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インプラントなのに切らない、縫わない?「フラップレスインプラント」のメリット・デメリット

Written by 滝澤聡明

歯をなくした時の治療法には様々な選択肢がありますが、その中でもインプラントはメリットの大きい治療法として近年注目を集めています。

しかしインプラントというと、大がかりで痛い手術を伴うもの、というイメージを持つ方が多く、なかなか治療に踏み切れないという方も多いのではないでしょうか?

そんな方にオススメしたいのが、切ったり縫ったりしない「フラップレスインプラント」です。

本記事では一万人以上の患者を診てきた歯科医・滝澤聡明氏の著作、『切らない!縫わない!怖くない!フラップレスインプラント』から、「フラップレスインプラント」について紹介します。


「フラップレスインプラント」なら、 切らずに治療できる!

入れ歯のような日常のわずらわしさがなく、よく噛めて違和感もほとんどないのがインプラントです。実際の手術では麻酔を用いるためほとんど痛くないのですが、メスを使った外科手術に恐怖感を覚える人もいることでしょう。 

そんな人にご紹介したいのが、フラップレスインプラントです。

フラップレスインプラントは通常のインプラントとは違い、 歯ぐきを切ることなく小さな穴を開けてインプラントを埋め入れるため、切開や縫合に伴う出血や術後の痛み・腫れがほとんどありません。手術時間が短く済み、また2次手術が必要ないため治療の回数もおさえられる画期的な治療法です。 

手術でメスを入れたり、副作用を持つ薬を飲んだりすることでからだにダメージを与えることを医学用語で「侵襲」(しんしゅう)といいます。いくら治療のために効率的だとしても、高い侵襲を伴う医療行為は患者さんのからだにとって大きな負担となるため避けたいところです。医療の世界では検査、治療、手術などにおいて、できるだけ侵襲性の低いものから検討されるという考え方が主流となっています。 

フラップレスインプラントは、低侵襲の治療法だということができます。からだへの負担が少ないため、生活習慣病など全身疾患を持つ患者さんにも行いやすい治療法です。精神的な不安や恐怖心も軽減できます。 

すべての症例がフラップレスで行えれば、これに越したことはありません。当院ではフラップレスが可能な場合はなるべくこの術式で治療しています。ただ、フラップレスでは、ある程度の歯肉や骨の状態のよさが必要となるため、治療計画上フラップレスではなく通常の切開を必要とする術式をすすめる場合もあります。

 

「フラップレスインプラント」はなにが違うのか?

一般的なインプラント治療との違いから、フラップレスインプラントのメリットをご紹介します。 

 

フラップレスの特長 ①切らない 

フラップレス手術の大きな特長は、メスを一切使わないという点。メスや切開されることに抵抗のある方でも安心して行うことができます。 

そもそも、なぜ従来のインプラント手術は、歯ぐきを切開する必要があるのでしょうか。 

歯科にかかわらず、従来、外科施術において、施術を行う部分を直視しなければならないという“凝り固まった常識”があるため、インプラント治療の現場でも切開はするものとして考えられていました。 

通常のインプラントは、あご骨への埋入を正確に行うために歯ぐきを切ることで、あご骨を直視できるようにしています。 歯ぐきを切ってみないことには、あご骨の細かい形などがわからないこともありますし、これは、医師の治療負担の軽減にもつながっています。

一方、フラップレスは骨を直視できないため、インプラントを埋入する深さを測るのが非常に難しく、歯科医の経験と技量が問われる手術です。 さらに、フラップレスは手間がかかります。 当院では、10 mmの穴を開ける場合でも5mm開けた時点で再度CTを撮り確認 するなど念入りなチェックを行います。このように丁寧な過程を踏まないとできない施術法であり、フラップレスを行えるほど十分な技術と経験を持った医師が少ないため、なかなか普及しないのではと思います。 

