ストップ! 本当に効果アリと言えるか?
しかし問題は「どれくらい下げたのか?」「それは体にとってちゃんと意味がある程度のものか?」ということ。
下記の図は同じ論文からの引用です。
被験飲料と対照飲料で一番差がついたところをみると、詳細な数値が記載されていないためグラフからの目測になりますが、食後4時間における血中中性脂肪値は、被験飲料は約317mg/dL、対照飲料は約339mg/dL程度となっています。
出典(鈴木深保子ら著、薬理と治療(2010年38巻7号p.639))
では具体的な数値がでたところで、食後の脂肪値は、いくつ以上だと、何にどれくらい影響するのか、過去の研究を振り返ってみます。
ある研究では、食後2時間以内に測定した血中脂肪値が、84mg/dLの群と比較し、
・ 84-116mg/dLの群は、冠動脈疾患の相対リスクが1.67倍
・ 116-166mg/dLの群は、冠動脈疾患の相対リスクが2.00倍、心筋梗塞の相対リスクが2.05倍
・ 166mg/dL以上の群は、冠動脈疾患の相対リスクが2.86倍、心筋梗塞の相対リスクが3.14倍、突然死の相対リスクが3.37倍
となっています。(Iso H et al. Am J Epidemiol 2001; 153: 490-499)
また、食後高脂血症が200mg/dL以上の群は、200mg/dL以下の群と比較し、冠動脈疾患死のリスクが高い、とも言われています。(Eberly LE et al. Arch Intern Med 2003; 163: 1077-1083)
つまり、冠動脈疾患、心筋梗塞、心臓突然死のリスクを下げるには、食後血中中性脂肪値が200mg/dL、可能なら170mg/dL以下までを目標に下げる必要があるでしょう。
これらの数値を踏まえて先ほどのグラフにもどると、
・ ハンバーグと一緒にコーラを飲んだら食後の脂質が339mg/dLだった
・ ハンバーグと一緒に「トクホ・コーラ」を飲んだら食後の脂質が317mg/dLだった
……どうでしょうか。トクホ・コーラを飲めば安心できそうでしょうか。
そう、トクホ・コーラは魔法のヘルシードリンクではないことが分かります。
冠動脈疾患、心筋梗塞、心臓突然死のリスクは全く変わっていません。
そもそも製品の根拠となった論文では、被験者が空腹時から中性脂肪の値が高く、食後の数値をみても、トクホ・コーラを飲む飲まないに関わらず、食事療法なり運動療法なり、治療開始を検討したほうがよさそうです。
勿論、「難消化性デキストリン」の可能性を全て否定しているわけではありません。
しかし、
「トクホ・コーラを飲んだら焼肉はチャラになる」
というのは言い過ぎであり、免罪符にはなり得ないことは現時点での事実です。
まとめ-中性脂肪が気になる方は…
つまりまとめると、
・「トクホ・コーラ」が食後の血中脂肪値を下げるというのは全くの嘘ではない
・しかし、「トクホ・コーラ」が健康によい、という証拠はない(現時点で、<食後高脂血症が人体に与えるリスク>を下げるほど効果がある、という根拠はない)
ということです。
少なくとも現時点での研究結果では、「トクホ・コーラ」は「ヘルシードリンク」とはいえず、中性脂肪を気にする方には、まずは地道に食事療法や運動療法に取り組むことをお勧めします。
福田芽森 Fukuda Memori
東京女子医科大学卒、循環器内科5年目。日本医師会認定産業医、ACLS(アメリカ心臓協会二次救命処置)インストラクター、JMECC(日本内科学会認定内科救急・ICLS講習会)インストラクター。高校時代にアメリカ、大学時代にベルギーに短期留学。趣味は登山、弓道(三段)、芸術鑑賞、海外旅行。