「自分を変える習慣力」(著:三浦将)より
運動で脳力がアップする?
人生はロングラン、健康を保ち続けるには、食事の習慣と並んで、運動の習慣が大事だと頭ではわかっています。でも、忙しい毎日の中、なかなか運動をする時間が取れないという状態の方も多いと思います。
運動には、健康促進という面の他にも、心への効果も見逃せません。
有酸素運動状態では、幸せホルモンのセロトニン、快楽ホルモンのドーパミンなどの成長ホルモンが特に分泌しやすく、これらが気分の向上をもたらすと考えられています。
セロトニンは、快楽ホルモンのドーパミンと怒りとやる気のホルモンであるノルアドレナリンの調整役として、適応力や心のバランスを整える効果があります。心のバランスが取れるので、幸せな気分になり、情緒が安定するのです。
みなさんにとって更にいいニュースは、運動により脳のニューロンが結び付くという事実が発見されていることです。
運動することによって、脳の器官である海馬の幹細胞から新しいニューロンが成長することを促すのです。つまり、運動によっても、あなたの脳力がアップする可能性があるのです。
ニューロンの結合で脳力が上がる?
快適領域を超える習慣のところでご紹介したように、何か新しいことや難しいことに挑戦しようとするとき、シナプスを通じてニューロンに情報が送られ、脳内のニューロンが新しい強い結合を作ります。
そのとき、ニューロンの回路の材料となるのがBDNF(脳由来神経栄養因子 Brain-derived neurotrophic growth factors)です。脳内から分泌されるホルモンであるセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンといった神経伝達物質が、ニューロン間の信号を伝える潤滑油のような働きをするのに対し、このBDNFは、ニューロンという回路自体をつくる栄養素にあたります。
つまり、BDNFは、脳力を上げるための土台、つまり脳のインフラをつくる要素なのです。
このように、BDNFは、成人になっても脳力を上げ続けることを可能にする栄養素でもあります。このBDNFについての研究は、1990 年代に研究者の間で大ブームとなりました。
BDNFと運動の関連について、まだ誰も明らかにしていなかった頃、カリフォルニア大学アーヴァイン校の脳老化・認知症研究所の所長を務めるカール・コットマンは、マウスによるある実験を行いました。
実験では、マウスをステンレスで自作した、カラカラと回転する回し車の中を走らせるグループと、回し車を使わせないグループに分けました。そして、回し車で運動を続けたグループのマウスの脳では、BDNFの明らかな増殖が見られたということです。さらには、長い距離を走り続けたマウスほど、その増殖量が多いことも判明しました。
一方、これはただ走り続ければ脳力が上がり続けるということではありません。BDNFが増えるということは、ニューロンが新しい強い結び付きを持つ可能性がある土台ができる、ということに過ぎないのです。
例えば、野菜をつくるにしても、豊饒な土壌がある上に、しっかり耕しながら酸素を土の中に多く含ませる手間をかけたり、必要な日照を与えたりしながら育ててあげる必要があります。同様に、BDNFが増え、結び付いたニューロンもちゃんとした回路として定着するプロセスを辿って行かなければ、残念ながら脳細胞となることなく死んでいってしまいます。これでは、脳力を上げることには結び付きません。
有酸素運動をした後の習慣が大切ですよ!
では、脳力を上げるにはどうしたらいいのでしょうか?
下記では、BDNFを増加させる2つの習慣をご紹介します。
①有酸素運動をした後に、創造的な仕事をする習慣を持つこと
2007 年に行われたある実験では、50 歳から 64 歳までの成人 40 人を、2 つのグループに分けました。
1 つのグループには、最大心拍数の 60%から 70%の間で有酸素運動を 35 分続けてもらい、もう 1 つのグループには、その間、映画などを見て過ごしてもらいました。
そして、その後両方のグループに、創造性を試すようなテストを受けてもらったところ、運動したグループは、答える速度や問題の認識力が著しく向上したとのことです。
これは、有酸素運動によって、BDNFが増加すると同時に、新しいニューロンの結び付きが生まれることで、脳が活性化した状態が生まれ、その後の創造的な仕事を促進したのです。
さらには、有酸素運動で生まれた新しいニューロンが、創造的仕事をすることによって、しっかりと定着するという効果も表れたと考えられます。運動しただけでは、せっかく生まれた新しいニューロンが、その後死んでいってしまう可能性があったところ、続けて行った創造的仕事によって、新たな脳細胞としての定着が図られたのです。
有酸素運動をした後に、創造的な仕事をする。
欧米のエグゼクティブの多くが、朝一のジョギングの後に、アイデアワークなど、クリエイティブな仕事に取り掛かるというパターンは、こういった意味でもかなり理に適っています。
その他のアイデアとしては、午後の最初の仕事として、創造的な会議を設定して、昼休みのうちにジョギングなどの有酸素運動をしてから、その会議に臨むというやり方があります。これにより、会議の生産性を上げると同時に、あなたの脳力を上げるという効果も期待できるのではないでしょうか?
