「自分を変える習慣力」(著:三浦将)より
姿勢が気持ちをつくる!姿勢と心の関係とは?
スポーツの試合で、接戦の末惜しくも敗れうなだれる選手たちに、監督のみなさんがよく伝えるメッセージがあります。それは、「上を向け、お前たちはしっかり戦ったんだ! 堂々と胸を張って上を向け!」。とても感動的なシーンです。
実はこのシーンで、監督たちは、かなり理に適ったことをやっています。善戦をしたとはいえ、結果的には負けてしまったのが事実。うなだれ、下を向きがちになるのは当然のことです。すると、気持ちも落ち込んでくる。知らず知らずのうちに、負けた原因を探しにいく、その原因と自分との関わりを認識し、責任を感じ、さらに落ち込む。こんなパターンになる人は、結構多いのではないかと思います。
しかし、考えてみると、選手たちはこの試合に向けて一生懸命練習してきました。パーフェクトではなかったかもしれないけれど、試合でも培ってきたことを発揮しました。そんな自分を誇りに思っていいはずです。負けたとは言え、ここまできた努力を自分で讃えてあげていいはずです。そんなとき下を向いていると、なかなか自分を讃えるような気持ちにはなりにくい。
そう、これは姿勢の問題なのです。
これは生理学的に証明されていることですが、姿勢が気持ちをつくるのです。
だから、監督たちの「胸を張って上を向け!」は、選手たちが頑張ってきた自分を讃え、誇りに思うことをしっかりと促す言葉なのです。
実際にやってみましょう!
視線を下に向けて、猫背になりながらちょっと落ち込んだ気持ちになってみてください。
自然に落ち込んだ気持ちになりますよね?
次に、胸を張って、視線を上げて、やや上を見ながら落ち込んだ気持ちになってみてください。
どうでしょうか?今度は先ほどとは感覚が違うのではないでしょうか?
この姿勢では、なかなか落ち込んだ気持ちになりにくいですよね?
では、今度は逆に、視線を下に向けて、猫背になりながら、しっかりと喜び、清々しい気持ちを感じてみてください。これもきっと難しいはずです。
これを、胸を張って、視線を上げて、やや上を見ながらやるとどうでしょうか?
自然と全身に清々しさが溢れてくるのがわかると思います。そう、姿勢は心の状態に大きな影響を及ぼすのです。
わずか2分で生まれる姿勢の違いの差とは?
ハーバード・ビジネス・スクールで教鞭を取る社会心理学者エイミー・カディ教授は、姿勢とボディランゲージ(非言語行動)の重要性を強調しています。姿勢とボディランゲージは、人に与える印象だけでなく、自分自身の心理状態にも大きな影響を与えるからです。
彼女のある実験では、被験者のグループをランダムに 2 つに分けて、1 つ目のグループには、ハイパワーポーズと呼ばれる自信のある人がよく取るようなポーズを 2 分間取ってもらいました。
ハイパワーポーズは、立ちながら両手を腰に当てて、仁王立ちをするようなポーズだったり、椅子に浅く腰かけて、踏ん反り返りながら両手を大きく広げるポーズだったりします。いずれも体がしっかり開いていて、視線が自然と上を向くような姿勢です。
一方、もう 1 つのグループにはローパワーポーズと呼ばれる自信なさげな人たちがよく取るポーズを2分間取ってもらいました。
ローパワーポーズは、何かから自分を守ろうとする時取るようなオドオドした姿勢、体を閉じ、腕で胸のあたりを覆うような姿勢で、視線はうつむき気味です。
実験では、このわずか2分間の姿勢の違いが、脳内の2種類のホルモンに大きな影響を与えることがわかりました。
1 つは、支配性のホルモンであるテストステロン、もう 1 つはストレス度を表すホルモンであるコルチゾールです。
ちなみに、優れたリーダーシップを発揮するリーダーは、高いテスステロン値と低いコルチゾール値を持つと言われます。支配性が高く、ストレスが少ないという状態です。
まず、支配性のホルモンであるテストステロン値は、ハイパワーポーズを2分間取ったグループでは、何と平均20%上昇し、ローパワーポーズを取ったグループでは逆に 10%減少しました。ハイパワーポーズを取った人たちの支配的感覚が上がり、ローパワーポーズを取った人たちの感覚が下がったということです。
そして、ストレス度を表すホルモンであるコルチゾール値は、ハイパワーポーズを2分間取ったグループでは、平均 25%減少し、ローパワーポーズを取ったグループでは逆に 15%上昇したとのことです。ハイパワーポーズを取った人たちのストレス値が下がり、ローパワーポーズを取った人たちのストレス値が上がったということです。
たった 2 分間、異なるポーズを取っただけで、これほどの違いが出るのです。
大きなストレスを抱えた人が、落ち着かない様子で、体をかがめ、閉じたような姿勢を取りがちなことはイメージできると思いますが、実はこの姿勢自体がストレス値をさらに上昇させる原因ともなっているのです。
「良い姿勢をしなさい」という教育を受けてきた方はたくさんいると思います。特に武道や茶道や華道など、日本独特の “ 道 ” の付く稽古事をされてきた方は、背筋の伸びた姿勢を徹底的に教え込まれ、習慣になっている方も多いことでしょう。これは、このハイパワーポーズと同じような効果をもたらすと考えられます。
このような方は、軸を持った強い身体の感覚とともに、脳のホルモンの分泌を促進しているので、凛とした心の状態やストレスに対抗力のある状態をつくり出しやすいと言えます。
大きな動きやポーズで堂々と!
