「なにもしていないのに調子がいい」(著:森田敦史)より
変えるべき2つの呼吸力
呼吸法とふだんの呼吸の違い
呼吸を、「呼吸法は促すもの」、「呼吸は落ち着くところ」、「基準、ゴールは日常への落とし込み」という3つの視点で考えてみます。
1.呼吸法は促すもの
呼吸法というのは、呼吸のやり方のことです。あえて大きく、深く、早く、強くというようなやり方を用いるのは狙いをもっておこなうものです。自律神経を整える、覚醒する、落ち着かせる、意識を丹田に落とす、さまざまな狙いによってそれに相当する呼吸法が存在します。呼吸法は方法ですので、呼吸法をすること自体がゴールなのではありません。
2.呼吸は落ち着くところ、基準
呼吸法に対して呼吸というのは日常の息づかい、ふだんの呼吸状態です。自分の落ち着きどころ、基準となるものなのです。実際には呼吸法をおこなっても呼吸が変わらないと体は本質的に変わりません。また習慣的に呼吸法をおこなっても、ふだんの呼吸が整っていない場合、体は不調になりやすいのです。
習慣的に呼吸法をおこなっていなくても、ふだんの呼吸が整っていれば、体は不調になりにくくなります。ふだんの呼吸状態は、身体活動だけではなく精神活動の質にも大きく影響を与えます。
3.ゴールは日常への落とし込み
呼吸法は促すもの、呼吸は落ち着きどころであり基準、という発想で考えるとき、呼吸法というのはふだんの呼吸を変えるために存在するということがいえます。呼吸と呼吸法は対極に存在するものです。そこを混同するとふだんも息をスーハースーハーと深呼吸して1日を過ごすという発想になってしまいます。
スタンドを立てた状態の自転車の後輪タイヤを手で楽に回したいというとき、ずっとタイヤに触れて回し続けるでしょうか。1回回してしまえばしばらく回るのではないでしょうか。回転が弱まってきたならば、回転を妨げないようにまた回せばよいのです。
呼吸法というのはタイヤを回す手、タイヤがふだんの息づかいです。始終促し続けたならば、ずっとタイヤを回し続けたならば、タイヤはうまく回りません。疲れてしまいます。促すことはいいですが、始終促していたならば、落ち着きどころがなくなってしまいます。
呼吸というのは呼吸法の促しと、促された結果、日常の呼吸がどのように変わるかということが重要になります。呼吸法を学びの場だとすれば、呼吸は学んだ結果を出すところです。大切なのはふだんの呼吸なのです。
理想の呼吸状態(ニュートラル)をつかみ、その状態に楽にいられるように呼吸法を実践することが、呼吸を整えるという作業です。人間の体は呼吸状態にあった肉体に変化します。つまり息が上がった呼吸状態であると、その呼吸仕様の筋肉、神経、関節になり、その呼吸仕様の動きになります。
理想的な呼吸状態を手に入れると少しずつ、体は新たな呼吸仕様に変化します。ただし以前までの息が上がった呼吸仕様の体の期間が長いほどに変化に要する時間は長くなるのです。ゆえに体を動かし呼吸法をすることによって、新しい呼吸仕様の体に変化することをより加速的に促すのです。
呼吸を仕事のパフォーマンスに活かそうとしたとき、自分の体調を把握、管理できるようになるためには呼吸法だけでは不十分です。ふだんの呼吸状態、息づかいを理解することが重要な要素になってきます。ふだんの呼吸状態が変わり、理解が深まると、そこからさまざまなモノ、コトの本質が見えてきます。
・自分の今を見て、未来の体をあるていど予想できるようになります。
・何が体に悪く何が良いのかがわかってきます。
・健康情報に惑わされることがなくなり、うまく活用できるようになります。
・ノウハウの継ぎ足しではなく、自分の体調管理の中心軸ができます。
・どうすれば壊れ、どうすれば回復するかがわかってきます。
・検査ではあらわれない体の機微を察知できるようになります。
以上のことを精神論ではなく、テクニカルに使えるようになるのです。これらはふだんの呼吸状態、あり方を学ぶからこそできることです。古来から現在に至るまで、何かを極めた人や大きな成果を出した人は、「ふだん」ということを、口をそろえていいます。ふだんの些細な積み重ねが大きな成果を生むのです。些細なことのひとつをとってみれば珍しくも奇抜でもありません。
体でいえば究極、そばにあるものひとつ取るという行為から体質改善は始まっているということになります。ひとついえるのは、ふだんの自分に気を使えない人、些細なことを雑にする人は治りにくいということです。
ふだんの自分に目を向けよう
ふだんの乱れは近年加速されているように感じます。医療技術が発達しても治療法や健康法が増えても、不調に悩む人の問題は複雑化する一方です。ストレッチをする、有酸素運動をする、マッサージを受けるという特別なやり方を探すよりも、もう少し、ふだんの自分に目を向けるということを、大切にしてみてはいかがでしょうか。
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