出典:「デキる人は、ヨガしてる。」(著:石垣英俊、及川彩)
僧侶である私とヨガとの出会い
私の実家は山形にある浄土宗のお寺(母が住職)で、小さい頃からお寺での生活に親しんでいました。
高校卒業後は、自然な選択肢として仏教の僧侶の資格が取れる大学に進学するため、上京しました。
そして大学在学中、通っていたスポーツジムで初めてヨガと出会いました。
その頃(2004年)は、丁度女性の美容を目的としたヨガブームの始まりの時期でした。
私も早速スポーツクラブでヨガを始めました。
ヨガのことを知っていくにつれて、大学で勉強していた仏教の「瑜伽(ゆが)」=「瑜伽行(ゆがぎょう)唯識学派(ゆいしきがくは)」とヨガとの間に繋がりを見出すこともできて、ヨガに大いにのめり込んでいくことになりました。
将来は実家に戻って僧侶になるつもりだったので、ヨガを仏教の裾野を広げるツールにできるのではないか、という考えもありました。
お寺は若い世代の方にどうやってお寺に来てもらうか、という課題に頭を悩ませていて、落語をやってみたり、ライブをやってみたり、様々な取り組みや工夫をしていたりします。
私も、将来お寺でヨガ教室ができたら、お寺をもっと身近に感じてもらえるんじゃないかと思い、ヨガのインストラクター資格を取得してから実家に帰ろうと決めました。
ヨガと瞑想、そして禅
ヨガは古代インドの解脱を目指す自己鍛錬の一つです。
また、瞑想のルーツも、古代インドに遡ります。今から約2500年前、お釈迦様はブッダガヤの菩提樹の下で瞑想をして悟りに至ったという話は有名です。
瞑想は心を鎮める手法の総称で、Meditation(メディテーション)という言葉が日本に伝わってきた時に、国内で広く認知された言葉だと思います。
瞑想は古代インドの言葉でディヤーナといいます。ヨガのバイブルである約2000年前に編纂された『ヨーガ・スートラ』を読んだことのある方はご存じかと思いますが、ヨガのゴールに至る一つ前の段階です。
『ヨーガ・スートラ』の中では、このディヤーナの質を上げるためにアーサナ(ヨガのポーズ)を行うと位置付けられています。
ディヤーナという言葉はインドから中国、中国から日本へと、仏教が伝来した時に「禅那(ゼンナ)」となり「禅(ゼン)」と音写され日本に入ってきました。
つまり、禅=瞑想であり、日本において瞑想は決して新しいものではなく、仏教伝来のものなのです。
紀元前5世紀ごろ、お釈迦様が仏教を開きましたが、お釈迦様もディヤーナ(瞑想)を取り入れて、悟りを開いたのです。
マインドフルネスと仏教
マインドフルネスはパーリ語でサティ、日本語では「気づき」または「念」と訳されています。
念という漢字は「今」に「心」と書きます。
今この瞬間に意識を集中させ、ありのままを観察するというものです。
マインドフルネスは、マサチューセッツ大学名誉教授のジョン・カバットジン氏が1979年にマインドフルネスセンターを設立し、仏教の瞑想、坐禅を元にマニュアル化したもの、宗教色を排除した心のエクササイズとして確立しました。
また、べトナムの僧侶ティク・ナット・ハンも約20年前より沢山のマインドフルネス関連書籍を出版しており、瞑想ブームの火付け役として知られています。
お釈迦様も瞑想を取り入れて悟りを開いたと書きましたが、お釈迦様が悟りを開いた後、初めて説いた教え(初転法輪)に、「八正道」があります。
ヨガの八支則とも似ているのですが、人生の苦しみから抜け出す「8つの正しい道」という意味です。
八正道とは、
①正見=正しいものの見方
②正思惟=正しいものの考え方
③正語=正しいことば
④正業=正しい行い
⑤正命=正しい生活
⑥正精進=正しい努力
⑦正念=正しい念おもい
⑧正定=正しい心の統一
の8つの徳のことをいいます。
マインドフルネスは、仏教が教える人生の苦しみが消滅し、涅槃(ねはん)に達するための8つの正しい修行「八正道」の一つである「正念」に由来します。
この「正念」の良いところを取ったものが、マインドフルネスだといわれています。
それぞれが支え合い、現代に息づくもの
仏教に「大安般守意経 (だいあんばんしゅいきょう)」という経典があります。
これは、パーリ語で「アーナパーナ・サティ」といいます。
アーナは「吸う息」、パーナは「吐く息」、サティは「気づき」という意味です。吸う息と、吐く息。それに気づくということ。
一方、ヨガにも『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』という経典があります。
この経典では、アーサナ(ポーズをとること)から教えが始まります。
瞑想や心の鍛錬は難しいもので、誰もがすぐにできるものではありません。
先人は、私たち人間の弱さを認めていました。だから、体を通して「今」に気づくことから始める教えが広がったのです。
ヨガは「動きの瞑想」といわれますが、ポーズをとることによって、今に気づきます。
動いている最中は今に集中していて、雑念のつけ入る隙間がありません。自分の動きや感覚、呼吸に集中します。その連続がヨガです。
ある人にとって「ヨガ」は、スタイリッシュでイメージの良いエクササイズであるかもしれません。
その人にとって「仏教」は、古臭くて敷居が高く、よくわからないものであるかもしれません。
そして「マインドフルネス」は、科学・医学的根拠に基づいた信頼に値するものかもしれません。
ただ、瞑想はヨガの一部であり、仏教は瞑想の中から誕生しました。
そして、マインドフルネスは仏教の瞑想を元にして生まれています。
つまりこれらは昔から繋がっていて、お互いが支え合いながら、現代に息づくものなのです。
現代に生きる私たちの大半は、ヨガの目的とする「解脱」を目指しているわけではありません。
ただ、ヨガには先人の智慧が詰まっています。
そして、それを体感として感じ取ることができます。
自分、そして自分を取り巻く周囲や社会との関係を円滑で心地良いものにするため、私は多くの方々に「ヨガ」の智慧を取り入れてほしいと思っています。
尼僧/ヨガインストラクター。大正大学人間学部仏教学科卒業。大本山増上寺にて頭を丸め修行をし尼僧となる。2006 年より自坊である山形県浄土宗誓願寺の副住職をしながヨガ指導を開始。米国ヨガアライアンス認定 [RYT500] 保持インストラクター。アンダーザライトヨガスクールにて入門クラス、陰陽ヨガ、講師養成講座を担当。ヨガイベント「オーガニックライフ TOKYO」「ヨガフェスタ」出場。浄土宗青年会「命輝きてらこやフェスタ」など日本各地でお寺ヨガを開催、公益財団法人仏教伝道協会にて「仏教ヨガ講座」を開催。その他 TV・CM・雑誌などポーズ監修出演多数。ブログ:http://yuuka.blogspot.jp/
『デキる人は、ヨガしてる。 (Business Life)』 (クロスメディア・パブリッシング) |