インプラントの手術中は麻酔が効いているため、それほどの痛みを感じることなく手術を受けられます。しかし、術後4~5日は抜歯後のような強い痛みや腫れが生じるといわれており、 ほとんどの場合、痛み止め(鎮痛剤)が処方されています。 

フラップレス手術なら、切開・剥離をしないことで出血量をおさえられるので、その痛みや腫れを軽減することができます。 

 

フラップレスの特長 ②剥離しない 

一般的なインプラント手術では、施術を行う部分を直視するという前提があるため、歯肉を切開しています。インプラントを埋入する骨の部分を直視するためには、歯ぐきの切開にとどまらず、さらに骨から歯肉をはがす「剥離」を行う必要がありました。 

前述したように、切開・剥離を行うと歯ぐきを大きく傷つけるため、出血します。からだの反応として、出血すれば、その傷を早治そうと体中の血液が患部に集まるため、大きく腫れます。 

「腫れの少ないインプラント」といわれるフラップレス手術は、従来のインプラントのように歯肉を切開・剥離してドリル で骨に穴を開けるといった施術を行いません。このため、インプラントのデメリットである「腫れ」の症状や回復期間は、ほとんど心配する必要がないのが大きなメリットです。 

 

フラップレスの特長 ③縫わない 

通常のインプラント手術の場合は、歯ぐきを切開・剥離してインプラントを骨内に埋入したあと、骨とインプラントの結合を待ちます。 

フラップレスの場合は、インプラント頭部(キャップ)を歯ぐきの上に露出しておくため、歯ぐきを縫合する必要がありません。 

なぜ、通常の場合はわざわざ歯ぐきを縫合してインプラントを埋め込むのでしょうか。 その理由は、インプラント頭部を露出させておくと、舌で触ったり外部から圧力がかかることがあるため、インプラントと骨がうまく結合しないことがあるからです。 

歯科医師が術後の生活について十分に指導を行い、患者さんが気をつけていれば、わざわざ一度切開した部分を再度縫いつけ、また切開して歯を入れるという工程を踏む必要はないのです。

縫合の必要がないので、抜糸も行いません。フラップレスなら、縫合・抜糸時の痛みもありません。 

 

フラップレスインプラントのデメリット

これまでフラップレス手術のメリットをご紹介してきました。夢の治療法のように思えるフラップレスですが、デメリットもあります。

 

手術できないケースもある

ひとつ目のデメリットとしては、どんな患者さんでも受けられる施術ではない、という点です。では、どんな人がフラップレス手術を行えるのでしょうか。

【フラップレス手術ができる人】

成人している人
女性は 1 8 歳、男性は 2 0 歳以降であれば、骨の成長が止まる方が多いため、フラップレス手術も通常のインプラント手術と同様に受けることができます。若年層の場合は、骨の発育が続いており、インプラントがあご骨に埋没してしまう恐れがあるため基本的にインプラント治療は行いません。

 全身疾患のない人 

通常のインプラント手術に比べ、からだへの負担が少ないとはいえ、治療が長期にわたり精神的ストレスはゼロではありません。疾患の状態によっては治療ができますが、疾患がないに越したことはありません。 

歯周病のない人 

歯周病は、歯の土台となる骨を溶かしてしまうため、歯周病の進行が進んでいる場合、インプラントの土台の埋め込みができないことがあります。CTでの確認によって行えることもありますが、基本的に歯周病のある場合は、フラップレス手術は難しいと思ったほうがいいでしょう。 

 

② 機器による誤差が起こりうる

フラップレス手術は骨を直視せず正確な位置にインプラントを埋めるため、CTスキャンやコンピューターによるシミュレーションを行い、サージカルガイドなどさまざまな機器を使用して行います。 

ただし、機械に任せていれば100%正確に行えるかというとそうではなく、ズレが発生します。ひとつの機器が少しずれていても問題なく行えることもありますが、機器を多く使用するフラップレス手術では、ひとつでは問題なくても、複数の機器が少しずつずれることにより、ドリリング位置が誤り神経を傷つけてしまうということも起こりえます。 

