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真面目な人ほど要注意!職場でのストレスを解消するマインドセット

たくさんの仕事を抱えてしまい、無理をする日々が続いて苦しい思いをしている…

このようなビジネスパーソン声は、珍しいことではなく、真面目で、几帳面で、仕事をきっちりとこなすことが得意な人たちに多く見受けられます。そういった方も自分にキャパシティがあるうちはまだよいのですが、気づけば蝕まれていた身体と精神にガタが出てきて、深刻な状況となって表面化します。

そこで、この記事では書籍『会社に殺されない働き方』から、著者で産業医の難波克行氏のもとに相談に来た一人ビジネスパーソンの事例をご紹介。仕事のストレスを軽減、解消する方法をお伝えします。

あなたのストレスが生じる原因とは?

 

クライアントからストレスについて相談を受けたとき、ストレスを感じる場面について、「状況」「思考」「感情」「行動」「結果」のそれぞれを分析するように勧めている。これは、カウンセリングや心理療法で一般的に使われている「認知行動療法」の考え方だ。

 

斉藤さん(仮名)の例

 

ストレスを感じた時の「状況」

まず「状況」だが、これは「人手不足で仕事が終わらず、自分ばかりに負担が集中している」という職場全体の状況ではなく、ストレスを感じたときの、具体的な場面のことを指す。例えば「何月何日、何時何分、どこで何をしていたとき」と、ピンポイントで説明できるような状況のことだ。

斉藤さんが最近ストレスを強く感じた場面としては、「先週の木曜日の16時頃、自分のデスクで仕事をしていて、育児時短勤務の人が退社しようとしている姿が目に入ったとき」だという。

 

ストレスを感じた時の「思考」

次に、その時に、ふと頭に浮かんできた思考について思い出してもらった。ここで言う「思考」というのは、つい、ひとりでに、心の中でつぶやいてしまった独り言のようなものだ。そのとき、斉藤さんは「あの人たちが早く帰るせいで、尻ぬぐいをさせられている」「不公平だ」と考えたそうだ。また同時に「こんなことを考えるべきではない」とか「この状況がいつまで続くんだろうか」と思ったともいう。

 

ストレスを感じた時の「感情」「行動」

そうした考えが浮かんだとき、どんな気持ちになったかを教えてもらった。「感情」とは、なるべく短い言葉で、ひとことで言い表せるようなものだ。斉藤さんは「イライラ」「怒り」「あきらめ」「絶望」「不安」などを感じたと話した。

ふだん、私たちは、自分がどんな気持ちでいるかをあまり自覚していないが、たいてい「感情」や「行動」というものは、そのときに頭に浮かんだ「思考」と連動している。職場で、会議のプレゼン資料の準備をしているときに、「きっとうまく行くぞ」という考えが浮かぶと、気分が明るくなったり、高揚したりするが、「どうせみんなに徹底的に批判されるに違いない」という考えが頭をよぎると、不安な気持ちになって、考えがまとまらなくなったり、イヤな汗をかいたりする。こんなふうに、ある状況において、私たちの思考・感情・行動はセットになっていて、結果に影響を与えているのだ。

 

ストレスの正体は「状況」「思考」「感情」「行動」「結果」のループ

斉藤さんは、時短勤務の人が退社するのを見て、イライラや不安などを感じた。そして、「お疲れ様」とか「また明日」などと声をかけることもできずに、黙って机に向かって仕事をしていたが、それからしばらくの間は、色々な考えが頭の中をぐるぐると駆け巡り、集中できない状態が続いたそうだ。結局、その日もいつもと同じように残業をして、家に帰り、モヤモヤした気持ちを抱えたまま布団に入った。そしてその翌日も、また夕方になると、こうした場面が繰り返される。

毎日、同じような「状況」「思考」「感情」「行動」「結果」がループしている。これが、斉藤さんのストレスの正体だ。

 

解消法①考え方の幅を広げる

ストレスを感じる時の悪循環を断ち切る方法として、「思考」と「行動」の幅を広げるというやり方が、臨床心理や心理教育の場面で広く用いられている。

まず「思考」についてのやり方を紹介しよう。思考を切り替えるというと、ネガティブ思考からポジティブ思考へと考えを変える方法だと思われがちだが、実際はそうではない。むりやりポジティブな考えを思い浮かべたからといって、気分が軽くなったりはしない。そうではなくて、「ストレスを感じる場面で、ひとりでに頭に浮かんできた考え方」以外の考え方はないか、少し立ち止まって検討してみる、という方法をとるようにするのだ。たとえば斎藤さんの例では、「先週の夕方16時ごろ、デスクで仕事をしていて、育児時短勤務の人が退社しようとしている姿が目に入ったとき」に、「あの人たちが早く帰るせいで、尻ぬぐいをさせられている」「不公平だ」「こんなことを考えるべきではない」「この状況がいつまで続くんだろうか」などという考えが浮かんでいる。

 

ポイント:視野が狭くなると思い込みや責任感が強くなる

自分を追いつめてしまい、ストレスを強く感じているとき、私たちは視野が狭くなり、極端なものの考え方をしていることが多い。たとえば、根拠となる情報や証拠が少ないのに「こうに違いない」と、思いつきを信じ込んだり、物事の一部分だけに注目して、短絡的に結論を決めつけてしまったりする。また、あいまいな状態や、中間の状態であることが耐えられず、白か黒か、0点か100点かなど極端な考え方しかできなくなる人もいる。さらに、物事をなんでも自分に関連付けて考えてしまうこともある。

「こうするべきだ」「ああすべきではない」などと考えて、自分や相手の行動について責めてしまう「べき思考」などもその一つだ。

 

