「一流の人はなぜそこまで、靴にこだわるのか?」(著:渡辺鮮彦)より
一流の男が選ぶのは、シンプルでスタンダードな一足
足元、靴にこだわるというのは、単に高い靴・おしゃれな靴を履くということではありません。
ちょうど2000年頃から、日本でも質の良い紳士靴、ビジネスシューズ、特にインポートブランドへの関心は随分と高まってきました。
しかし、こうした感心の高まりはあくまでファッションであって、「ビジネスマナーとしての身だしなみ」できちんと多くの方が靴に気を使うようになったわけではないように感じます。
メーカーとの打合せや市場調査、展示会などで私はよく仕事でイギリスへ行きますが、イギリスではビジネスマナーとしての身だしなみというアプローチで靴を選ぶのが昔からの常道です。
日本の現状を比較してみると、足元にまったく気を遣っていないケースと共に、足元が必要以上に強調され、かえって悪目立ちするケースも結構多い気がするのです。
どのような靴を、どのような場で、どのような状態で履くのか。
これには不思議とその人の審美眼や人生観が如実に表れます。
日本ではともかく、欧米のビジネスシーンでは靴の選び方がそのまま、その人の「仕事への姿勢」をあらわしていると考えられてしまうことが多いのです。
そのためでしょうか。欧米の堅実なビジネスパーソンたちは判を押したように選ぶのは、ブランドはどこであれスタンダードなデザインの紳士靴と決まっています。
奇抜なものや派手すぎるものなど、主張の強い靴を選ぶ人はあまりいません。
きっと、あえて王道の定番のものを履くことで、「基本軸がブレていない人間」であることを相手にダイレクトに、しかし節度をもって伝えようとしているのだと思います。
足元への気遣いは寡黙、かつ雄弁に一流であることを主張する
今、ビジネスの戦略において「ライフタイムバリュー」略して「LTV」なる概念や指標が、業種や国の違いを超えて重要視されています。
高度経済成長期であれば、多少の失敗や顧客の離反があり短期的な取り組みを繰り返していても、それなりにビジネスチャンスは訪れたかもしれません。
しかし、現代の厳しい経済環境の中では、クライアントに「この人とは今回限りではなく“長期的に”一緒に仕事に取り組みたい」と思わせること、つまり顧客から永続的な信頼を得ることが、従来にも増して肝心になってきました。
企業が成長するためには、このようにクライアントと長期的視点で安定した関係を築くことが、今後はより大切になっていくことと思います。
ビジネスにおける信頼は個々のビジネスパーソンの精神的・実務的双方の面での安定性や継続性の積み重ねであるのは言うまでもありません。
だからこそ「節度を持ち、抑制が利いて、普遍性を重んじる」基本軸がブレない価値観を身なりや立ち振る舞いで自然に表現する必要性が今後はますます高まっていくのではないでしょうか。
業界によってはTシャツとスニーカー姿でもビッグビジネスが展開できる世の中ではあるものの、スタンダードなビジネスシューズを今あらためて履いていただきたい理由がここにあります。
足元という人間の基礎・土台の部分で、その種の価値観を寡黙ながら極めて雄弁に、そして継続的に相手にアピールすることができるからです。
まず、足元への気遣いが第一印象に与える影響を重んじ、スタンダードな一足を選ぶことでブレない姿勢を示す。
一流は、こうした身だしなみの本質を根本的に理解し、体現しているものなのです。
『一流の人はなぜそこまで、靴にこだわるのか? (Business Life)』 (クロスメディア・パブリッシング) |