「なぜか休職者・離職者が多い」「入社したばかりの若手や優秀な社員ほど辞めていく」……
あなたの職場は、そんな「人が逃げる職場」になっていませんか?
産業カウンセラー、エグゼクティブ・コーチの渡部卓氏によると、人が集まる職場・逃げる職場にはそれぞれ一定の特徴が見られるそうです。あなたの職場を、誰もが安心して働ける「人が集まる職場」にするためにはどうしたらいいのか? 渡部卓氏の最新刊『人が集まる職場 人が逃げる職場』より、職場の空気を変えるために今すぐ実践できる方法をお教えします。
上司と部下の適切な距離感とは?
上司として、部下の話に耳を傾け、真摯に向き合うのは大切なこと。上司が最も重視すべきスキルは「傾聴」であるといっても過言ではありません。しかし、相手の話をしっかり聞くのはいいのですが、相手の問題に深入りしすぎてしまっては問題です。自分も疲れますし、部下にも嫌がられてしまうかもしれません。
では、上司としてはどのような立場や距離感で部下の話を聞くのが適切なのでしょうか。
ヒントは、ノンフィクション作家・評論家の柳田邦男氏の言葉にあります。彼は著書や講演の中で「2・5人称の視点」の重要性を説いています。数々の事故・事件・災害などを追ってきた柳田氏が、ジャーナリズムにおける被害者・弱者に対する視点として説いているものですが、これは傾聴する際の相手との距離感にも通ずるものです。 私も10年以上前から、「部下に対する上司のスタンス」として「2・5人称」の重要性をお伝えしてきました。人が集まる職場を目指すなら、管理職の方々にはぜひこの距離感を身につけておいてほしいと思います。
部下の話は「2.5人称視点」で聞く
さて、2・5人称とはどのような視点なのでしょうか。
たとえば、部下から「仕事にやりがいを感じず、行き詰まっている」という相談を 受けたときの上司の視点を、1人称・2人称・3人称とあわせて考えてみましょう。
1人称の視点
「もし自分だったらどうするだろう?辛くて会社を辞めたくなるかもしれないな」
2人称の視点
「自分の子どもがこんな風に悩んでいたらと思うといたたまれない。なんとかしてやりたい」
2.5人称の視点
「仕事にやりがいを感じず、行き詰まっているのか。それは辛いだろうな。自分はどうサポートしたらよいか、考えてみよう。本人にも聞いてみよう」
3人称の視点
「彼ぐらいの歳のビジネスマンは、仕事への不安を抱きやすいものだ。上司としてアドバイスをしよう」
いかがでしょうか。
1人称、2人称の視点を持った上司の場合、部下の状況を自分や家族に置き換えて考えていますから、非常に親身になって話を聞いてあげられそうですね。しかし、あまりにも自分に近しい問題として考えてしまうと、感情的になったり、冷静な判断ができなかったりする危険性があります。3人称の視点に関しては、部下の悩みをあくまで他人事と捉え、一般論に当てはめようとしているふしがあります。
感情移入しすぎず、第3者目線になりすぎない絶妙なバランス
「2・5人称」というのは、文字通り2人称と3人称のちょうど中間の視点。感情移入しすぎず、第3者目線になりすぎない絶妙なバランスが必要です。
先ほどの例で言えば、「仕事にやりがいを感じず、行き詰まっている」という事実を客観的に捉え(3人称の視点)、「それは辛いだろう」と共感し(2人称の視点)、上司 として解決策を考えつつも、相手が自分で考えるようにも促しています。このような 状態が2・5人称です。
ただ、実際にこの視点を持てるようになるのはなかなか難しいかもしれません。時には感情的になってしまうこともあるでしょうし、場合によっては3人称視点に徹した方がいいこともあります。状況によって2人称、3人称に傾いてしまうのはある程度仕方のないことです。
けれど、部下から相談を受けたとき、何かトラブルがあったときなど、この「2・5 人称の距離感」を思い出していただくと、ほどよい距離感を保ちやすくなると思います。
私自身、企業での管理職を長く務め、数多くの面談を行ってきました。大学教員としても長年、文系・理系や私立・国立などさまざまな大学で、学生を指導してきました。そうしてさまざまな事情を持つ人々と向き合うとき、私も「2・5人称」の視点を 持つように心がけています。
大学で担当するゼミの学生たちに対しては、他の学生と比べて話をする機会も多く、 退学や休学に関する相談を受けたときなど、つい2人称の視点で考えてしまいそうになることもあります。「もう投げ出したい」「心身を壊してしまった」「経済的に苦しい」などの辛い訴えもあれば、「留学したい」「大学院に行きたい」「資格の取得を目指 したい」という前向きな訴えもあったり、事情を知れば知るほど感情移入しそうになります。
ですが、大学(職場)を去るか否かというようなデリケートな問題に対峙したときこそ、2・5人称の視点が必要です。感情的になって過干渉や過保護にならないよう、かといってただ突き放したようにも思われないよう、私も細心の注意を払って接するようにしています。
