いて欲しい
マネージャーを対象にした企業研修で、よく聞かれるのが「指示待ち人間が多くて困る」という声。そんな方は、部下とのやり取りを具体的に思い出してみてください。
指示の意味を説明せずにたた指示だけ出していたり、事細かく指示を出し過ぎていたりしていませんか?
部下に指示をしたことをしっかり実行してくれることだけを期待するならば、これで正解です。しかし、部下に「自分で考えて動くこと」を期待するのであれば、自分で考えて動いてくれるような投げかけをしてあげなければいけません。
相手に問いかけていますか?
このための基本的な投げかけは、簡単です。
「この件どうしたらいいと思う?」と、目的論的なアプローチをしてください。
指示待ちが癖になっている人は、この問いにすぐには答えられません。
黙ってしまうとか、フリーズしてしまうこともあるでしょう。
最初の段階は、ここでかなりの忍耐を要しますが、まずは相手が何か口を開くまで待ってあげるのです。
このとき大切なのは、「この人は指示待ち人間」というレッテルをはがし、相手の可能性への承認の気持ちを持って、なんとか口を開くことを応援してあげることです。
ここで、答えか出てこないことにイラついて、「答えられないのは、普段からちゃんと考えていないからだ!」などと言ってしまうと、元も子もありません。
指示待ちが癖になっている状態の人にこんな対応をやってしまうことは、強烈な勇気くじきを与えることになります。
相手をどう見ていますか?
もちろん承認もしっかり持ってあげてください。
あなたが、「指示待ちがこの人の本質だ」と思っているようであれば、その人が考えて動くことを期待する方が愚かだということでもあります。
相手を「自ら考えて動くことができる」と見ることができれば、相手への承認感が増幅していきます。
すぐ答えが返ってこなくても、「何か気になっていることはある?」などと、承認と勇気付けをベースに、いろいろ投げかけてみるのです。
そして相手から少しでも言葉が出てきたら、「その視点面白いね」とか、「今の話から、ちょっとこんなことを思いついたんだけど」 とか、相手が口を開いたことに対して、何らかの価値があった、そして何らかの貢献をしたということを伝えてあげましょう。
相手がさらに意見を言うことへの勇気付けとなります。
人間を小さくする「自分モード」
また、「相手に問いかけると、こちらが案や解を持っていないと思われるのではないか?」と考える人もいますが、心配は無用です。
一緒に考えるモードに入ることによって、相手は考えることに集中します。
目の前のことの解決方法に意識を集中するので、ほかのことに目が向きません。
また、あなたが案や解を持っている場合は、相手が口を開き始めたら、「私はこう考えるけど、どう?」と問うてみることもできます。
案や解を持っていない場合は、「私にもまだ、いいアイデアが見つかっていないんだよ」と正直に言ってしまえば、「意見を求められている」「頼られている」と、相手の考えようとする動機が増してくる可能性もあります。
そもそも相手を変えるという目的のためには、あなたの優秀性の誇示は必要のないことなのです。
この「自分モード」から早く抜ける習慣を身に付けると、あなたの人間としての存在はスケールアップしていくことでしょう。
そんな悠長なこと、やっていられない?
時間がなくて、そんなことやっていられないという方におすすめなのが、「この件について私はこう思うけど、君はどう思う?」という問いかけです。
相手の指示待ち度が高いと、「それがいいと思います」という回答が返ってきがちですが、もう一歩踏み込んで、「この案のどの部分がいい?」と意見を求めることで、相手に 「考える癖」を付けてあげることができます。
部下を守るのが上司の仕事
このやり取りで大事なことは、相手が自主的に出した意見をもとに動いたことで、失敗してしまったケースへの対処です。
失敗に対し、「お前の考えが浅かったから」と、ダメ出しをしてしまったら、元も子もなくなってしまいます。
そもそもその意見に替同しGOを出したのはほかでもないあなた自身です。上司の仕事は、責任を背負うこと。責任を背負ってあげるからこそ、部下は安心して一歩を踏み出せます。
それを、 手のひらを返したように一方的に相手のせいにしたら、またアイデアを出すのを止め、あなたの指示を待つようになります。その方が相手にとって安全だからです。
上司とは部下の後ろ盾になってあげる存在、親が子どもにとっての安全基地であるのと同様です。
相手の失敗に対し、
「そもそも自分がちゃんとカバーできていたか?」とか「アドバイスが足りていたか?」とか
こちらも反省するところがあるのではないでしょうか。
「なぜ失敗したんだ」の原因論の質問は、1回くらいに留めて、「では、次からどうしたらいいと思う?」という目的論で、未来の成功に向けて一緒に歩み出す。これが自主自立に向けての方向性です。
その忍耐はあなた自身の成長の糧
これらの忍耐の先には、あなたが望む展開が待っています。
一時期の忍耐を嫌がって、いつまでも「部下が指示待ちで困る」などと言い続けていることと、その忍耐を自分の成長の糧ぐらいにとらえて、やってみること。これからのあなたは、どちらを選びたいでしょうか?
大変だと思うより、「あなたの人間としてのスケールを育てる体験をもらっている」と考えてみるのもよいでしょう。
あなたをスケールの大きな人間にする、そのトレーニングのために、目の前の相手はわざわざ登場してきてくれた、くらいに考えてみるくらいでよいのではないでしょうか?
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