「エグゼクティブになる人の若々しい顔のつくり方」(著:野々下一美)より
メンズコスメの夜明け
男性用化粧品の歴史は意外に古く、資生堂が1915年に発売した「フローリン」、日本最古の化粧品メーカーと言われている柳屋が1920年に発売した「柳屋ポマード」、1933年に現在のマンダムが発売した「丹頂チック」など、ヘアスタイリング剤で大ヒットを記録した商品がいくつかありました。以来、戦後も通じて男性の化粧品マーケットは、ヘアケア商品、ヘアスタイリング商品が中心でした。
1972年、資生堂が創業百周年を記念して男性化粧品「ロードス」を発売しましたが、ヘアケア・ボディケアに加えスキンケアがラインナップされており、これが男性用スキンケア商品のメジャーデビューともいえるでしょう。
戦後、右肩上がりの経済成長を続けていた日本経済ですが、オイルショックを乗り越えて、70年代後半からは、高度消費社会とよばれるステージに移行していきます。各メーカーは男性用化粧品ブランドを立ち上げますが、やはり中心はヘアケア、ヘアスタイリング商品で、コロン系の香りづけをしたヘアスタイリング剤がヒットしています。
化粧する男
化粧する男は、ミュージックシーンにおいて徐々に出現してきました。1980年代に入ると、YMO、坂本龍一、RCサクセションなどが表れ、89年以降の「イカ天」ブームを経由し、X-JAPAN,LUNA SEAなどのビジュアル系バンドがたくさんのフォロワーを生み出しました。バンドメンバーの性差を超えた「かっこよさ」が若者の美意識を変化させ、髭が薄く、ムダ毛が少なく、日本人離れした顔つきが志向されるようになりました。
これに呼応する形で「BiDAN 」や「CHOKiCHOKi」といった男性美容雑誌が軒並み発刊され、中高生の読者を獲得しました。
その一方で、1987年には朝シャンブームが起き、1990年には男性用デオドラントスプレーが販売され、発売5カ月で100万本を突破する大ヒットとなりました。社会全体が清潔志向へと傾いていきます。
メンズコスメの誕生
男性化粧品でエポックとなったのは、DHCがDHC MENを立ち上げた1999年でしょう。大手化粧品会社は男性化粧品をラインナップしていましたが、その実際をほとんどがヘアケアもしくはヘアスタイリング剤やシェービング関連商品でした。スキンケアとメイクの商品を扱ういわゆるメンズコスメについては、通販会社が圧倒的に顧客を捉えていました。雑誌広告からインターネットへと媒体は変わりましたが、男性コスメにおける通販会社上位の流れは現在まで続いています。
男性コスメの底流は除毛剤
80年代後半にはバブル崩壊がありましたが、青少年を対象にした通販は、ほとんどその影響を受けませんでした。その中でも、除毛剤が通販で大ヒットしているという噂が業者間で流れだしました。ビジュアル系バンドの隆盛と共に、1990年代後半には、一部の若い男性の間で、手、脚や胸毛を除毛する行為が習慣化されていったのです。
男性用の化粧品
DHCが女性用通販で売り上げを急激に伸ばし、化粧品通販というカテゴリーがバブル崩壊後の企業の有力な生き残り戦略として脚光を浴びていました。
化粧品はリピート率の高い商品特性を持っています。耐久性のある商品と違い、日常的に需要の発生する消耗品であること、原材料比率が低く、顧客のデータ分析がしやすく、マーケティングしやすいことも通販向きとされる由縁です。
草食系男子、現れる
2004年頃から草食系男子と呼ばれる人たちが出現します。草食系男子とは次のように定義されています。
「恋愛に縁がないわけではないのに積極的ではない。肉欲に淡々としている新世代の優しい男性のことで、対照的に異性をガツガツと求めるのが(肉食系)とすれば、草食系男子は心が優しく、男らしさに縛られておらず、傷ついたり傷つけたりするのが苦手である」
女性に対して友人以上の感情を有していても、恋人関係に発展しないという特徴があります。美意識やライフスタイルを女性と共有できるというのも大きな特徴でしょう。
この草食系男子の出現は、女性の社会進出とも密接な関係にあるのではないでしょうか。女性が収入を得て自立した存在になるにつれて、必然的に草食系男子が出現してきたのです。2000年以降は女性の社会進出も盛んになり、威圧的な肉食系男子よりも「優しさや見た目の身ぎれいさ」が求められるようになったのです。
男性がメイクする時代に
草食系男子やその友人である女性の間には、性差による美意識の違いがほとんどなくなりました。美容や身だしなみ、ファッション、趣味、嗜好に及ぶまで男女の壁が消え、フラットな視点で語り合える関係であるともいえます。
この世代は、インターネットからの情報取得が旺盛なのが特徴です。この頃から、メンズコスメユーザーからムダ毛を解消するためのコンプレックス解消系の商品(除毛剤など)から徐々に美意識向上のためのファンデーションへの移行が始まりました。
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