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相談に「とにかくアドバイス」は悪手?部下を導く「傾聴テクニック」とは

「なぜか休職者・離職者が多い……。」あなたの職場は、「人が逃げる職場」になっていませんか?

『人が集まる職場 人が逃げる職場』の著者である渡部卓氏によると、人が集まる職場、逃げる職場にはそれぞれにある特徴が見られるそうです。あなたの職場を、社員が安心して働ける場所にするためには?部下との交流方法、職場の「いい空気」の作り方などをお伝えします。


10のアドバイスより1回の傾聴が部下を救う

不安を抱える社員が増えている現代において、上司に求められているのはカウンセリング・マインドであり、その基本は傾聴を通した〝共感〟であるとお伝えました。 〝傾聴 〟と〝共感〟は不可分の関係にあります。どんな内容であれ、まず相手の話を ひたすら傾聴しないことには共感は生まれません。

あなたは、部下から「相談がある」「ちょっと話を聞いてほしい」と持ちかけられたとき、「ごめん、今忙しいから後でね」と断ってしまったことはありませんか? あ るいは「上司として、何かいいアドバイスをしなくては!」と意気込んだものの、あまり部下に響かなかった、といった経験はないでしょうか? 私自身、企業で管理職をやっていた時代には、そんなほろ苦い経験が数多くあります。

部下のSOSに気づかなかったり、あるいは自覚なく自分の考えを押しつけたり、 相手の考えを否定したり、といった自分本位の振る舞いは、忙しい人ほどついやってしまっていることが多いものです。それでは部下の信頼を得るどころか、「この人にはちゃんと話を聞いてもらえない」「相談しても意味がないし、時間の無駄ではないか」 と、部下の心が離れてしまう要因になりかねません。

そうはいっても、「部下のことは気にかけているのだが、多忙すぎてじっくり向き合うほどの余裕がない」というのが多くの方の本音だと思います。さらに、「なんとか時間をつくっているのに、部下の話は要領をえないし、何をしてほしいのかもよくわからない」といった問題もしばしばあるでしょう。

こんなときにこそ有効なのが、〝傾聴〟と〝共感〟をベースにしたカウンセリング的アプローチです。

これさえできれば、最初から最後まで何もかも部下やチームの面倒を見たり、有効なアドバイスを苦心して与え続ける必要はありません。傾聴と共感を続けていくうちに、部下たちは自ら考え、行動しはじめます。そして自ら解決への糸口に気づき、やる気を持って、よい方向に歩み出すようになるはずです。

なぜなら、「上司が自分に関心を向け、悩みを理解し、共感してくれている」という実感が部下に生まれると、部下の〝不安〟は自ずと解消され、安心して業務に集中できるようになるからです。そして本人やチームの仕事へ前進力が生まれることを、上司は肌で実感できるはずです。

まるで雲をつかむような話に聞こえるかもしれません。しかし、このように「職場の人間関係や個々の主観的な感情が、生産性に大きな影響を及ぼす」ということは、アメリカのホーソン工場において行われた実験をはじめ、多くの実証実験において解明されてきたことです。また私を含む産業カウンセラーや心理士たちの間でも、多くの経験や実例から確証が得られています。

10のアドバイスより1回の傾聴が、部下の心を救うこともあるのです。

【明日から使える傾聴のテクニック】

ここで、プロのカウンセラーが実践している傾聴のテクニックをお教えしましょう。 これらを使うと、相手への共感がより伝わりやすくなります。「何度もアドバイスして いたのに先に進まなかった」……そんな複雑な問題も、「5~10 分ひたすら傾聴しただけで、かなりの部分が解消された」といった事例もあります。「忙しい」と嘆く方ほど、テクニックを活用した効果的な傾聴を行うことが、問題解決への近道となってくれるはずです。

 

・相手の顔を見て聞く・話す

・相槌を打つ、うなずく

・キーワードを繰り返す

 

これらは傾聴の基本であり、初心者にも取り入れやすいポイントです。

「キーワードを繰り返す」とは、たとえば次のような形です。

「実は今日、取引先の佐藤さんとお会いしたんですけど、今回の値上げのことで頭ごなしに怒られて……いつも冷静な方だったので、本当にびっくりして……どうしたらいいんでしょうか?

「【佐藤さん】に【値上げのことで】【怒られた】のですか? それは【驚くし、辛かった】ですよね、ご苦労さまでした」

 

このように、相手が言った事実や感情を繰り返すようにします。すると、部下は「しっかり話を聞いてもらえたし、共感してもらえた」と感じ、ある程度の満足感と前向きな心が生まれます。アドバイスや具体的なサポートをするなら、この次のタイミングがベストです。

さらに、「ネクタイをはずす」というのも一つの隠れ技です。真面目な性格の上司ほど、「部下の話をちゃんと聞こう」と思うと、きちんとした格好をしようとするものです。さらに姿勢を正して真正面に座り、しっかり相手の目を見ることで「きちんと向き合っている」ことを伝えようとしたりもします。しかし、これらの行動は実は逆効果なこともあるのです。ネクタイを締めて姿勢を正すと呼吸も速くなりますし、上司の緊張感が相手にも伝わって、相談しづらい空気をつくってしまうことがあります。

私もかつて親しい部下から、「背広とネクタイ姿の渡部さんは〝鎧〟をつけているようで近づきがたいのですが、ノータイだと話しやすくなるから不思議です」と言われ、 はっとしたことがあります。

相手が話しづらそうなときこそ、聞く側はリラックスした空気をつくることが大切です。

「人が集まる職場 人が逃げる職場」(著:渡部 卓)より

 


『人が集まる職場 人が逃げる職場』(渡部卓)

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