当てはまったら要注意!人が逃げる職場の特徴とは
- 雑談がほとんどない
- 朝イチや夕方の会議が多い
- いつも同じメンバーが残業
- フィードバックを重視
- 優秀なマネージャーがいるetc…
ギスギス・鬱々した不穏な空気が漂い、人が逃げていく職場には特徴があります。その根本にあるのは、人が生き生きと働くためのモチベーションとなる「成長していく感覚」を職場が阻害し、「ここにいたら潰される!」というネガティブな感覚すら与えてしまっているという問題。
では、これをどう解決すればいいのか?『人が集まる職場 人が逃げる職場』(渡部卓/クロスメディア・パブリッシング刊)では、数多の職場を見てきた職場のメンタルヘルス・コミュニケーション対策の第一人者である著者が、人が集まる職場・逃げる職場それぞれの特徴を例示しながら、忙しい中でも実践できる解決策をお教えしています。
「服装を使い分ける」「”かりてきたねこ”で叱る」「フィードフォワードする」「2.5人称の視点を持つ」…確かな理論と経験に基づくノウハウが気楽に取り組める形にまとめられ、豊富な図解とイラストでわかりやすく紹介されています。管理職や若手リーダーをはじめ、職場の停滞感に悩む人は手にとってみてはいかがでしょうか。
産業カウンセラー、エグゼクティブ・コーチ。帝京平成大学現代ライフ学部教授、(株)ライフバランスマネジメント研究所代表。1979年早稲田大学政経学部卒。モービル石油入社後、コーネル大学で人事組織論を学び、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院でMBA取得。1990年日本ペプシコ入社、AOL、シスコシステムズ、ネットエイジを経て、2003年(株)ライフバランスマネジメント設立。職場のメンタルヘルス・コミュニケーション対策の第一人者であり、講演・企業研修・コンサルティング・教育・メディア等における多数の実績を持つ。『メンタルタフネス経営』『折れない心をつくる シンプルな習慣』『折れやすい部下の叱り方』(日本経済新聞出版社)、『明日に疲れを持ち越さない プロフェッショナルの仕事術』『はたらく人のコンディショニング事典』(クロスメディア・パブリッシング)ほか著書・監修書多数。
新刊紹介:「人が集まる職場 人が逃げる職場」
【目次(一部抜粋)】
序章 人が集まる職場には、「成長感覚」の風が吹いている
- 「ここにいたら潰される」と感じたら、人は逃げていく
- 多様化する成長感覚
- 心が折れにくい人は、”風の乗り方”がうまい人
- 不安の時代に必要なのは「共感」の力
- 「部下への指導も5時まで勝負」で起きる悲劇
- “ほどほどのパートナー”を目指す
第1章 「共感」し合える職場
- 人が集まる職場は、カウンセリングする/人が逃げる職場は、コーチングのみ
- 人が集まる職場は、フィードフォワードを行う/人が逃げる職場は、フィードバックのみ行う
- 人が集まる職場は、「しずかちゃん式」/人が逃げる職場は、「のび太式」か「ジャイアン式」
- 人が集まる職場は、等身大の上司がいる/人が逃げる職場は、エリート上司がいる
- 人が集まる職場は、時には凹む/人が逃げる職場は、いつでもポジティブ
- 人が集まる職場は、異質なものを受け入れる/人が逃げる職場は、異質なものを排除する
【コラム①】無自覚な”善意型ハラスメント”に要注意!
第2章 「人が育つ」職場
- 人が集まる職場は、優秀なリーダーとマネージャーがいる/人が逃げる職場は、優秀なマネージャーのみ
- 人が集まる職場は、▽構造/人が逃げる職場は、△構造
- 人が集まる職場は、成長段階に合わせて仕事を振る/人が逃げる職場は、会社の都合に合わせて仕事を振る
- 人が集まる職場は、研修はしっかり行う/人が逃げる職場は、実践のみで育てる
- 人が集まる職場は、部下の成長が上司の評価になる/人が逃げる職場は、部下の指導はプラスαで行う
【コラム②】心が折れやすい4タイプへの処方箋
第3章 「自然なコミュニケーション」が生まれる職場
- 人が集まる職場は、適度にワイガヤ/人が逃げる職場は、常に静か
- 人が集まる職場は、「報連相」を意識しない/人が逃げる職場は、「報連相しろ」が飛び交う
- 人が集まる職場は、管理職が歩き回っている/人が逃げる職場は、管理職が座っている
- 人が集まる職場は、会議が少なくても回る/人が逃げる職場は、とにかく会議が多い
- 人が集まる職場は、アイスブレイクから入ってきっちり終える/人が逃げる職場は、始まりにうるさく終わりに無頓着
- 人が集まる職場は、適度に視線が遮られる/人が逃げる職場は、隅々まで視線が届く
【コラム③】ストレスを上手に解消する”4Rマイリスト”
終章 「成長感覚」の共有が一生の宝物になる
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