例えば、フラップレス手術の際は、インプラントを埋入する位置や深さ、角度のズレをなくすために、埋入位置に穴を開けた「サージカルガイド」というマウスピースのようなものを用いることがあります。これは一人ひとり型を取って作製しますが、歯ぐきの皮膚の動きでズレが発生したり、歯周病がある人は、型を取ったときから歯の位置が微妙に変わっているということもあり得ます。 

機器のズレを防ぐための対策として私が徹底しているのは、 機器を信用しすぎないということです。例えばドリリングの際、 通常であれば10mm開ける場合は一気に開けますが、当院では2~3回に分け、ドリリングの途中にもCTスキャンをした上で、より間違いのない手術を行っています。 

最終的には医師の経験による感触でドリリングの調整を行う部分もありますが、途中経過でズレを起こさないための工夫が求められます。 


一万人の患者を診てきた歯科医が教える歯科治療の新常識

         「切らない! 縫わない! 怖くない! フラップレスインプラント」

「とにかく痛いのがイヤ」「麻酔も、切るのも怖い」「とにかく早く治したい」

そんな方に知ってほしい「フラップレスインプラント」。

メリットの大きいインプラント治療ですが、「治療は痛い」「手術は怖い」などのイメージが大きく、なかなか治療に踏み切れない人も多いのが現実です。

そこでおすすめしたいのが「フラップレスインプラント」です。

一刻も早く歯を入れたい方や、入れ歯に抵抗のある方、痛みに恐怖感のある方にも対応しやすい治療となっていますので、インプラント治療に踏み切れず悩んでいる方や、これまでインプラントの治療を全く考えていなかった方にこそ、読んでほしい一冊です。

1万人の患者を診てきた著者が、フラップレスインプラントのよさを余すとこなく解説します。

『切らない!縫わない!怖くない!フラップレスインプラント』目次(一部抜粋)

第1章 はじめてのインプラント これからのインプラント

Q インプラントってそもそもどんなものですか

Q 1本からでも、インプラントはできますか

Q インプラントとブリッジってどう違うのですか

Q インプラントの治療費はいくらかかるのですか

Q インプラント体には、どのような種類があるのですか

Q インプラント治療の期間は、どれくらいですか

Q インプラント治療において、安全性が確保されているか心配です。

Q 特に患者さんからニーズの高い、インプラント治療について教えてください。

・実際の治療の流れ-当院の場合-

第2章 切らない!縫わない!怖くない!フラップレスインプラント

・「フラップレスインプラント」なら、切らずに治療できる!

・フラップレスインプラントの実際の治療の流れ

・フラップレスインプラントはなにが違うのか

・フラップレスインプラントの費用相場

第3章 インプラントを長持ちさせるために

・噛み合わせを大切に

・いい噛み合わせをキープするために-噛みしめを減らす-

・いい噛み合わせをキープするために-ナイトガードを利用する-

・そもそも、なぜ歯がなくなる?インプラント後だからこその歯周病ケア

・内科的・外科的 歯周病の治療法

・気をつけたい インプラント周囲炎

第4章 賢い患者になるために

・インプラント専門外来だからできること

・質のいい治療とは

・いい治療院の選び方

・知っておきたい医療費控除

・事故・トラブルの防止策

 

About the author

滝澤聡明 

歯学博士・医療法人社団明敬会理事長 

神奈川歯科大学卒業後、国際デンタルアカデミーにて、世界レベルの治療、さまざまなな症例を体感。
その後、国際デンタルクリニックに勤務。
1996 年にタキザワ歯科クリニック開業。2006 年には湘南藤沢歯科開業。
高度な歯科医療を提供し、地域貢献している。
また、豊かなライフスタイルを提案することをモットーにして、日夜治療に専念している。

UCLA インプラントアソシエーションジャパン理事役員
ICOI(国際口腔インプラント学会)認定医・専門医
厚生労働省認定臨床研修指導医

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