こうした考え方のひとつひとつについて、自分がそれにあてはまっていないか、注意深く確認してみよう。業務のストレスにつながりやすいのは、「自分が頑張るべきだ」「上司はきちんと対応するべきだ」「周囲の人も手伝ってくれるべきだ」などという「べき思考」だ。まじめな社員や、仕事に誇りを持っている社員ほど、そうした考えが強くなりがちで、自分の首を自分で絞めてしまっているところがある。

 

解消法②無駄な責任感を捨てる

たとえば、斎藤さんの場合は「尻拭いをさせられている」「自分ががんばるしかない」などと考えているが、それは、物事の一面的な見方に過ぎない。

実際には、時短勤務の人の業務をどう分担するかは、上司のマネジメントの問題であり、会社の経営上の問題だ。ひとりの従業員が、私生活や健康を犠牲にしてまで対応するものではない。もしかすると、斎藤さんや周囲の社員ががんばっているおかげで、表面上は仕事が回っているように見えており、人員の追加を急ぐ必要はないと上層部は考えているのかもしれない。その状況で「上司が何とかすべきだ」、「それまでは自分ががんばるしかない」と考えて、仕事をひたすらこなしているだけでは、斎藤さんのストレスは改善しないだろう。

 

考え方の幅を広げるためには、「自分の大切な友人が、そのような状況で困っているときに、どんな言葉をかけてあげるか」を想像してみるとよい。きっと「大変だね」「よくがんばっているね」「確かに不公平だよね」「仕事がこれ以上は回らない、と上司にあらためて相談してみたら?」「あなただけが、がんばらなくてもいいよ」「たまには、あなたも休みをとってゆっくりしなよ」などと、苦労をねぎらう、やさしい言葉をかけてあげることだろう。

私たちはふだん、がんばりすぎているところがある。もう少し、自分自身をいたわってみてもよいのではないだろうか。

 

解消法③行動の幅を広げる

ストレスの悪循環を断ち切るもう一つの方法として、「行動の幅を広げる」というやり方がある。考え方の幅を広げるよりも、こちらのほうが簡単かもしれない。

ストレスや疲れがたまってくると、休みの日に外にでかけなくなったり、趣味をやめてしまったり、あるいは、お酒やたばこが増えたり、食べ過ぎてしまったりする、そういう経験はないだろうか。ストレスがたまってくると、考え方の視野が狭くなってくるのと同時に、行動のレパートリーも減ってしまうことがある。ストレス対策としては、「楽しくて」「達成感があって」「気分転換になる」ような活動がおすすめだ。これまでの経験を振り返って、楽しかったり、達成感を感じられたり、気分転換になるような活動をいくつかリストアップしてみよう。

 

ポイント:「楽しくて」「達成感があって」「気分転換になる」活動をする

その際には、体を動かすアクティブな活動だけでなく、ゆっくりと心身をリラックスできる活動についても考えてみよう。ただし、お酒の飲みすぎ、たばこの吸いすぎ、食べ過ぎ、ギャンブルなどの活動は、気分転換になるといっても、あまりおすすめできない。また、買い物(ネット通販を含む)なども、度が過ぎるとストレス解消法としては逆効果だ。

 

社内の研修などで、こうした活動についてリストアップしてもらうと、実にさまざまな意見が飛び出す。読書、映画やドラマの観賞がストレス解消になるという人もいれば、ジョギングやスポーツジム、フットサル、スキー、ハイキング、登山など、体を動かすのが好きな人もいる。

その他にも、お茶を飲む、おいしいものを食べる、高級な入浴剤を使ってゆっくりお風呂に入るという、リラックス系の活動も人気だ。カラオケ、友達とのおしゃべり、趣味の集まりなど、他の人と触れ合うことでリフレッシュできるという人もいる。料理に凝ったり、ギターを弾いたり、絵をかいたり、陶芸をしたり、車やバイクをいじったりと、趣味の時間をたっぷりとる、という人もいる。犬の散歩に行く、猫と遊ぶなど、ペットに癒される人も多い。ただ何もせず、釣り糸を垂らしたり、公園に出かけたりして、ぼんやりと時間を過ごすのが最高のリラックスタイムだという人もいる。

 

解消法④しっかり休みを取る

もっと、自分のために時間を使おう。最近、何かの用事ではなく、自分のために有給休暇をとったのはいつだろうか。

 

平成26年に発表された厚生労働省の調べによると、年次有給休暇の付与日数は平均で年間18・5日だったが、そのうち、取得した日数は平均9・0日で、取得率は48・8%だという。

 

有給休暇の取得は労働基準法で定められた、労働者の当然の権利である。理由のいかんを問わず、好きなときに、自由に取得することができる。会社は、社内ルールとして「原則として3日前までに申請すること」などという規則を設けてもよいし、会社の事業の正常な運営を妨げるような事情があれば、取得する時期を変更するように命じてもよい。しかし、基本的には、労働者が指定した時期に、理由をとわず有給休暇を与えることになっている。また会社は、有給休暇を取得した労働者に対して不利益な取り扱いをしてはならない。

つまり、有給休暇は、法律によって定められた「働かなくてもいい日」であり、働かないのにお給料がもらえるという、非常にラッキーな仕組みなのだ。使わないなんてもったいない。

 

有給休暇を取らずに仕事をがんばっていても、得をするのは経営者と会社だけなのだ。有給休暇をとらないことを前提にした人員配置や業務計画は、そもそもおかしい。

もちろん、そんなことを職場で口にして、わざわざ上司や同僚との関係を悪くする必要はないが、有給休暇がどのような制度なのか、事実として知っておくことも必要だ。仕事への忠誠心や誇りは大切だが、自分の健康や幸せを犠牲にするほどの価値があるだろうか。自分に問いかけてみてほしい。


■出典:難波克行『会社に殺されない働き方』クロスメディア・パブリッシング

 

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