世界中をめぐる著者が、現地の健康&食べもの情報を毎週お届けします。
ジンバブエのスーパーマーケットで、珍しいモノを見つけました。
せせり。
ご存知ですか?
筆者の初体験は6年前、オーストラリアのケアンズ。まったく勝手がわからず、こ、こ、こ、こうですか、あれれれ、あーですかと、苦心惨憺した甘酸っぱい思い出です。
当時のブログを見ると、宿の青年に
「せせりをせせってください」と頼まれ、
そもそも「せせり」すら知らないのに、『「せせり」方をググったけれど、わからない』と嘆いています。
「せせり」のせせり方は、Googleですら一切の情報がなかった極秘情報。
なぜそんな秘技をこの青年は知っているのかは置いといて、彼いわく
「簡単です、せせるだけですから」
ヒントにもならないサ行変格活用。完成形を見たこともないのに、初せせりに挑戦したわけです。
ブログによると、
「包丁を押したり、ひいてみたり」
「立ててみたり、寝かせたり」
「はさみを使ったり、裏返したり」
四苦八苦の試行錯誤。
しまいには、「肉がぼろぼろに崩れました」とありました。
せせり……。
最初っからその意味を知っている読者もいるだろうに、ずいぶん長くひっぱりまして申し訳ありません。
正体は、鶏の首の肉です。
焼き鳥業界では「ネック・こにく」とも呼ばれ、1羽から20~60gしかとれない貴重品です。
今ではすっかり市民権を得たようで普通に通信販売で買えますが、肉屋がせせってから売っていますね。Google先生は未だに、せせりのせせり方をご存知ありません。
せせるとは、首の骨のまわりの肉をつついてほじくり出すことです。そして、せせられた肉を「せせり」と呼ぶのです。
所詮、肉ですから、形があやふやで触ればぐねぐね。骨もまた複雑な構造で、予定通りに包丁の刃は進まず、そうとう難しいです、せせり。
焼き鳥王国の日本ですら、会得した職人は少ないんじゃないかと身びいきに考察しております。
当時のブログは、次のように締めくくっていました。
『どこに才能が隠れているのかわからないもので、なんだかんだと最後には「せせり」を取得せり』
せせりは、串に挿して焼き鳥として食べるのが一般的です。
もも肉より脂身が多く、高カロリー。
鶏の首は始終前後に動いているからか、筋肉にみなぎるスペシャルな緊張感。歯ごたえにコシがあります。
噛めば噛むほど、じわじわっと味が滲み出るのです。
ジンバブエでのせせりのお値段は、10本で150円。
骨つきなので、ぜひ、せせってからお楽しみ下さい。
そういえばアメリカの話ですが、首をハネられた後、18ヶ月間も生き続けた鶏がいます。
首がなくてもなんとかなるようです。
リストラに遭いそうな諸君、せせりを食べて頑張りましょう!
デザイナー。1965年、北海道旭川市生まれ。札幌で育ち、東京で大人になる。出版社勤務、デザイン事務所、編集プロダクションなど複数の会社経営の後、2005年4月より建築家の妻と夫婦で世界一周中。生活費を稼ぎながら旅を続ける、ワーキング・パッカー。世界中の生の健康トレンド情報をビジネスライフで連載中。