「なにもしていないのに調子がいい」(著:森田敦史)より
呼吸の力と自然治癒力
呼吸というのは酸素を取り入れて二酸化炭素を出すだけのものではありません。人間は呼吸によって体が膨らむ、しぼむというリズムに従って、体の中心から末端へ、末端から中心へと血液、体液などを循環させる力もあります。
膨らむ、しぼむ力とリズムによって筋肉の質や関節の動きの質、神経の働き、内臓、精神状態に及ぶまで、さまざまな体の働きをサポートしています。呼吸こそが健康な体へと導く鍵なのです。呼吸が乱れ、浅くなり、止まりやすくなってしまうと心身の働きが総合的に低下してしまいます。
筋肉の質が悪くなり緊張や凝りが生まれやすくなって、神経も緊張し、関節の動きも悪くなります。内臓にもストレスを与え、胃腸の働きも低下して免疫力も低下します。このように体に余裕がなくなる精神的にも余裕がなくなり、不安定になったり焦りやすくなったりし、忘れ物やミスをする回数も増えます。
視野も狭くなりアイデアも出にくい、呼吸状態も悪化、といった悪循環に陥ってしまいます。自然治癒力が低下してしまうのです。自然治癒力は呼吸によってスイッチを入れたり切ったりすることができるのです。
自然治癒力は放置治癒力とは違います。呼吸を通して自分自身で整えることで、十分にその力を発揮します。仕事のパフォーマンスが高く健康な人の多くは自分自身をリセットする習慣を持っています。忙しいほどに判断を間違えるわけにはいかない、冷静な判断力が必要です。
仕事における集中力・観察力・行動力、発想力の源も自分の心身のベースにある呼吸の「落ち着き」と「静」の力を活かすことによって向上することが可能です。1日1回、体に集中する時間をつくることは、自身のパフォーマンスに直結してきます。
呼吸の力を引き出すための呼吸法
基本呼吸法を紹介します。呼吸を整え呼吸の力を活用させていくと、呼吸に落ち着きが生まれます。呼吸の落ち着きによって呼吸のニュートラルを設定しやすくなり、心身を安定させることにつながります。
呼吸の落ち着きによって「静」が生まれます。この静の力こそ人間を地に足つかせ本来持っている根源的な安心感であり、すべての活動に必要なベースとなります。
図解基本呼吸法
基本呼吸法手順
1.椅子に座ります。
2.前へならえの格好で背中をやさしく丸くしてお腹全体をへこませてからそれをキープしたままで合掌、合掌した手の親指を胸に軽くつけ、肘が前に出ているポジションをつくります。(図2~4)
3.そのポジションをくずさないようにしたまま、息を鼻から背中を膨らませるように吸います。
4.吸いきったら合掌をほどき、手を図5のようにセット、小指は骨盤の骨、親指は肋骨に触れます。
5.できるだけ細く長く息を口からスッーと吐いていき、肋骨や下腹部を含めて両手の範囲全てを吐く息に従ってへこませていき、息を完全に吐ききっていきます。
1度に5~10回おこなうと効果的です。5~8秒かけて吸い、10~20秒くらいかけて吐くのが理想です。
基本の深呼吸法、息を深く入れて吐ききる呼吸法です。深く吸うためにはこの呼吸ができないと、呼吸が逃げてしまい深く入っていきません。(図1)
合掌を行うことによって「逃げ」を防ぎ、中心を崩さずに安定した呼吸が身につきます。この呼吸法により肩、首、腕全体の緊張が起きにくくなるのです。
図解うずくまり呼吸法
うずくまり呼吸法手順
1.図1のように前へならえから両手を合わせ、肩甲骨から腕を前に移動、同時に背中を丸くします。
2.丸くした背中をキープ、絡ませた指をほどき両腕の肘をつけます。
3.その状態で両肘を自分のおへそにつけるように体を前屈させます。
4.前屈したならば、両手の間に顔を入れ、背中全体に背中を広げるように息を入れていきます。
5.そのポジションで5~8秒くらいかけて背中全体に、広げるように息を入れていきます。
6.息を吸いきったならば、今度は10~20秒くらいかけて体の中にある空気を全部出しつくすように息を吐いていきます。お腹をへこませること。
7.これ以上吐けないところで、すぐに吸って戻すのではなく3~5秒吐こうとします。
8.ゆっくりと息を吸いながら体を起こします。
以上の手順を5~10回繰り返しましょう。
うずくまり呼吸法は呼吸の逃げをなくし体の中心で深い呼吸ができるようになります。吸う力を養い、深呼吸法の吸気がうまくできるようになるのです。呼吸が逃げると膨らむ、しぼむ働きが弱まります。それにより循環、自律神経、筋肉の質、関節の動き、内臓の働き、免疫も低くなります。日々のセルフケアで行うと、効果的な呼吸法です。
図解肋骨呼吸法
肋骨呼吸法手順
1.基本呼吸法1~3の手順と同じです。
2.息を吸いきったならば合掌を外し両手を肋骨にあて、ゆっくりと口からスーッと音を立てて息を吐きます。
3.吐く息に従って肋骨が閉じるような動きを手で感じることができます。それに逆らわずにそのまま肋骨の動きを出しながら息を吐きます。
4.このときに下腹部がぽっこりとでないようにします。
以上を5~10回繰り返して、肋骨やお腹の動きをつかみましょう。
息を吐くために肋骨をしっかり閉じることが必要です。肋骨の動きを両手で感じながらしっかりと息を吐ききりましょう。
図解腕抜き呼吸法
図1-1
図1-2
腕抜き呼吸法手順
1,下腹部をへこませながら脇から腕を上に伸ばします。
2.息を大きく胸式で吸い、さらに腕を伸ばします。
3.腕を伸ばした姿勢をキープしながら息だけ口からスーッと音を出して吐いていく。下腹部がへこみ、骨盤の内側に力が入ります。
4.履き続けながらできるだけ下腹部をへこませ、骨盤の内側に力を入れていきます。
5.息を吐ききったならば、力を入れた部分を緩めずに、大きく息を胸で吸って、さらに腕を伸ばすようにします。
6.吐く息で脱力し、腕を下ろします。
以上を5~10回繰り返しましょう。
腕抜き呼吸法は、呼吸エリアが上がりやすい動きをしたときに、呼吸エリアが守れるようになる体をつくる呼吸法です。安静時に呼吸のニュートラルが守れても、動くと体幹の容積変化による圧力変化が起こります。それを息抜きという圧の加減で調整するのが望ましく、そのために人間の動きは加圧・減圧という圧のコントロールが必要になります。
腕抜き呼吸法は、圧の加減を自然にできる体をつくる呼吸法なのです。この呼吸法をした後は、ふだんの呼吸状態が安定しやすくなります。その際、所作も安定しやすくなっていることに、気づくことが理想なのです。
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