睡眠不足が判断力低下を招く
仕事中、自分で判断しなければならないことはたくさんあることでしょう。
「寝不足で頭が回らない」とよくいいますが、頭の回転を円滑にするためには、「睡眠」が必要不可欠です。というのも、睡眠不足に陥ると、脳の司令塔である前頭葉の働きが低下してしまうからです。思考を司る前頭葉が働かなくなると、情報の取捨選択能力が低下し、処理能力が鈍くなっていきます。
前頭葉の機能が下がっているかどうかの指標となるのは、”机の上にものが溜まっているかどうか”。
睡眠不足によって判断力が低下すると、書類の処理やいらないゴミの処理ができず、脇におきっぱなしのまま判断を先延ばしにしてしまいます。あたりを見回して乱雑になっているようなら、脳はオーバーヒート気味。休息が必要といえるでしょう。
また、なにか重大な決断を下すときは、今まで得た経験に照らし合わせて今の状況を把握し、判断を下すのが一般的です。けれども、記憶は睡眠という過程を経なければ、脳に定着させることができません。良い判断を下すソースとなる経験を積み重ねるためにも、睡眠は欠かせないのです。
睡眠不足がイライラの原因に
さらに、寝不足のせいで起こる弊害として、”情緒不安定”が挙げられます。
ついつい夜更かししてしまった次の日、いつもだったら聞き流せるような言葉に苛立ってしまったり、いつも以上に落ち込んでしまったり…ということがないでしょうか?
睡眠時間が不足し脳の覚醒レベルが低下すると、感情を司る扁桃体が過剰に働くようになります。扁桃体は敵を警戒する部位で、周囲に注意を払うため、寝不足の時は必要以上に相手の言動に感情的な反応を示してしまうのです。
また、扁桃体のすぐ後ろには海馬という記憶を司る部位があり、密接に関係しています。海馬は扁桃体の反応を記憶してしまうので、もし一度不快だと感じてしまうと海馬にそのことが記憶され、似たような場面に再度出くわすと、以前と同じように不快な反応をしてしまうという悪循環にも陥ってしまうことがあります。
冷静な心の状態を保ち、冷静な判断を下すためにも、睡眠は不可欠なのです。
短時間睡眠は効率が悪い!
膨大な仕事量や趣味の多様化によって、「1日が24時間では足りない!」という人も多いかもしれません。中には、やりたいこと、やらなければならないことを遂行させるために、睡眠時間を削っている人もいるでしょう。しかし、睡眠時間を削って活動時間を増やしたとしても、効率が悪ければ元も子もありません。
「睡眠時間と集中力の関係」について調べた研究によると、
- 8時間たっぷりと睡眠時間を確保したときと比べ、6時間睡眠の場合、意識の上では多少眠気を感じる程度で、作業の内容に大きな差は見られない。
- しかし、6時間睡眠が続くと、日を追うごとに明らかに反応速度が鈍くなる。2週間後には8時間寝ている人たちに比べ、5倍も刺激に対する反応が遅くなっている。
という結果が出ているのです。
”6時間睡眠が続くと、8時間しっかり寝ている人たちに比べ、5倍も刺激に対する反応が遅くなる”…衝撃的ですね。
他にも、1965年にアメリカ空軍を対象に行われた実験では、
- 3時間睡眠を8日間続けると、視覚関連の仕事でミスが増える。
という結果が出たことを、フロリダ大学のウェップ教授が明らかにしました。
日本人にショートスリーパーはほとんどいない
世の中には”ショートスリーパー”といって、短時間睡眠が身体に合っており、睡眠時間が短くても異常が表れない人もいます。しかし、それは割合から言えば日本人で5~8パーセント。いないわけではありませんが、稀な体質の人だと言えます。ショートスリーパーでない人が活動時間を増やすために睡眠時間を削ってしまうと、むやみに身体に負担をかけ、昼間の集中力を削ぐことになってしまいます。
わたしたち日本人の平均睡眠時間は8時間。それがもっとも身体に合っている人が多いのですが、それ以上眠らないと頭が働かないという”ロングスリーパー”の人もいます。
短時間睡眠は人生で使える時間が増える魅力的な方法に見えるかもしれませんが、身体への影響を考えればわずか10パーセントにも満たないショートスリーパーの人たちにしかおすすめできないメソッドです。
無理やりにショートスリーパーになる方法を模索して、短時間睡眠→非効率な活動&仕事や趣味のやり残し→短時間睡眠…の悪循環に陥るより、夜はしっかり寝て、昼間はしっかり活動するほうがよほどいいのです。
覚醒時間に頭をすっきりさせ、やりたいことを全力でやる。そのために自分にもっとも合った睡眠のリズムと時間を見出すことが、真に効率のいい方法だと言えるでしょう。
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