日本では運動不足が原因で毎年5万人が死亡しているとも言われており、※1「運動」は「食事」や「睡眠」と並んで心身の健康に絶対に欠かせない要素です。しかし、はたらく世代(20~64歳)の7割超は運動習慣を持っていないことが厚生労働省の調査で明らかになっています。
はたらく世代の運動習慣者は男女ともに3割未満
図1:令和元年「国民健康・栄養調査結果の概要」より作成
運動習慣者とは、1回30分以上の息のはずむ運動を週2回以上実施し、1年以上継続している人を指します。厚生労働省が令和元年に行った調査※2によると、20歳から64歳までの中で運動習慣のある者の割合は、男性で23.5%、女性で16.9%でした。
国は2023年までこの年代における運動習慣者の割合を男性36%、女性33%に増加させるという目標※3を掲げていますが、平成22年から令和元年までの9年間で、男性は2.8ポイント、女性にいたっては6.0ポイント減少しています。
国の目標とは裏腹に、なぜはたらく世代では運動習慣の定着が進まないのでしょうか。
定着の妨げになっている問題
①仕事や家事が忙しい
図2:令和2年度「スポーツ実施状況等に関する世論調査」(令和2年11月〜12月調査)より作成
はたらく世代に運動習慣の定着が進まない大きな要因として、運動を続ける時間の確保が難しいことが挙げられます。
スポーツ庁が令和2年に行った調査では、運動・スポーツを週に1回以上実施できていない、または直近1年運動をしなかった人を対象にその理由を回答してもらったところ、「仕事や家事が忙しいから」と答えた人が全体の47.0%で最も高い割合を占めました。(図2参照)
年代別に見ると、男女ともに20代~40代の半数以上が「仕事や家事が忙しいから」を理由に挙げており、他の年代よりも高い割合を示しています。
②改善意識が低い
はたらく世代で多く挙げられたもう一つの理由が「面倒くさいから」です。この回答には「時間はあっても外に出るのが億劫だ。」「わざわざ着替えや用具をそろえるのが面倒だ。」など、運動に対する各々のハードルが考えられます。
また、厚生労働省の「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」では、運動習慣の改善意思を問われた20~59歳の男性の37.9%、女性の40.0%※4が「改善することに関心がない」又は「関心はあるが改善するつもりはない」と回答したことが判明しています。
これらの調査から、はたらく世代に運動習慣が定着しない背景には“運動への消極的な姿勢”という内的要因が隠れていると推察できます。そのため、現状を改善するには運動しやすい環境整備に加えて、いかに個人のヘルスリテラシーを向上させるかが課題となります。
【健康経営】企業が身体を動かせる職場づくりを
国は、運動習慣の定着を阻む課題を解決するには、はたらく世代が1日の大半を過ごす職場において、身体を動かすきっかけをつくることが重要であると考えています。そして、企業側が従業員の健康増進に積極的に関与していく姿勢は「健康経営」としてその必要性を高めています。
健康経営とは、アメリカの臨床心理学者であるロバート・ローゼン氏によって提唱された「ヘルシーカンパニー」に基づいた経営方針です。経済産業省によって、“「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること”※5と規定されているように、企業として従業員の健康維持・促進に投資することで、企業の経営課題の解決、ひいては業績向上へとつなげる考え方になります。
国は社会保障費の増大を解決するために、健康寿命の延伸による「生涯現役社会」の構築を掲げ、目標達成に向けて健康経営の導入を推奨しています。また、社会的には長時間労働やハラスメントに対する評価が厳しさを増しており、企業には職場環境の健全化が強く求められているのです。
企業が健康経営に取り組むメリット
運動不足で懸念される健康トラブル
慢性的な運動不足では
- 体力の低下
- 睡眠の質の低下
- 肩こり・腰痛
- メンタルヘルス不調
- 肥満
- 生活習慣病リスクの増加
などの健康トラブルが懸念されます。
仮に休日などに身体を動かしている場合でも、ほとんど座って作業をする職場環境がこれらの健康トラブルの原因となる可能性があり、業務中の座位時間には注意が必要です。
参考:座りっぱなしの健康リスクと対策4選【動こう!デスクワーカー①】
企業が従業員の健康維持・増進に投資していけば、健康トラブルを回避し、業務効率の向上、休職・離職率の低下、医療費負担の削減などのリターンを期待できます。
また、「健康経営優良法人」として経済産業省から認定を受ければ、「従業員の健康管理に戦略的に取り組んでいる企業」という社会的評価の獲得・ブランドイメージの向上につながります。地方自治体でも企業に対して独自の顕彰制度を設ける動きが広まっており、健康経営に取り組む企業の「見える化」は今後も進んでいくでしょう。
スポーツエールカンパニー2021の取組事例
新型コロナウイルス感染症の影響で在宅勤務の増加や対面イベントの自粛が続くなか、企業は従業員の運動不足解消に向けてどのような取組ができるのでしょうか。
スポーツ庁は、従業員の健康増進のためにスポーツの実施に向けた積極的な取組を行っている企業を「スポーツエールカンパニー」として認定する制度を実施しています。ここからは、「「スポーツエールカンパニー2021」認定企業の取組事例」の中から、特に多く実施されている3つの施策を紹介していきます。
体操・ストレッチ
多くの認定企業で取り入れられているのが、ラジオ体操や企業オリジナル体操です。対面でも基本的に従業員同士が一定の間隔を保ちながら実施できますし、動画をオンライン配信にすればリモートワークで少なくなりがちなコミュニケーションの場としても役立てることができます。
ウォーキングキャンペーン
企業が運動機会を設ける上で注目しているのが「歩く」ことです。従業員に対して1日の目標歩数を定め、その達成に向けたウォーキングキャンペーンを実施しています。
具体的には、
- 歩数計・ウォーキングアプリの活用
- チーム対抗形式でのウォーキングキャンペーンの実施
- 歩数に応じたインセンティブの授与
など、各社が様々な方法で従業員の積極的な参加を促しています。
座りすぎ対策
- スタンディングデスクの導入
- スタンディング・ミーティングの推奨
- アラームによる座りすぎへの注意喚起
など、身体を動かす施策だけでなく、業務中の「座りすぎ」防止対策も行われています。スタンディングデスクを導入していない企業では、一定時間毎にストレッチを実施することで座位作業による負担軽減に取り組んでいます。
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◾︎出典・参考文献
※1『THE LANCET』 日本特集号「国民皆保険達成から50年」より、特集号「なぜ日本国民は健康なのか」:http://www.jcie.or.jp/japan/pub/publst/1447.htm (2011)
※2「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf
※3「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/kenkounippon21_01.pdf
※4「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」厚生労働省、図11運動改善の意思(20歳以上、性・年齢階級別)より計算
※5「健康経営の推進」経済産業省より引用:https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_keiei.html(2021/06/21閲覧)
・「地域と職域の連携に向けたヘルスケア産業政策の推進について」経済産業省:
https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000512505.pdf
・「身体活動・運動と通じた健康増進のための厚生労働省の取組み」厚生労働省: