「舌先」の感覚を研ぎ澄ます
——「舌」ではなく「舌先」で感じる?
舌先、つまり舌全体の3分の2にあたる部分は、感覚器官が特に発達していて、味覚をより強く受け取れるところです。むしろ舌先以外、舌奥の神経は運動や知覚にも通じているため、かえって味覚を感じにくくなっています。本当に食べ物を味わおうと思ったら、「舌全体」というよりも「舌先」で味わうことがポイントです。
舌先で味わい、味覚に最大限フォーカスしていく方法を覚えると、自分を客観視できるようになり、食欲が落ち着いていきます。ひとくちで感じる美味しさと幸福感が格段に上がるので、お腹と同時に心も満たすことができます。これが、「量で満腹ではなく味で満足する食べ方」です。
それから、舌先にものをあてて食べると、噛む回数が圧倒的に増えるんです。試しに、次のステップをやってみてください。
①唾を口の中に溜めて、舌の様子を観察してからごっくんと飲み込む。
(このとき、その舌の動きを覚えておく。)
②今度は舌先を前歯で噛む。
舌先が動かないように固定し、そのまま唾を飲み込む。
1と2を比べてみると、2のほうが唾を飲み込みにくく感じませんでしたか?
何かを飲み込むとき、私たちの舌は勝手に奥に引っ込むようにできています。これは小さい頃から何万回と行ってきたことで体に染み付いた無意識の動き。とくに意識せずとも自動的にそうなってしまう、クセです。
食べ物を口に入れたらすべて飲み込む、という無意識のクセが、味わう機会を損ない、食欲を暴走させる原因をつくっているのです。
舌先に食べ物をあてて食べるように意識することで、この悪しきクセを治すことができます。なぜなら、舌先で食べ物を味わおうと意識することで、舌先が自然と前に伸び、それに合わせて舌の奥の部分も一緒に前に伸びるために、食べ物を飲み込めなくなるからです。
以下のようなステップで食べてみてください。
①食べ物を口に入れて奥歯で噛んだら、
②すぐに舌先の方に持っていく。
③そして、舌で味を感じながら食べ続ける。
決して歯の動きを止めろというのではありません。「舌先に食べ物があたっているな」ということを感じながら、食事を続けます。
実際にやってみると、ひとくちで食べ物の味がふわーっと広がっていくのがわかると思います。だいたいの方が、「今までと同じものを食べているはずなのに、ごはん1杯、米1粒が、格段においしく感じる!」と驚かれます。舌先にものをあてて食べると、唾液と食べ物が混ざるため、味の濃さや旨味をより強く感じるなど、食事の度に新しい発見ができるようになるのです。
この工程がなく口の奥だけで食べ物を咀嚼していると、食べ物が唾液と混ざらないので、塊のまま飲み込むことになります。「しっかりおいしく味わった」という満足感を得られないばかりか、固形物が喉を通過していく感覚が飲み込む快感を増大させ、食べることがやめられなくなってしまうんです。
「胃」の重さと温度を感じる
——しっかりと満足感を得られることが大切なんですね。
心を満たす「味覚」の部分は舌が担いますが、体全体の満足感を担うのは「胃」ですね。食べものの持つ重さと温度によって、満足感のサインを出してくれます。胃は特殊な内臓で、感覚によって体の要求を伝える力が強いんですよ。空腹になったら「お腹減った」、満腹なら「もういらないよ」、っていうサインをしっかり出してくれるので、その感覚をいかに感じ取るか、ということが非常に重要になってきます。
寒い中で温かい飲み物を飲むと、胸の下で温かいものが止まる感覚があると思います。すぐにさーっと流れていくのではなく、一旦ぽかぽかしますよね。そこが胃の底なんです。だから、まず「胃はここなんだな」というのを感じてください。
それがわかってくると、食べものによる重さや温度の違い、「この食べものはほかと比べて胃で重くなるな」「あたたかくなるな」といったことがわかるようになります。胃の中で熱さや重さを感じやすいもののほうが、少量で満足感を得られますね。
たとえばホットティーとホットミルク。どちらも温かい飲みものですが、胃の中に入ると反応が全く変わってきます。ホットティーはすぐに胃の中で冷えてしまいますが、それに比べてホットミルクはずっと温かいんです。たとえ飲むときは温かくても、胃の中で冷えてしまったお茶は不快感を出してきますので、更に何かを胃に入れたくなってしまうことがあります。けれどホットミルクは長いあいだ胃を温かくしてくれるので、それだけ満足感を持続させてくれます。
食材によって温かくなりやすいものや冷えやすいもの、重さを感じやすいものがありますので、いろいろ試していただきたいです。