「残業は多いものの、大した成果もあげられていないような。」「最初は優しかった先輩も最近厳しい気がする。」「自分より優秀そうな新卒社員が入ってきてなんとなく肩身も狭い。」
などなど、つい物事を悪い方にばかり考えていませんか?
あなたが、そんな悲観的な自分自身に嫌気がさして悩んでいる場合、ネガティブ思考の負のスパイラルにはまっているかもしれません。
そこで、この記事ではネガティブ思考を解消するメソッドとして注目されている「エクスプレッシブライティング」について紹介していきます。
ネガティブな考え方、やめたいのに止まらない理由
「クヨクヨしてないで前を向こう!」「ポジティブに生きた方が楽しい。」などとアドバイスをもらったり自分に言い聞かせてみても、気分が沈んでいる時はそう簡単にポジティブ思考に切り替えられないものです。
それもそのはず、人の性格や思考のクセは環境や体験だけでなく、ある適度遺伝で決まっています。
また、ミシガン州立大学のジェイソン・モーザー氏らの実験では、悲観思考の人にもっと楽観的に考えるよう指示すると、彼らの否定的感情を悪化させてしまい逆効果であると明らかになっています。
負のスパイラルに陥らないために必要なこと
では、ネガティブ思考を改善したい人は一体どうしたらよいのでしょうか?
ここで重要になるのは、ネガティブに考えてしまう自分を責めずに、抱いてしまったマイナス感情をしっかり消化できる方法を持つことです。
「自分のことをマイナスに考えすぎる」
「早々にうまくいかないと決めつける」
「他人の気持ちを深読みしすぎる一種の“被害妄想”がある。」
「現状がいつまでも変わらないと思い込む」
などの思考パターンには要注意です。過度なマイナス思考が続くと、活力の低下や物事の先延ばしを引き起こし、「何もできない自分」を責めてネガティブ思考を悪化させてしまいます。
ビジネスパーソンは毎日様々なストレス要因に出会います。そのような中で「落ち込むな」「イライラするな」は無理な話ですよね。自分がネガティブ思考だとしても、「うつ気分の連鎖に入り込まないためにマイナス感情をため込まない」という意識が大切なのです。
エクスプレッシブライティングとは?
ネガティブ思考へのアプローチ法の一つに、習慣的にありのままの感情を紙に書き出すという方法があります。
アメリカの社会心理学者ジェームズ・ペネベーカ―氏は、ストレス解消やうつ症状緩和のメソッドとして「エクスプレッシブライティング(expressive writing)」を提唱しました。日本語では「筆記開示」と表されます。
紙に書くだけで気分や体調が改善!?
ペネベーカー氏らの実験によると、「1日15分、ネガティブな感情について筆記すること」を4日間続けると、(筆記直後にはネガティブな感情が強まるものの、)長期的にはポジティブになることが示されています。実験から4ヶ月後、「自分の感情について書いた被験者」と「部屋の様子など、表面的な事柄だけを書いた被験者」を比べると、前者は気分・感情の改善が認められ、更に体調不良の日数や健康センターへの訪問回数が明らかに少なくなっていたのです。
ワーキングメモリを向上させる効果も
日本においてはワーキングメモリに対するエクスプレッシブライティグの影響を示した研究結果※1が報告されています。
研究では、被験者に「最高な将来の自分」「精神的に傷ついた体験」「些細な話題」について20分間書くようにランダムに割りあて、1週間後と5週間後の2回フォローアップセッションを行いました。
結果、「最高な将来の自分」と「些細な話題」についての筆記では被験者のワーキングメモリに影響が無かったのに対し、「精神的に傷ついた体験」を筆記した場合ワーキングメモリが向上できることが示されました。
効果的にエクスプレッシブライティグを実践するポイント
①3〜5日連続で、1日20分〜30分行う
『筆記開示法の利用意欲を促進する要因の検討』※2によると、筆記開示法(エクスプレッシブライティング)は、「具体的な手続きとしては,自分のストレス経験に関する思考・感情を3‒5日間連続で各日 20‒30分程度筆記する」とあります。
②正しく綺麗に文章化しなくてOK
文章を30分近く書き続けるのはハードルが高いという人もいるかもしれませんが、エクスプレッシブライティングは人に見せるもので無ければ、日記でもありません。あくまでも自分の感情を書き出す手段なので、無理に正しい文章にまとめようとせず、書けないと感じたらその日は終わりにしましょう。
③自分の感情を分析する
エクスプレッシブライティングでは、洞察に満ちた表現、つまり「思う・感じる・わかる」などの思考や理解に関する語を多く用いるほど、嫌な出来事からポジティブな心理への変化が促成されることもわかっています※3。
最初のうちは難しいかもしれませんが、自分の考えや感情をより深く掘り下げて書きましょう。「〇〇の言葉に言い返せずに悲しくなった。」「今日はイライラしっぱなしだった」と書いたら、なぜ反論できなかったのか、イライラしたのはどんな場面か、という風に自分の感情を分析してみてください。思いの内が見える化されることで、気持ちの整理もつきやすくなります。
ただし、あまりに深刻なトラウマは反対に精神的ストレスを増幅される恐れがあるため、無理に書き出す必要はありません。
④ふて寝NG!気分転換をしてから就寝する
そして、寝る前に行う場合には、一通り書き出した後に自分の好きなことをして気分を上げてから眠りにつくようにしてください。
これはエクスプレッシブライティングをしない場合でも、ネガティブ感情と付き合う上で心がけたいポイントです。
仕事から帰宅しても嫌な気持ちが続いて悶々とする。そのような日は寝て忘れようとそそくさと布団に入ってしまいがちです。しかし、記憶は睡眠によって定着するため、ネガティブな気持ちのまま寝てしまうのは、イヤなことを忘れるどころかむしろ記憶として強く定着してしまい逆効果です。ストレスが溜まったままでは、寝つきが悪くなり、睡眠の質を低下させる原因にもなります。
ですから、職場や家庭で嫌なことがあった日、またはエクスプレッシブライティング後は、なにか楽しいこと・うれしい気持ちになることに触れてから眠ることが大切です。とにかく、好きなお笑いやかわいらしい動物の動画を見るなどして楽しい気持ちになってから眠りましょう。
ネガティブ思考は“治す”ものじゃない!上手にコントロールしよう
ネガティブ思考であることで、「物事に慎重でリスク回避ができる」「他人の気持ちに気づきやすい」などのメリットもあります。ネガティブ思考は治すべきだと思い込んで無理にポジティブになろうとはせず、自分の中の負の感情が悪化しないようにコントロールしていきましょう。
エクスプレッシブライティングについてはこちらの記事もチェック
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■出典・参考文献
・堀田秀吾『科学的に自分を変える39の方法』クロスメディア・パブリッシング 2019
・厚生労働省『うつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料)』:
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/04.pdf
※1「Working memory capacity can be improved by expressive writing: a randomized experiment in a Japanese sample」https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18230236/
※2「筆記開示法の利用意欲を促進する要因の検討 」:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsre/28/1/28_19-018/_pdf
※3「Effects of expressive writing and use of cognitive words on meaning making and post-traumatic Growth」: