部下の元気がない、やる気が感じられない、笑わなくなった、このままじゃ辞めるんじゃないか…でも、何から始めたらいいのだろう。
そんな悩みを抱えていませんか?
書籍『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』の著者で産業医の三宅琢氏は、部下のメンタルヘルスに頭を抱えるリーダー、マネージャーに向けて「部下のメンタル不調を、心配しすぎないでください。モチベーションを高めようと、頑張りすぎないでください。なぜなら、結果的にその方がうまくいくからです。」と言います。
そこでこの記事では、書籍『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』から、メンタルヘルス対策における「上司が上司自身の健康に気遣うセルフケア」の重要性をお伝えします。
健康維持の基本は「セルフケア」
健康を維持するのは、実は非常に難しいことです。
「普通に生活していて病気やメンタル不調になるなんておかしい」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、それは間違いです。
そもそも「普通」とはなんでしょう? 「普通」とか「常識」で健康が保てるなら、日本の医療費が問題になるような切迫した状態にはなっていないはずです。
私たちは常に変化しています。昨日はよかったところが、今日はよくなくなっていても不思議ではないのです。そのまま放置していたら、明日はさらに悪くなってしまうでしょう。
健康とは、自分で意識的にケアしなければ、なかなか維持できるものではないのです。
その上でお伝えしたいことがあります。
「健康を維持するためには、ラインケアよりセルフケア。セルフケアがすべての基本である」ということです。
ラインケアとは?
いま多くの企業では、「ラインケア」が大きな課題となっています。ラインケアの一般的な定義としては、「部長・課長などの管理職が直属の部下に対して行う職場のメンタルヘルス対策。個別の相談を受けたり、指導をしたり、職場環境を改善するなどの取り組みを行う」ことです。
メンタルヘルス対策は「セルフケア7割・ラインケア3割」で取り組む
基本は「セルフケア」なのです。ほんのわずかな不調の徴候は、どうしても外からは見つけにくいもの。最初に気づくべきは本人です。「ちょっとこのところ疲れているな」とか「自分らしくないな」と気づけたら、セルフケアが必要です。
「セルフケアが7割、ラインケアは3割」と思ってください。
これは決してすべて自己責任という考えではなく、「まずセルフケアをきちんとできるように、会社全体で取り組んでいくことが大事だ」という意味です。管理職になったら、部下の健康よりも、部下がセルフケアできているかを心配してください。
「自分思い」の上司の方がうまくいく2つの理由
①セルフケアの手本を示すことができる
そして管理職は、「セルフケアのベテラン」として、その手本を示してください。
「部下のメンタルをしっかりケアしなければ」そんな気負いは、ときに裏目に出てしまうこともあります。上司にできることは、そんなに多くはありません。だからこそ、自分のケアに集中してほしいのです。
健康の常識は時代によって変わっていきます。ただ、職場での「健康」には、一定の理想的な状態があるはずです。安全な労働環境と適切な労働時間内において、仕事にやりがいを持って、いきいきと働いている。プライベートな時間もしっかり楽しめている。そんな状態です。
上司としてその理想に近い姿を示していれば、部下も「いいな、あんなふうに働きたい」という気持ちになり、そのための手段としてセルフケアに注意をするようになっていきます。
②部下目線に立った対策ができる
ただし、「上司だから好きなように仕事量を調節できて、セルフケアに専念できるんだ」と思われないよう、注意が必要です。もしそのような不平等感がある職場なら、上司の健康はただの自慢になってしまいます。
これを防ぐために、上司として仕事の進捗だけではなく、部下がセルフケアできているかどうかもチェックすること。そして、上司という上からの視点ではなく、セルフケアを実践した一人の労働者として、同じ高さの視点からその体験の価値を伝え、部下にもうながすことです。これについてはのちほど詳しく解説します。
難しい立場にいる管理職が、自分たちと同じような状況で、セルフケアをしっかり行い、いきいきと働いていたら、きっと部下たちもついてきてくれるはずです。
部下のメンタルケア、どこまでが「上司の義務」なのか?
とはいえ、多くの人が気にしているのは「安全配慮義務」という言葉。
平成20年に施行された「労働契約法」にはこうあります。
第5条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確
保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
「生命、身体等の安全」には心身の健康も含まれています。そして「必要な配慮」については、労働安全衛生法などの関連の法令で規定されているものはもちろん、そのほか状況に応じて必要な配慮を講じることが求められています。
私は、この法律を無制限に拡大して解釈してしまうことなく、管理職がやるべきことだけに焦点を当てて考えてほしいと思っています。
この安全配慮義務で問題になるのは、「予見」できて「回避」できた危険を放置していた場合です。「このままでは危険」とわかっているのに知らない顔をしていることは、大きな問題となります。
ポイント:部下の不調を早期発見できる姿勢を整える
一方、予見できず、回避できないことは、義務の範疇を外れています。つまり、上司としてやるべきことは、予見できて回避できることにだけ、きっちり対応することです。
不安ばかりが先行して「あれもしなくちゃいけないかな」「これもやっておこうかな」と余計な負担を自分に負わせないようにしてください。上司は自身のセルフケアをしっかりと行って、部下の不調の徴候にいち早く気づくことのできる姿勢を保っておきたいものです。
メンタル不調者対応の際の注意点
さらに管理職は、部下が治療を受けたり勤務時間を減らしたりすることになった際、「どのような仕事配分にするか」「ほかの人たちに不平等感を感じさせないようにするにはどうしたらいいか」を考えましょう。不平等感から部門全体がうまく動かなくなっていく可能性もあるためです。
不調になった人が復帰したとき全員で快く迎えられるようなチームにするためにも、不平等感はできるだけ軽減するようにしましょう。
不平等感を少しでも和らげるためには、「お得感」を与えることが有効です。
不調な人の分まで仕事をしている人は、その分プラスで評価する。給与や昇進、休暇などで調整したり、それが難しければ、夜食や差し入れを提供するなど、小さなことでもかまいません。
どんなことがうれしいかは勝手に決めつけず、チームのメンバー本人から聞いてみてください。
とにかく、「余計な仕事をさせられている」という考えを軽減させること。
「仕事が増えた分だけ、いいことがある」といったプラス面に目を向けてもらえるよう、リードしていくのです。