がんとは、際限なく分裂・増殖を繰り返す異常な細胞(がん細胞)がさまざまな臓器の働きを妨害し、機能不全に陥らせてしまう疾患です。そして、がんが発症する原因は、根本的には「遺伝子の複製エラー」と「悪い生活習慣」のふたつに集約されます(胃がん・肝がん・子宮頸がんなどではウイルスも関与しています)。
正常な細胞は生命維持のための秩序にしたがって成長し、やがて寿命を迎えます。ところが、がん細胞はひたすら無秩序・自分勝手に増え続けるゾンビのような細胞です。
細胞は分裂する際に遺伝子を複製しますが、その際にときどき遺伝子に傷がつくことがあります。多少傷ついても、人体には修復機能が備わっているのですが、何らかの要因により修復できないと複製エラーが起こります。
そして、複製エラーが度重なることによって遺伝子変異(遺伝情報の書き換え)が生じ、がん細胞が生まれてしまいます。
さて、この複数エラーが起こる「何らかの要因」をどう考えるかで、これまで多くの研究者が論争を重ねてきました。
「複製エラーは、タバコに含まれる発がん性物質や紫外線の影響、さらには肥満につながる食習慣や運動不足など、様々な要因によって起こる」とするのが「生活習慣説」です。「いやいや、生活習慣も多少はあるだろうけど、遺伝子変異の多くはランダムに起こるものだよ」とする「単なる偶然説」もあります。
生活習慣が問題であれば努力次第でなんとかなりそうですが、偶然と言われれば運命として受け入れる他ありませんし、予防も無理ということです。できれば「生活習慣説」を信じたいのが人情ですが、これまでの研究では、生活習慣と複製エラーのはっきりした因果関係を示すことができていませんでした。
日本人のためのがん予防法

ところが最近になって、この辺の研究がかなり進展しています。
日本の国立がん研究センターは、「細胞の老化が発がんリスクの要因となるメカニズムを一部解明した」と報告しています。この報告の要旨を簡単に紹介しておきましょう。
細胞が老化すると、遺伝子の傷を修復する能力が低下し、傷が蓄積されることで遺伝子変異が起こりやすくなります。つまり、細胞老化により不安定な状態となった遺伝子を安定させることができればいいわけで、細胞老化を進める要因を減らしていくことががん予防につながります。
逆にいえば、歳をとるほど細胞は老化し、がんの発症リスクは高まります。しかし、ここに希望の光が見えてきました。細胞のアンチエイジングは、がん予防に有効であることが実証され始めたのですから。
「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン」に関する研究に取り組んできた国立がんセンターは、2017年に「日本人のためのがん予防法」をまとめました。
〈日本人のためのがん予防法〉
喫煙… たばこは吸わない。他人のたばこの煙をできるだけ避ける。
飲酒… 飲むなら、節度のある飲酒をする。
食事… 偏らずバランスよくとる。
塩蔵食品、食塩の摂取は最小限にする。
野菜や果物不足にならない。
飲食物を熱い状態でとらない。
身体活動…日常生活を活動的に。
体型… 適正な範囲内に。
感染… 肝炎ウイルス感染検査と適切な措置を。
機会があればピロリ菌感染検査を。
拍子抜けしてしまうほどシンプルで当たり前のことばかりですが、この当たり前がなかなか実行できないのが私たち人間です。
ここに示されたがん予防法は、他の生活習慣病にも当てはまることばかりです。国立がんセンター予防研究グループのサイト(https://epi.ncc.go.jp/can_prev/)にアクセスすれば、最新かつもっと詳しい情報が得られるので、ぜひ覗いてみるとよいでしょう。
『病気にならないカラダを作る健康な数値』(著:猪俣武範)より
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