「一流の人はなぜそこまで、靴にこだわるのか?」(著:渡辺鮮彦)より
月に一度の簡単メンテで靴の寿命アップ
「靴のお手入れとは、単に靴の表面をピカピカに光らせることではないですよ」
数年前、出張でイギリスの靴クリームメーカーを訪れた際に聞いた言葉です。その方いわく、靴の革から汚れを取り除いた上で、その内部に水分や油分を適度に補給するのを通じて、柔軟で潤いのある良いコンディションに、革を保っておく……
これがお手入れの本来の目的であって、方法や道具に変にこだわり過ぎる必要もない、ということでした。靴のお手入れには、どうしても「めんどうくさい」という気持ちがついて回ります。しかし、本来はそんなにたいそうなことではなく、もっと気楽に構えていいものなのです。必ずしも毎回フルコースのお手入れをする必要はありません。普段はもっと簡単な、時間をかけないちょっとしたことだけで十分です。私自身もこの言葉を聞き、じっくりとメンテナンスをするのは2~3ヶ月に一度に減りました。
乳液クリームで行う月一の靴のメンテナンス
代わりに月一ペースで定期的に行うようにしているのが、バッグや手袋のお手入れで使われる、乳液状のクリームを用いる方法です。これを片足で米粒3つ程度を布に取り出し、靴の数か所に置いた後に靴全体に広げ乾拭きすると、あっという間に革に潤いが戻るのです。磨き上げるまで、両足で5分もかかるかかからないかです。忙しい朝や出張のときには持って来いだと、以来愛用しています。
なお、この種のクリームには成分の関係で汚れ落し的な効果も若干あるそうで、つまり汚れや余分なクリームが革の上に積み重なって、その通気性を阻害したりはしないのです。そのためでしょうか、これを用いても靴にひび割れのようなダメージを与えたことはまったくありません。
そして次に紹介する2~3ヶ月に一度行う「フルコースのお手入れ」も、むしろこれを使い始めてからのほうがやりやすくなったような気もしています。最初に書いた3つのポイントが、より素直に、革に維持されているからかもしれません。靴のお手入れもビジネスと同じで、コンディションの安定性や緩急のメリハリが、やはり肝心なのでしょう。
3ヶ月に1回の本格メンテで靴は艶を取り戻す
月に一度の簡単メンテで使っている乳液状のクリームには、色がついていません。そのため、こればかりを使っていると、アッパーの革が次第に色褪せてしまうのは避けられません。靴を履く頻度にもよりますが、2~3ヶ月に一度は本格的なフルコースのお手入れが必要になってきます。
・シューキーパー・ブラシ3種類(埃落とし用・靴クリームの塗布用・磨き上げ用)
・靴クリーム(瓶やチューブに入っているもの)
・布2種類(靴クリームの塗布用・磨き上げ用)
必要になる道具はこれだけです。
これらを用いて、次のような順番でじっくりお手入れしていけば、靴は買ったとき以上に深みのある艶を取り戻します。
①シューレース(靴紐)を外す
靴クリームが靴紐に付着し、それが汚れになってしまうのを防ぐためです。また、タンのお手入れもしてください。通常は見えない部分なので、靴クリームの色味のチェックを、まずここに塗って確認するのも手です。
②シューキーパーを入れる
アッパーの革全体をピンと張らせることで、履き皺を伸ばし、靴クリームを靴全体にムラなく延ばせるようにするためです。ただし、シューキーパーの形状が靴に合っていることを、事前に必ず確認しておきましょう。
③汚れをブラシで落とす
ここで使うブラシは、毎日、帰宅時に埃を落とすのに使っているもので構いません。かかとからつま先に向かって、全体を撫でるように優しくブラッシングします。土踏まずのコバ(アウトソールが横に出っ張っている個所)の周辺も、知らず知らずのうちに汚れが溜まりやすいので、毛先をそこに入れ込むような感じでブラッシングしましょう。
なお、酷い泥汚れが付いているときは、④に移る前におしぼり程度の水分を含ませた雑巾で、靴全体を軽く拭いておきます。
④靴クリームを塗る
柔らかい布に靴クリームをとり、少しずつ塗り込んでいきます。歯ブラシなどを用いても構いません。片足で歯ブラシの半分かそれ以下の程度と、靴クリームの量は結構少な目で大丈夫です。甲の周りのような面積の大きな部分からスタートし、端部に広げてゆく感覚で行うと良いでしょう。
靴クリームの色は黒い靴には黒が当然ですが、茶系の靴の場合は靴の色よりワントーン明るいものを用いると、色ムラが起こりにくいのでお勧めです。
⑤細かい部分も念入りに
コバやステッチはでこぼこしていて靴クリームが残りやすいので、指先を上手く使って丁寧に延ばしましょう。残ってしまうと、それがクレヨンのように固まってしまい見栄えが悪くなるばかりでなく、革の通気性を阻害し、ヒビ割れの原因にもなりかねません。
履き皺ができている部分や力のかかりやすい鳩目周辺も、念入りに靴クリームを延ばしてください。
⑥ブラシ掛けでムラをなくす
「クリームを塗るためのブラシ」で再びブラッシングします。こうすることで革の繊維に水分や油分を浸透させ、余分な靴クリームを取り除くのです。
ステッチやコバ、皺の部分まで手抜きは禁物です。このとき用いるブラシは、靴や靴クリームの色ごとに用意しておきましょう。
また、朝忙しいときに靴に少しだけ艶を取り戻したいという場合には、すでに靴クリームが付着しているこのブラシで軽く磨いてあげるのも、技ありの一手です。
➆清潔なブラシを使い磨き上げる
馬毛やヤギ毛のような、これまで用いたものより毛質がソフトな「磨き上げるための、汚れも靴クリームも付いていないブラシ」でブラッシングします。極端に力は込めず、シュッシュッと毛先をスライドさせる感覚が正解です。
⑧乾拭きして完成
手の中に布が収まるように畳み、圧をかけながらギュッギュと絞る感じで磨きます。指に巻き付けて、靴クリームを革の内部に押し込むような感覚で磨いても構いません。つま先やかかとのように中に芯が入っている個所は、摩擦をかけるほど輝きが増してきます。
楽しくメンテナンスして愛用の靴をピカピカにしよう
人によってはこの後にワックス(こちらは缶に入っています)を用いて、つま先やかかとの部分をさらにピカピカに磨き上げる方もいらっしゃるようです。ただし個人的には、ここで挙げた方法だけでも十分、効果が出ると思っています。
・靴の革から汚れを取り除いた上で、
・その内部に水分や油分を適度に補給するのを通じて、
・柔軟で潤いのある良いコンディションに、革を保っておく
お手入れの本来の目的を、これでしっかり果たしているからです。まずは身構えず取り組んでみてください。ああでもないこうでもないと試行錯誤するのも楽しいものですから。
『一流の人はなぜそこまで、靴にこだわるのか? (Business Life)』 (クロスメディア・パブリッシング) |