「デキる人は、ヨガしてる。」(著:石垣英俊、及川彩)より
ヨガの実践には、8つの段階があると、ヨガの経典『ヨーガ・スートラ』を編纂した賢者パタンジャリはおっしゃっています。
以下、その8つを簡単にご紹介します。
1.ヤマ(日常生活の中で行わない方が良いこと=他人や物に対して守るべき行動。道徳的基本)
具体的には、アヒムサ(非暴力)、サティヤ(正直)、アスティヤ(不盗)、ブラフマチャリヤ(禁欲)、アパリグラハ(不貧)
2.ニヤマ(日常生活の中で行った方が良いこと=豊かな日常を送るために忘れない心得)
具体的には、シャウチャ(清浄)、サントーシャ(知足)、タパス(苦行・挑戦)、スヴァディアーヤ(学習)、イーシュヴァラ・プラニダーナ(献身)
3.アーサナ(座法)
4.プラーナーヤーマ(呼吸法)
5.プラティヤハーラ(感覚の制御)
6.ダーラナ(集中)
7.ディヤーナ(瞑想)
8.サマーディ(三昧、超越意識状態)
繰り返しになりますが、ヨガの目的は、心のはたらきを鎮めることであるといわれています。
サマーディは、まさにその状態であり、サマーディを目指すために、瞑想(ディヤーナ)が必要であり、瞑想(ディヤーナ)するためには集中(ダーラナ)が必要であり……といったように、ヨガの練習はこの8つの段階を遡っていくことになります。
現代のヨガブームで注目されている姿勢(ポーズ)や呼吸や瞑想といったものは、3番目のアーサナ(座法)以降で触れられているものです。
八支則の最初の2つ、「ヤマ」、「ニヤマ」は日常生活での心構えです。これができていないと、アーサナ(座法)をしても意味はない、という教えであり、そういった意味で、ヨガは生きていく上での心得、心構えであるともいえます。
ヤマは「日常生活の中で行わない方が良いこと」、ニヤマは「日常生活の中で行った方が良いこと」で、それぞれ具体的に5つのことが記されています。
『ヨーガ・スートラ』を解説した書物なども刊行されておりますので、詳しくはそちらをご覧いただければと思いますが、それぞれに私自身の解釈も含めて簡単にご説明したいと思います。
日常生活の心構え、「ヤマ」「ニヤマ」とは?
【ヤマ】(日常生活の中で行わない方が良いこと=他人や物に対して守るべき行動。道徳的基本)
・ Ahimsa(アヒムサ) 暴力をふるわないこと
肉体的暴力だけでなく、行動や、精神的なものも含みます。
言葉の暴力なども振るわず、自分自身を大切にし、万物に対して「非暴力」でありましょう、という教えです。
ほんの軽はずみな一言が、相手をひどく傷つける目に見えない「言葉の暴力」に気を付けることはビジネスシーンのみならず、家庭や友人関係においても非常に大切な心得といえるでしょう。
・Satya(サティヤ)誠実であること、嘘をつかないこと
会話の際に嘘をつかないことはもちろん、行動や考え、思考においても、常に誠実であることを推奨する教えです。
嘘や偽りを抱えながら清々しい気持ちでいることは難しいでしょう。
誠実であることは、非暴力とも取れますので、サティヤとアヒムサはとても似ていると感じます。
・Asteya(アスティヤ)盗まないこと
他者から盗まないだけでなく〝必要以上の物を取らない〟こと。
もの、時間、権利、信頼など、他人のものをむやみに欲しがったり、羨む気持ちも含まれます。
会議の開始時刻に遅れたり、食堂で行列に割り込んだり、相手の話をさえぎってしゃべり出したりするのも他人の時間を奪った(盗んだ)ことになります。
・Brahmacharya(ブラフマチャリヤ)禁欲。精神的、肉体的な快楽を求めすぎないこと
エネルギーの無駄使いをせず、五感の赴くままに生きるのではなく、必要なところにエネルギーを集中させることを推奨する教えです。
・Aparigraha(アパリグラハ)貪らないこと
沸き起こる欲望に身を任せず、本当に必要なものだけを所有しましょう、というブラフマチャリヤと類似した教えでもあります。
「何を所有しているか」ではなく、自分の内側に幸せを見出し、今以上に多くを望む前に、いま手元にある仕事、空気、食べ物、家族、友人、体などを時間をかけて見つめ直すことも大切です。
【ニヤマ】(日常生活の中で行った方が良いこと=豊かな日常を送るために忘れない心得)
・Shaucha(シャウチャ)自分自身の心と体を常に清潔に保つこと
周囲の環境や飲食物への考え方も清らかであること。ネガティブな感情と思考を排除する教えです。
物事の優先順位をつけ、頭の中をスッキリさせるためにデスク周りを整理整頓する、などもオススメの習慣です。
・Santosha(サントーシャ)「足るを知る」、満足すること
必要以上の贅沢をせず、自分の置かれている状況、仕事内容、環境、人間関係、自分の能力など、今自分が持っているものに価値を見出し、満足する心得です。
他人を羨んだり妬んだりせず、思わしくない状況に陥っても、不平不満を漏らすのではなくありのままの事実を受け入れ、平常心を保つことが大切です。
現状に甘んじるのとは違い、欲望や執着に振り回されそうな私たちの心のバランスを保つ鍵とも思えます。
アパリグラハにも通ずる考えです。
私はこのサントーシャを知ってから、生きるのがとても楽になりました。
・Tapas(タパス) 鍛錬すること
「焼く」という意味が語源です。心を強くするために、日々、強い決意と火のような気合いを胸に抱け、というなんとも熱い教えです。
困難なことや自分に不都合な状況も、受け入れられる強い人間に成長することを目的として実践するものです。毎日コツコツ、これもタパスです。
・Svadhyaya(スヴァディアーヤ)常に学びを深め、精神向上を行うこと
常に学び続ける姿勢を持ち、自分自身をより深く理解しようとする教えです。
もしかすると、今あなたが抱えている課題も、知識を増やすことで簡単に解決するかもしれません。
知らない、解らない、と諦めるまえに、何歳になっても、どんな健康状態になっても、学び続けることを推奨しています。
・Ishvarapranidhana(イーシュヴァラ・プラニダーナ) 万物に対して、感謝の気持ちや献身的な心を持って生きること
自分ではどうすることもできないこと(自然の力、時代の変化など)も、受け入れ、身を委ね、自然と共存しましょう、という教えです。
不満のある仕事でも、仕事があることに感謝をしたり、文明の利器に感謝するでもいいでしょう。
「今」を大切に、「今、やるべきこと」を丁寧に誠実に行うことこそが、ヨガであり、献身ともいうことができます。
自分にとって、守るべきものは何か。
「八支則」、その全ては繋がりあっています。
そしてその全てを同時に守ることは、とても困難なことです。
例えば非暴力=アヒムサを守り部下に厳しい言葉をかけずにいることは、あなたにとって正直=サティヤではないかもしれません。
何が今一番大切で守るべきことなのか、を考えることも大切でしょう。
『デキる人は、ヨガしてる。 (Business Life)』 (クロスメディア・パブリッシング) |