世界中をめぐる著者が、現地の健康情報を毎週お届けします。
アフリカを南下中の無期限ノマド夫婦です。
そろそろ赤道の尻尾が見えてきた……、そんな気がします。
先日、我が家の軽自動車がパンク。通りかかったタクシーが、「頼みもしないのに」直してくれました。しかも無料で。お客さんを待たせて。
どっから見てもチンピラ・マフィアなお顔立ちでしたが、金なんかいらねーよとか言いながら去ってゆく漢(おとこ)の背中。
軽く、惚れました。
妙に黒い肉だと思ったら……
世界で74位の国土面積をお持ちながら、知る人ぞ少ない存在感の薄い国、ブルキナファソ。
75位は、かの有名なニュージーランドです。
コートジボワールからブルキナファソへ抜ける国境は、のんきな佇まい。アフリカだというのに、一銭の賄賂もせびりません。
青年なんだか、爺さんなんだかさっぱりわからないお顔の係官が言ったのは、
「車か奥さん、どっちか譲ってよ」
ごめんなさい、車は愛着があるので無理。
妻は……、返品不可です。
国境にほど近い町、ボボ・ディウラッソ。
ボボ族が住みジュラ語を話すという、行っても大丈夫なのか的な辺境ですが、同国第2の都市です。
住宅街は、車が6台も並走できるくらい道が広いものの、赤土がむき出した未舗装。そこかしこに巨木がそびえ、ジャングルを強引に宅地化したような大雑把感。
鉄道駅に近づくと道が狭くなり、市場をぐるりと散歩すると、妙に生臭い一帯がありました。
路傍に並んだ、青空肉屋の一群。
惨殺死体のごとく積み重なった、肉の塊。
やけに肉が黒いなと思いながら近づくと……。
ぶおんっと、魚影のように舞い上がった黒い影。
ハエです。
思わず内股に構えるほどのハエの大群ですが、それより恐ろしいのが、一向に気にしている風のない肉屋のおおらかさ。人間の大きさ。
第2の都市とはいえ世界的には田舎町ですから、衛生とか気にしないのかもしれません。
首都のワガドゥグーへ行けば、ハエもおとなしくなるかと期待したものですが、ほぼデジャブ。
今まで100カ国くらい旅をして、たぶんその半分以上が冷蔵庫のない吊るしの肉屋だったと思うのですが、ブルキナファソのハエが市場最強です。
ベジタリアンになりたいです。
親がナニでも、子はドクター。
たとえ肉がハエだらけであろうとも、ブルキナファソの皆さんはお元気です。
ということは、ハエは意外にも清潔かもしれないと油断したものですが、そんな甘い奴らじゃありません。
腐ったものや糞便を触った汚い手足で、食べ物の上をずかずか歩き回るのですから、立派な害虫。通称「運び屋」。
ポリオウイルス、赤痢菌、サルモネラにとどまらず、流行りの大腸菌O157やトリインフルエンザと、取り扱いバイ菌は豊富です。
よく考えたらウジは腐った肉に湧くので、生まれからして不潔な奴ら。と思ったら、真実は意外に想定外。
ウジはハエと違って、害虫どころか、医者だったのです。
というのもウジの好物は、死んだ細胞(壊死組織)だけ。生きている細胞は食べません。
しかもヨダレには殺菌効果があり、組織の再生を促します!
つまり死んだ細胞を食べて、バイキンを殺し、傷を早く癒す一石三鳥の効果。
これで一儲けできるかもしれんと目論んだら、すでにありました。「マゴットセラピー」という治療法が。
傷口にウジを置いて、あとは彼らの食欲に任せるだけ。
見た目はそうとうグロいのですが、ドクター・ウジは、数千年前から伝わるオーストラリアやミャンマーの伝統医療。日本では、保険外診療です。
よんどころない事情でご自身で試されるときは、ヒロズキンバエをお探しください。
メタリックグリーンに輝く、キンバエです。
ところでブルキナファソ人ですが、決して衛生観念がないわけではありません。
バーではビールを飲む前に、ビールでコップを洗うほどのきれい好きです(←実話)。
ハエに弄ばれた肉を食べて平気なのも、しっかり焼きのウェルダンでバイ菌を完全焼却しているからです。
そのため、屋台の焼肉は少しカリカリのお焦げ付き。
中にもしっかり火が通っていて……、しっかり……、えーと、ぜんぜん赤いんですけど?
血ぃ出てますが……、見ているだけで痛くなってきたお腹です。
デザイナー。1965年、北海道旭川市生まれ。札幌で育ち、東京で大人になる。出版社勤務、デザイン事務所、編集プロダクションなど複数の会社経営の後、2005年4月より建築家の妻と夫婦で世界一周中。生活費を稼ぎながら旅を続ける、ワーキング・パッカー。世界中の生の健康トレンド情報をビジネスライフで連載中。