②有酸素運動をした後に、複雑な動きやバランス感覚を要する運動を行う習慣
イリノイ大学の神経科学者のウィリアム・グリーノーの研究では、ラットを 2 つのグループに分けました。
1 つのグループには、単純に走り続けることをさせ、もう 1 つのグループには、フィールドアスレチックのような複雑な運動や、バランスを保つ運動を続けさせました。その結果、複雑な運動やバランスを保つ運動をさせていたラットは、脳内の BDNF がより増加したといいます。
複雑な動きやバランスを保つ運動は、ニューロンを広めるとともに、結合を強くするので、より複雑な動きなどをすることによって、新しくできるニューロンの数と結び付きを強化し、脳細胞としての定着を促します。
このように、有酸素運動を 20 ~ 30 分した後に、複雑な動きをするダンス、ヨガのポーズやバランスを保つことを必要とするボルダリング、バランスボールなどをすることが、新しい脳細胞の定着に効果を発揮します。
すでにそういった運動をしている方は、その前に数十分の有酸素運動を取り入れてみる習慣を加えるだけで、脳力アップへの効果が期待できるのです。
また、複雑な動きが伴う活動であるピアノやギター、ドラムなど、楽器の演奏が趣味の方は、演奏の前に有酸素運動をする習慣を付けてみるのも効果的です。
運動とチャレンジの習慣で結びつきを促進させましょう
お話ししてきたように、運動をすることによって、新しい情報を記憶する細胞レベルでの基盤として、ニューロンの結び付きが促進され、脳がパワーアップします。その結び付き自体を活性化すると同時に、脳力を上げるための栄養素であるBDNFを脳内に増殖させ、「結びつきの準備を促進する」という効果もあります。
つまり、運動の習慣が、ニューロンが結び付きやすくなる豊饒な土台をつくってくれるのです。
前項で、快適領域を超える習慣、チャレンジする習慣についてお話ししました。慣れ親しんだ快適領域を超え、チャレンジをすることでも、ニューロンの結び付きは活性化されます。
ここでおすすめしたいのは、まず運動の習慣を身に付けることによって、ニューロンが結び付きやすくなる土台を作り、さらに、快適領域を超える習慣、チャレンジの習慣を身に付けることによって、その結び付きをさらに強力に促進させることです。
大きなチャレンジをし、試行錯誤、トライ&エラーを繰り返しながら進むことが、最もニューロンの結び付きを促進します。このことで、あなたの脳力のレベルが段違いに変わっていくということです。
そのための脳の状態の土台づくりとして、運動の習慣を身に付けること、とても理に適った流れだと思います。
運動による効果的なダイエット習慣とは?
さて、運動といえば、ダイエットについても気になる方が多いと思います。運動のとき、有酸素運動をすることで脂肪を消費し、痩せる効果があることは有名です。
有酸素運動とは、あまり強くない力が筋肉にかかり続ける運動で、ジョギングやエアロビクス、ゆっくりした水泳などを 20 分以上続けることで、体内の脂肪燃焼が起こります。ポイントは、大きく負担のかからない運動を続けることです。苦しさを伴うようなレベルまでいってしまうと、呼吸が浅くなり、酸素が不足してしまうため、体脂肪の燃焼が起こりません。
一方、筋力トレーニングや短距離ダッシュなどの運動は、無酸素運動で、筋肉を鍛え、基礎代謝量を増やす効果があります。基礎代謝量は、20 代をピークに年々落ちていきます。中年以降に太りやすくなるのは、これが原因の 1 つです。脂肪と筋肉では、筋肉の方が消費エネルギーが大きいので、無酸素運動で筋肉質の体をつくることによって、基礎代謝量は増加します。
そのため、無酸素運動で、基礎代謝量を上げつつ、有酸素運動で脂肪を燃焼するというのが、効果的なダイエットにつながります。
例えば、1 時間の運動であればストレッチ 5 分間 ⇒ 筋力トレーニング(無酸素運動)10 分⇒ ジョギング、エアロバイクなどの有酸素運動 40 分 ⇒ ストレッチ 5 分といった感じが、ダイエットを意識した運動としてよいでしょう。
ポイントは、筋肉トレーニングを最初に行うことです。
筋肉トレーニングを最初に行うことによって、体内の糖分を消費するので、有酸素運動の際、脂肪の消費がしやすくなる運動パターンができあがります。ダイエットが目的であれば、有酸素運動を 20 分以上取り入れましょう。
一方、筋肉を鍛えることが目的ならば、筋力トレーニングの時間の割合を増やします。この場合、ストレッチがポイントになります。
筋力トレーニング前の最初のストレッチで、筋肉を伸ばしすぎないこと。筋力トレーニングは、筋肉に圧力をかけて収縮させ、鍛えるトレーニング。だから、ストレッチで筋肉を伸ばしすぎると、筋肉を増強する効果が薄れてしまいます。まずは、筋肉を伸ばしすぎない軽い準備運動から始めて、筋力トレーニングを行い、その後筋肉をしっかり伸ばすようなストレッチを行うと効果的です。
例えば、軽い準備運動 5 分間 ⇒ 筋力トレーニング(無酸素運動)25 分⇒ ストレッチ 5 分 ⇒ ジョギング、エアロバイクなどの有酸素運動 20 分 ⇒ ストレッチ 5 分といった感じで行うと、とても効果的です。
この順番がとても大切なのです。
運動する習慣を身につけましょう!
いかがでしたでしょうか。
運動をすることによって、様々な効果が得られますね!
忙しくて運動をする時間がない!という方も、少しづつ出来ることから取り入れてみてはどうでしょう?
あなたにとって、理にかなったいい効果が得られるはずですよ。
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