「自分を変える習慣力」の著者、三浦将さんは、外資系企業に 10 年以上勤めた経験があるそうです。そこで、プレゼンテーションを行うときは、なぜか英語でのプレゼンテーションの方が日本語の場合より気分良くできていた覚えがあるそうです。英語のレベルで言えば、こういったプレゼンテーションを何とかこなせる程度のレベルで、決してネイティブ並みに流暢というわけではなかったそうですが、それでもなぜか、英語でプレゼンテーションをすることが好きだったそうです。
そんな中、「自分を変える習慣力」の著者、三浦将さんが同僚によく言われた言葉が、「日本語でのプレゼンテーションより、英語でのプレゼンテーションの方が堂々としてずっといい」、ということだったそうです。英語でのプレゼンテーションをするときは、外国人の上司や同僚のやり方を真似て、かなり大袈裟なボディランゲージを使っていた覚えがあるそうです。
両手を大きく開いたポーズや、自信ありげに聞き手の前に仁王立ちする感じなど、日本語の時とは明らかに違う姿勢や動きをしていたそうです(英語という言語は、こういう大袈裟な体の表現によく合うのです)。
後に、「自分を変える習慣力」の著者、三浦将さんは、このカディ教授の話を聞いて、随分と合点がいった覚えがあるそうです。それからというもの、日本語の時でも同じように、大きな動きやハイパワーポーズを取ることが、すっかり習慣になったそうです。
自分の印象をさらに堂々と見えるようにしようという目的よりも、脳内のテストロステロン値を上げ、コルチゾール値を下げるためにやっているそうです。
「自分を変える習慣力」の著者、三浦将さんの感覚ですが、これが習慣になり始めてから、企業研修の講師をやっている最中などに、いわゆるゾーンとかフロー状態に入ることが多くなったような気がしており、これらの状態に入ると、驚くほどの成果を残すことも実感されているそうです。
注意すべきことは、ハイパワーポーズは場合によっては、少し大柄で失礼な印象を与えかねないポーズでもあることです。だから、例えば、営業の商談の席で、あまり大袈裟にすることに抵抗を感じる方もいるかもしれません。
それゆえ、まずは、あなたの仕事やその他の活動で、緊張を強いられる場面や、プレッシャーの大きくかかる場面を前にした事前準備の習慣としておすすめします。
仕事上の大事なお客さんとの商談の前、プレゼンテーションの前、面接の前など、さまざまな場面が考えられます。また、人によっては、朝会社に行って、上司や同僚にこちらから挨拶するのも、これに近いプレッシャーがある場面と感じる方もいるかもしれません。まずは、これら 1 つ 1 つの場面に入る前に、2 分間だけでいいので、このハイパワーポーズを取ってみる習慣を身に付けるのです。
これは、習慣であると同時に、ラグビーのあの五郎丸選手がキックの時に行っているポーズのような、「ルーティン」と呼ばれるものです。
社内や外出時に、2 分という時間をまわりから見えない環境で取るのはなかなか大変なので、使っていない会議室や、近くのトイレがあなたの大事な準備ルームになるかもしれません。ポーズもいろいろととってみて、自分が一番しっくりくるハイパワーポーズを見つけてみるのも良い方法だと思います。
このわずか 2 分という時間の投資、試してみる価値は十分にありそうです。
視線を上向きに!PC作業時には要注意
ハイパワーポーズの大きな要素の 1 つに、“ 視線が上向きになる ”ということがあります。
一方、あなたの現在の1日の仕事を観察してみて、視線が上向きになっている時間はどれくらいあるでしょうか?
むしろ下向きになっている時間が、かなり多くありませんか?
そう、その代表は、PC を前にしている時間です。業種によっては、1日の大部分を PC での作業に費やしている方もいることでしょう。ここでのおすすめは、PC の位置を高くし、作業時の目線を上げることです。
目線が上向きになるまではいかなくてもいいと思います。下向きにならないで、モニターの画面の中心に目線が行った時に、視線が平行になる感じであれば十分です。
デスクトップの場合はちょっとした台を用意して、モニターをその上に置く。ノートブックの場合は、いっぱいに広げたまま縦に固定できるような PC 用品があるので、それに少しばかりの投資をしてみてはいかがでしょうか?
これは、メンタルの面だけでなく、PC での作業による目や体疲れを軽減する働きもあるので、一石二鳥です。台などを用意し、環境を整えるだけで、自然と習慣化できるので、何の苦労もなくできるアイデアです。
姿勢やポーズでより良い習慣を
いかがでしたでしょうか?
姿勢は心の状態に大きく影響しています。
わずか2分、たったの2分で脳のホルモンの分泌を促進し、凛とした心の状態やストレスに対抗力のある状態を作りり出してくれるのです!
ハイパワーポーズを身につけ、驚くほどの成果を出してみませんか?
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