「一流の人はなぜそこまで、靴にこだわるのか?」(著:渡辺鮮彦)より
デキる男にとっての「いい靴」の条件とは
「安い靴は不経済だからね」
元英首相トニー・ブレア氏がインタビューでこんなことを言っています。
彼は首相在任中も含め、一足の靴を年間履き続けていました。その靴とは、1997年の首相就任より前に、中部ノーサンプトンの老舗靴メーカー「チャーチ」で購入したフルブローグ(ウィングチップ)。毎週の質疑応答では必ずこれを履き、この発言の時点で、靴底はまだ1回の交換で済んでいたそうです。ちなみに購入当時の値段は150ポンドと、当時としてはそれなりにいい値段のものだったはずです。
「いい靴なんていらないよ」
「消耗品にお金をかけるのはもったいない」
こんなふうに、靴は履きつぶすもの、という考えをお持ちの方もいることでしょう。でも、そもそも「いい靴」とはなんでしょうか。一足何十万もする高級靴? それとも、人気ブランドのプレミアもの?どちらも上質な靴には違いありませんが、この場合の「いい靴」には当てはまりません。
靴はビジネスにおける信頼関係の基盤
ビジネスにおいて相手からの良い第一印象を獲得し、その人と確かな信頼関係を構築するのに適した靴の条件とは、「きちんと手入れされている」ことです。忙しいなかにも手入れの行き届いた靴を履いていると、より「きちんとした印象」を受けませんか?
高級な靴でもろくに手入れもせず適当に履いている人と、高級ブランドでなくてもしっかりと磨きこまれた靴を履いている人とでは、どちらが信頼できるでしょうか。
一流といわれる人たちは、高いブランドものを買い集めるのでもなく、安い靴を履きつぶすのでもなく、自分の足に合った上質な一足を見つけ、大切に履き続けます。
ブレア元首相の一足は長年しっかり手入れされ、ここぞという大舞台で幾度となく履かれてきました。一つのものを大切にするという姿勢からは誠実で実直な人柄を感じますし、それはそのままビジネスに対する姿勢とも見て取れます。
さらにメンテナンスを面倒がらずにきっちり行えるのは、マネジメント力にも長けている証拠。本当に「いい靴」とは、そういうことが瞬時に伝わってくる一足のことではないでしょうか。
決して高い靴、ブランドものの靴を履けというのではありません。ただ、靴は消耗品、お金をかけるのはもったいないと考えるより、妥協せず選んだその一足を大切に履き続け「いい靴」に育てていく。その方がビジネスで得られるものも多く、結果的にはかえって経済的ではないかと思うのです。
新品以上の魅力にあふれた一足のブーツとは
新品の靴、無傷でピカピカな靴ばかりが「人を惹きつける靴」とは限らない。ブレア元首相ではないですが、そのことを実感させてくれた出来事がありました。
私が、仕事でイタリアの古都・フィレンツェで年2回行われる展示会「ピッティ・イマジネ・ウォモ」を訪れたときのことです。
その日、展示会の後、取引先の一社との繋がりで、現地・トスカーナ地方のとある著名なワイナリーに招待してもらった私は、そのオーナーの方の足元を一目見て心底驚きました。
彼が履いていたのは、右足の親指側の甲の周囲を別の革のパッチで大きく補修した、イギリス製の既製品のチャッカブーツ。恐らくチャーチのものだったと記憶しています。
チャッカブーツというのは、甲の部分についている2~3対の穴に紐を通す形状のブーツで、丈はくるぶし程度。どちらかと言えばカジュアルな装いに向いています。
直した跡は恐らく6~7cm四方はあったでしょうか。大きな補修跡があるのにまったくみすぼらしく見えず、むしろしっかりと手入れされていることが伺え、かえって好感を覚えました。
一流ワイナリー経営者が靴にこだわったわけ
そして、それと同時に浮かんだのは、何世代にも渡ってワイナリーを経営している名家の主が、どうしてここまで一足の靴を履き続けているのか、という疑問です。
その気になれば簡単に新品、それどころか既製品ではなくフルオーあつらダーの靴をいっぺんに何足も誂えることができるはずなのに……。
正直そう感じて訳を尋ねてみると、
「私にとってこの一足は、ワイナリーをあちこち駆け巡るためのビジネスシューズです。修理できるものなんだから、直して長く使ったほうが、その価値をより多く享受できるじゃないですか」
こんな答えが笑顔で返ってきたのです。この一家が代々繁栄しているのは、こうした考え方に理由があるのだなと、つくづく思いました。
考えてみれば、ワインは年ごとの細かな天候に、製品の量、そして品質が大きく左右される商品です。それを生業にするワイナリーには、複雑なリスクマネジメントと長期的視野が自ずと求められます。
安定した経営に「適正」で「堅実」なお金の使い方が必要であるのと同じように、そのような価値観が靴にも反映されている。そしてその一足に彼の生きる姿勢そのものが伺い知れたからこそ、新品以上のかっこよさを感じたのだと思います。
靴にはその人なりの価値観が反映される。
ビジネスパーソンとして今以上の活躍を望むなら、靴を大事にしてみてください。
それによって得られる気持ちの変化が必ず訪れます。
『一流の人はなぜそこまで、靴にこだわるのか? (Business Life)』 (クロスメディア・パブリッシング) |