人は誰でも、自分の話を聞いてもらいたいという欲求をもっています。それが満たされないのは、とてもつらいこと。その欲求を満たしてあげるのが、相手の話を聞くことです。
聞くことは会話の原点であり、思いやりの心が大切です。仏教で言うなら、多くの人に親しまれている観音菩薩は人々の迷いや悩みを聞いてくれる仏さまです。
観音とは、「音を観る」と書きます。「見聞一致」という言葉があるように、仏教では「見る」と「聞く」は同じことだと考えます。ですから観音さまは、私たちの心の声を聞いてくださる仏さまなのです。
さらに観音さまは、「抜苦与楽(ばっくよらく / 苦を取りのぞいて楽を施す)の仏さま」といわれます。
このように、苦悩する人々の声を聞きとり、人を救うことを喜びとする観音さまだからこそ、観音信仰は全国各地に広まりました。
私たちも、会話の表面的な部分だけでなく、言葉になっていない会話の後ろ側にある、「相手が何を思っているのか、何を伝えようとしているのか」を想像することが大切です。
相手の話を聞くコミュニケーション技法として「傾聴」があります。
カール・ロジャーズというアメリカの臨床心理学者が提唱した「積極的傾聴」が、カウンセリングやコーチングの分野だけでなく、良好な人間関係を築くための技法として知られるようになりました。
経済産業省が〝人生100年時代の社会人基礎力〟と定義する「ライフステージの各段階で活躍し続けるために求められる力」の要素のひとつに「傾聴力」が含まれています。
傾聴とは、相手の気持ちに共感し、相手に関心を持って真摯に向き合うことです。
ロジャーズは、話を聞く側に必要な3要素として以下をあげています。
①共感的理解→相手の立場になって、相手の気持ちに共感しながら話を聞く。
②無条件の肯定的配慮→相手の話の善悪や好き嫌いを評価せず、肯定的な関心を持って話を聴く。
③自己一致→相手の話がわからないときは聞き直す。わからないことをそのままにしない。
ビジネスの現場でも欠かせない「傾聴力」

これだけなら傾聴はそれほど難しいことではない、と感じる方もいるかもしれません。しかし、実践してみると一筋縄ではいかないことがわかります。
相手の気持ちに共感しようとして「相づち」を打ったり、相手の言葉を「オウム返し」したりすることで傾聴できているつもりになっている人も多いようですが、それでは相手の気持ちを汲みとることはできません。
傾聴の3要素を見ても、良好な人間関係を築く最大のポイントは、本気でわかろうとする思いやりの心にあることがわかります。
思いやりのコミュニケーションでは、相手が何を伝えようとしているのかを察することも大切です。見えない部分を見るためには、それだけの力量が必要です。
察する力はビジネスの世界でも欠かせません。商談であれば、先方の担当者がどのような使命を負ってこの席に着いているのかを察することで、相手の立場を踏まえた提案ができます。
「そうか、ここまで察して提案してくれているんだ!」そんなところから信頼関係を築くことができます。
調子よく相づちを打って、値引きをすれば買ってくれるだろう、納期を早めれば決まるだろう、などと安易な提案をするのとは大違いです。
自分の手柄や自社の利益をひとまず横に置き、相手が今この席に着いている背景を察して対応したらよいのです。そんな仕事ぶりは必ず相手に通じます。そして長いつき合いができるはずです。
『迷ったら、ゆずってみるとうまくいく』
(著:枡野俊明/ますの・しゅんみょう)より
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